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第2話

また別の日、開店からしばらく経った頃、デシャップに愛斗が料理を置いた時のこと。 ホールで、女性スタッフの鈴木がお客と話をしているのが見えた。 なにやら雲行きが怪しいようだ。 気になり様子を見ていると、柳田がフォローに入ったので安心したのだが…。 それもつかの間、お客はなかなか引く様子をみせようとせず、声を荒げている。 こうしてはいられないと感じた愛斗は、自分が出ていくことにした。 「ちょっとごめん、ホールに出てくる」 店に来て二年になるスタッフの磯崎に告げると、愛斗は慌ただしそうに厨房から出ていった。 件のお客は、五十代くらいの男性で一人で食事に来ていた。 彼は、鈴木や柳田に何かを訴え続けている。 他のお客たちは、心配そうに様子をうかがっていた。 「お客様、どうされましたか?」 愛斗が静かに近づいて声をかけると、鈴木は心底ホッとしたような顔を見せた。 柳田も少し驚いたようで、目を丸くしている。 愛斗がホールに出てくるとは思っていなかったのだろう。 「お前は誰だ?」 少し不遜そうな物言いだったが、愛斗は意に介さずに答えた。 「当店のシェフ、桜木と申します」 「なんだ…話には聞いていたが、こんな若造がシェフなのか…」 お客がいかにも不満そうな顔を見せると、柳田が口を開いた。 「お客様、桜木シェフは確かに若いですが、料理の腕は一流です。国内最高峰のコンテストにおいて、準優勝したほどの力があります」 「へぇ…それは面白い。本当かどうか、確かめさせてもらうよ」 お客は、試すような目を愛斗に向けてくる。 「…承知いたしました。ところで、何か不手際などありましたか?」 「実は俺、トマトもにんにくもダメ、あとチーズも無理なんだわ。それ抜きにして、美味しい料理を食べさせてよ」 それを聞いて、愛斗の頭の中は怒りと呆れがないまぜとなった。 『それじゃあイタリアンにもならないじゃないか!!何のためにウチに来たんだ!?』 そう思った愛斗だったが、何とか心を落ち着かせて考え込んだ。 パスタはトマトかクリーム系になるし無理、ピザにしようかと思ってもチーズが無理なら出せない。 それならば、オリーブオイルとハーブを使った魚介ベースのパスタはどうだろう。 レモンや白ワインで味をまとめれば、きっとさっぱりとして美味しくなるはずだ。 「それでは、お客様に特別な料理をご用意しますので、お待ちいただけますか」 「シェフ…」 傍らにいる柳田は、心配そうな顔をしている。 しかしせっかく来てくれたお客様だし、満足して帰っていただきたい。 愛斗は、ここがシェフの腕の見せどころだと感じていた。 そして彼は、柳田に”大丈夫”と目で合図をした。 「メニューにないものが作れるのか?」 渦中のお客も半信半疑のようだ。 「えぇ。きっと、お客様に納得していただけるかと…」 「ふん。そう簡単にいくかね。まぁいい。お手並み拝見といこうか」 随分と威張り腐ったお客だなとは思ったが、愛斗はグッと堪えた。 「それでは、しばらくお待ちください」と言って、有能なシェフはその場を離れた。 この客に出す料理を作るためだ。 『さぁ、どう調理しようか…』 愛斗は久々に闘志を燃やしたのだった。

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