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五十一 不意打ちの告白

「紫苑さん、まだ苦しい?薬を作ってあげようか?」 修良に距離を置かれたのを感じ、幸一はぼんやりと紫苑の世話に戻った。 紫苑は布団の中に隠れて、細い声で幸一に返事する。 「……幸一様、お願いがあります……これ以上、おのれに構わないでください」 「えっ、どうして!?」 「おのれは、とても弱いです。兄弟子様のご機嫌を損なうような事になったら、おのれは、きっと消滅されます」 「何を言っている!先輩はそんなことをするはずが……」 「いいえ、あの方は、怒っています!」 紫苑は力を絞って、強く主張した。 「お願いです、おのれはお二人の中に入るつもりがない、とあの方に伝えてください!」 「そ、それは一体どういう……」 幸一は更に訳が分からなくなった。 「あの方は、幸一様の恋の相手ですね」 「はああ!?」 いきなり過ぎな話で、幸一はびっくりした。 「あの閻婕妤に狙われる人は、皆、顔がよくて、魂に刻まれるほどの恋を持っている人です。お二人のやり取りを見れば分かります……」 「なんで紫苑さんまでそんな話をするの!」 「事実ですから……幸一様は気付いていないかも知れませんが……幸一様は、あの方を見る目はとても輝かしい、とてもやさしいものでした。あの方に触れられた時に、顔が赤くなって、全身の気配も柔らかくなりました」 「そ、それは……幽冥界で見た幻像を思い出して、幻像の先輩は変なことをしたから……!」 あの幻像を思い出すと、幸一はまた耳まで昇る熱さを感じた。 「幻かどうか関係ありません、幸一様のはあの方に好意があるのは事実です。おのれは弱いから、人の心への察しはとてもいいです」 (さっきまで自分のことを卑下していたのに、なんでいきなりこんなに自信を持つようになった?) 幸一は紫苑の思考回路を理解できなかった。とにかく、もう一度怯える紫苑を慰めた。 「俺と先輩は家族のような関係で、一緒にいるのが心地よいだけだ。さっきいきなり赤くなったのは、幻像の余韻のせいだ。本物の先輩は俺にそんなことをしないし、俺も変なことを考えていないから……二人の関係で紫苑さんにご迷惑かけることはないよ」 そう。 本物の修良は自分との接触はいつも心地よく、親しい距離に止まっている。 時に冗談やいじわるをするが、決して「仲良し」を越えるようなことをしない。 そう思うと、心を躍らせる温度が一気に冷めたような感覚がして、妙に寂しさを覚えた。 「幸一様のお気持ちは、おのれが口を出すようなことではありません。ですが、助言をさせてください。幸一様は気楽な気持ちであの方に向けているのだとしても、あの方の気持ちは決して軽いものではないでしょう。気を付けないと、幸一様は傷付けられるかもしれません、どうか、お心掛けください」 「……」 (無理か……) 幸一は諦めた。 (先輩と距離が一般の弟子兄弟より近いのは認めるよ。でも、それも先輩が小さい頃から俺のお世話をしていて、俺は先輩の体調に気を付けていて、お互いに支え合っているからだ。別に、世間がいう恋人関係じゃないんだ……) (そもそも、仙道を修行する人は恋をするのは、あまり聞いたことがない。感情に関する雑念は修行の邪魔になるから。先輩もきっとそんなことに興味がないんだ。) いろいろ思っているうちに、幸一はまた気持ちの沈下を感じた。 (そういえば、さっき先輩はどうしたの?ひょっとして、俺がいきなり手を引いたから、俺は悪鬼のことが気になると誤解したのかな……) (口にしないけど、先輩も紫苑さんのように、自分の原形に気になっているのかもしれない……だめだ!先輩に伝えないと!) 恋とか妙な誤解より、修良先輩のほうが先だ! 幸一は急いで修良を探した。 その時、修良は旅館の茶室でお茶を用意して、二郎と話をしていた。 「二郎さんがついているというのに、どうしてあんな怪しいものが付いてきたのかな?」 「わ、わたしも知りません!幽冥界から連れてきたってお坊ちゃまが仰って……幽冥界のことは、わたしのような一般人が知ろうとも知る術がありません!」 修良はいつも以上の温和な態度で聞いたら、二郎の冷汗が三倍も増した。 「では、幽冥界で何があったのか、幸一から詳しく聞きましたか?」 「ざっくり聞いたけど、わたしは霊的なのことがよく分からなくて、お坊ちゃまに聞いたほうが早いかと……」 「幸一は今あの怪しいものの世話に忙しいから、邪魔したくありません。二郎さんから教えてくれませんか?」 修良の笑顔の輝きが更に増して、二郎は逆らう勇気を失った。 「は、はい……」 「なるほど、幸一のお父様のことか……」 修良は驚くこともなく、二郎の話を聞き終わった。 (もう用済みだから、玄誠実のことを完全に忘れた。今回は、私の不慮だな……) 「で、その紫苑という怪しいものについて、ほかの何かを知っていますか?」 「いいえ、紫苑さんについて、詳しく聞いていません……ただ、怨霊の手から助け出した魂だとお坊ちゃまはおっしゃいました」 「フン、よくも自分のことを『魂』だと言えるな」 鋭い視線を二郎から逸らして、修良は独り言を呟いた。 「あの、修良さん、わたしは、もういいですか?ちょっと、土地売買の処理に戻りたいですが……」 やっと標的から外れた気がして、二郎はさっそく逃げる言い訳を付けた。 「分かりました。二郎さんは仕事に戻ってください。幸一のお父様のことは、私が解決します」 修良は二郎より先に席から立ち上がった。 「えっ!?ど、どうやって!?」 「幽冥界のものに『相談』します」 (やばい、これは絶対やばい相談だ!旦那様が危ないかも!!) 直感の優れた二郎だから、すぐ修良のやろうとすることの危険性に察した。 それでも、彼には修良を止める力がなく、見送りしかできなかった。 「先輩!」 修良が個室を出ると、後ろから幸一の呼び声がした。 「……」 (さっきは大人げないことを言ったな、いつもの様子に戻ろう。) 修良は考えことをして、振り向くのが半歩遅かったら、 幸一のほうが走り出して、後ろから修良に抱きついた。 「!!」 修良は驚愕で動きもできなかった。 「ごめん、先輩!先輩の治療を断ったのは、触られたくないじゃない!先輩がいないと俺は嫌なんだ!」 「体の修復は大変だっただろ?ちっぽけな傷に霊力を浪費させたくない!」 「でも、たとえ体が修復されなくても、先輩は先輩だ!どんな姿でも、俺は先輩が好きだ!」 「――!」 修良ははっきり見える。 幸一が自分の胸に巻きついた手に、自分の心と連動する印が光っている。 彼の心臓の鼓動が高ぶっている。 「……」 しかし、修良は返事に困った。 (……) (なぜ、こんな反則な打ち方……) 「で、でも、別に、魂に刻まれるほどの恋とか、そういう意味の好きじゃない!先輩まで誤解しないでください!」 「……」 修良がその「告白」に返事を出す前に、幸一はその線を切った。 ほっとしたのと同時に、修良はちょっとがっかりした。 小さくため息をついてから、いつものようなやさしい先輩の表情で、幸一に聞き返した。 「分かった。誤解しない。でも、『魂に刻まれるほどの恋』、それはなんだ?」 二人が修良の部屋に入って、幸一は閻婕妤の一件の経緯を話した。 「閻羅王の姪で、地鳴国皇帝の婕妤の怨霊、恋を食っている……プッ」 何処かデタラメみたいな「設定」を聞いて、修良は思わず吹いた。 「笑わないでください!本当に凶悪だった!弱弱しく装って、先輩の幻をひどい形で利用して、俺を混乱させようとした。さっき、いきなり手を引いたのも、あの幻像の余韻があったから……」 「ふん~どんな幻像だった?」 幸一の顔に微熱があがったのを見て、修良も気になった。 「……えっと、どう話せばいいのか……あった!」 言葉で言うのがちょっと変だと思うので、幸一は実際の行動で表現することにした。 幸一は布団を棒に巻いて、自分の外着を布団に着せた。 「この布団を俺の体で、枕を俺の頭だと思ってください!」 「まずは、こうして――」 「それから、こうで、後は、こんな感じかな……」 「……」 幸一の再現が下手だけど、修良はなんとなく幸一がされたことを理解した。 いいえ、幸一がされたことよりもっとひどい方向で理解した。 まだ笑顔を維持しているが、身に纏う気配は完全に破滅そのものだった。 「なるほど、だから幸一は私を警戒したのか」 「いや、警戒じゃなくて、ただ……」 修良は固まった笑顔で窓を開けて、一度咳払いをした。 すぐに、巨大な爆雷の音が響いた。 「や、山が割れたぞ!!」 「ああ、なんと恐ろしい!」 人々の悲鳴も届いた。 「竜巻に爆雷?高原の天気って随分変わるものだな……」 幸一は戸惑った。 修良はゆっくりと窓を閉じて、さわやかな笑顔で幸一に向けた。 「あの怨霊の後ろ盾の閻羅王、あと三百年の任期があったっけ?」 「だそうだ。だから、紫苑さんを人間界に連れてきて、玄天派に守ってもらおうと……」 「もうその必要はない。その閻羅王を、三日で辞任させる。怨霊とやらの元神を潰してやる」 「そんなすごいこともできるのか!さすが先輩!」 幸一は修良の決意を正義のためだと理解して、また修良に感服した。

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