85 / 107

八十五 恨みあり

三虎観は夜の団体修行を設けている。 夕食後の二時間は自由時間で、夜の団体修行まで、みんなそれぞれ用事を済ませるか、休憩をとる。 今日、王鋼(おうごう)李鉄(りてつ)という二人が買い出しに出たばかりなのに、いきなり慌てて戻ってきた。 「大変だ!あの玄幸一と天修良が来ている!!」 「全員集合だ!大事件だ!!」 二人は観内で叫びながら走り回って、みんなを主殿に集めた。 「玄幸一と、天修良っ!?」 それほどの驚きを見せなかったが、三虎観の首席弟子――常勝は、心の中で誰よりも大きく反応した。 その二つの名前を聞くだけで、彼は骨からガタッと異様な音が出たような気がした。 常勝は今年三十四歳、少年時代から仙道と武道の達人で、名前通り、戦闘中に「常勝」だった。 しかし、二年前の玄天派総会で、彼は自分の半分の齢しかない十六歳の幸一に負けた……とても悲惨な形で…… 常勝と違って、ほかの何人かがかなり取り乱していて、ざわざわした。 「あんな奴ら、何をしに来た!?」 「わ、わからない、とりあえず、外の困獣陣(こんじゅじん)で足を止めた」 「最近、玄天双煞というよくない噂があちこち散らばっている。やはり、あの二人のことか……」 「特にあの玄幸一、復讐のために手段を選ばないと言われている」 「この間、あの天修良は手配犯になったな。平和協定を破って、妖界に挑発したらしいぞ」 「まさか、いよいよ正道をやめて、玄天派を潰しに来たのか……!?」 「全員で迎え撃つしかない!」 「宗主に報告しよう!!」 「あの、待ってください!」 混乱の中、一人の若い女性は冷静に手を上げた。 みんなを呼び止めたその女性は、九香宮の景媛の双子の妹、景姝(けいしゅ)だ。 姉と顔から能力までそっくりで、お互いの考えまで分かる。 二人が一緒にいると自分がなくなるのを感じて、景姝はあえてこの玄天派の一番小さな支部に入った。 「この間、手配犯のことで姉に確認したけど、何か誤解があったらしい。本当は、宗主が天修良を守るために手配したって。玄幸一も、聞いた話だと、基本的に正義感の強いいい子で、ひどい手段で復讐するような人間じゃないみたい。みんな同門だから、もっと彼たちを信用したほうがいいじゃない?」 「景姝、私も彼たちを拘束するのを賛成だ」 もう一人冷静でいられたのは、殷実紀(いんじっき)という青年。三虎観の弟子の中で、二番目にあたる人物だ。殷実紀は落ち着いた口調で景姝に反論した。 「どうして?実紀先輩はいつも理性と事実で物事を判断する主義じゃない?噂に惑わされちゃだめだよ!」 「そう、俺は理性と事実で物事を判断する。だから、『らしい』、『聞いた話』、『基本的に』、『みたい』のような不確かな印象より、自分の目を信じる」 そう言って、殷実紀は悔しそうな視線を常勝に移した。 「あの玄幸一と天修良は、勝さんに何をしたのか、お前もその目で見たのだろ!」 「……」 景姝は返す言葉がなくなった。 「それに、明後日は一年一度の『三虎祭』、こんな時期に何かあったら、お祭りを楽しみにしているみんなにも申し訳ない」 「……」 「三虎祭?それ、なんですか?重要行事?」 ふいに、誰かが質問声を上げた。 「馬鹿か!この間みんなずっと準備しているんじゃないか!三虎観に入って何年目だ!?」 誰かがその空気を読めない質問を出したものを叱った。 「入ったのは今日初めてです」 「はぁ!?こんな大事な時に、冗談を――」 変な質問と答えに辿って、みんなが一斉扉のほうに振り向いたら―― 「げ、玄幸一!!」 「お久しぶりです。三虎観のみなさん」 ――さわやかな笑顔で手を振る幸一と、その後ろに静かに立っている修良の姿があった。 「嘘だ!困獣陣はしょぼく見えるけど、こんな短時間で脱出するはずがない!」 李鉄は信じられない声を上げた。 「すみません、しょぼく見えるから、壊してもすぐ直せると思って、脱出じゃなく、破壊したんだ……」 幸一は申し訳なさそうに説明したら、三虎観の人たちから強く反発を受けた。 「チクショウ!来た早々挑発する気か!!」 「いえいえ!実は、謝罪しに来たんだ!」 幸一はさっそく深いお辞儀をした。 「謝罪?」 「ほら、言ったでしょ!幸一はいい子って!」 景姝は前に出て、幸一を憤慨する同門たちと分けた。 「謝罪だと?遅すぎると思わないか?」 殷実紀は冷笑した。 「二年前、勝さんはどれほどの苦痛を耐えたのか、お前には分かるものか?いまさら謝罪するところで、許されると思うのか?」 「……」 幸一は小首を傾げて、困惑しそうに聞き返した。 「勝さんって、常勝先輩……?俺、常勝先輩に何かしたか?」 「はああ――!?」 一度静まった場面がまた騒ぎ出した。 「その件ために謝罪しに来たんじゃないのか!?」 「いいえ、別件で来たけど……」 「じゃあ、常勝先輩のことはどうするつもりだ!?」 「だから、常勝先輩に何を……」 幸一はますますわけが分からなくなる。 常勝の顔がますます暗い色に染められる。 「忘れたとでも言いたいのか!?」 王鋼は一歩前に出て、必死に情緒を我慢する常勝を指さす。 「二年前、お前は玄天派総会の武闘大会で、常勝先輩の全身の骨を折ったことを、ここにいる全員がこの目でしっかりと見てたんだ!!!」 「!?!?」 意外な事実に、幸一はかなりの衝撃を受けた。 小さく一歩を下げて、こっそりと後ろの修良に聞く。 「先輩、俺、そんなことしてたっけ……?」 でも、修良も意外そうな顔で聞き返した。 「ん?幸一は常勝さんが全身の骨が折れたことを知らなかった?」 「!?」 修良にも言われたので、幸一は極力で記憶を探った。

ともだちにシェアしよう!