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九十一 食人太歳の再臨

*** 泉の周りに空気が清々しい、修良の温度はとても心地いい。 幸一は一眠りに落ちた。 再び目が覚めた時、もう日が暮れた。 「……そんなに寝てた?」 「福徳の消化がかなり精力を使うから、体調はまだ通常に戻っていないだろう」 修良は幸一を起こして、視線を坂の上に移す。 「そろそろ三虎観の皆さんが祈祷儀式を披露する時間だね」 会場の真ん中にある舞台は、祈祷儀式のために華麗に装飾されていた。 舞台を中心に、観客がぎっしり集まっている。 遅めに来た幸一と修良は、仕方がなく、一番外の圏で立ち見をした。 祈祷儀式は、太陽を象徴する役者の踊りから始まる。 役者の動きに合わせて、演出担当は仙術で舞台の周りに眩しい光を灯す。 そして、踊りが進んでいるうちに、光がだんだん消えていく…… やがて、太陽が沈む。舞台の背景も暗くなる。 哀歌のような寂しい音楽が響く―― ノリのいい観客たちは、その音楽に合わせて舞台に向かって叫んだ。 「太陽が沈んだ!」 「月がまだ昇っていない!どうすればいいんだ!」 「ああだめだ。これは魔の時間だ!妖魔は襲ってくる!」 続いて、一縷の白い光が薄暗い舞台を中央に降りかかった。 「やった!仙道が生まれた!」 真っ白な服の役者は空から突如に現れて、星々のような光と共に、舞台に舞い降りる。 今年、主役として仙術を披露するのは常勝だ。 声を風の術に乗せて、常勝は自分の台詞を会場内の隅々に届く。 「心配はいりません。太陽が沈んでいても、仙道は光となって、この新しい世界を守ります――」 そこで、音楽が再び高揚になるはずだが……一声の叫びは、音楽に代わって、人々の耳を震わせた。 「嘘つき――!!」 「!?」 「仙道は人間を守る資格などない!!仙道は悪鬼と結託し、この世界を滅ぼす邪悪な存在だ!!」 誰かが凶暴に叫びながら、傍若無人に舞台に飛び上がった。 「あの人っ……!」 遠くにいても、視力のいい幸一は気付いた。 その人は、先日に自分と修良に足を治してもらった中老の男だった。 彼の足はもうすっかり治ったようで、子供一人を抱えていても素早く舞台に飛び上がった。 「どういうこと!?」 予想外の出来事に、三虎観の弟子たちは呆気に取られて、音楽の演奏を止めた。 「……」 まだ状況が分からないが、大弟子の常勝はすぐ冷静に戻り、臨機応変に対応した。 「生れたばかりの仙道は、人々から信用されていませんでした。非人な力を操っているこの人たちは、本当に人間の仲間なのか?本当に、妖魔の類ではないのか……」 「音楽!四番目だ!」 常勝の台詞を聞いて、殷実紀はたちまち演奏班に疑い雰囲気の音楽を演奏する指示を出した。 「今年は芝居をいれた!?聞いてないぞ!」 「常勝さん相変わらずかっこいい!相手役は誰?」 「分からないわ、新人かな。ちょっと下手かも、フフ」 迅速の対応のおかげで、観客たちはこの異変を舞台の一部だと思い込んだ。 「さあ、友よ、キミの不安、疑い、苦しみをすべて教えてください!仙道はいつでもあなたたちの盟友です!それを証明して見せます!」 常勝は芝居を装って、男から事情聴き出そうとした。 「フン、よく言えるな!仙道は本当に人間の味方なら、まずあの悪鬼めを消滅しろ!!」 「!!」 中老の男は観客のほうに指さした。 「えっ、悪鬼?」 「俺じゃないぞ!」 「どこどこ?」 指先が示した方向の観客たちは相次ぎに避けて、後ろのほうに振り向く―― その方向の最後にいるのは、修良だった。 「?!あの人、なぜ……」 幸一はまだ何も分からないが、修良は心得たように鼻で吹いた。 「そういうことか、通りで妙な匂いがしたな――やり残したことを解決してくる」 「やり残したこと……?ちょっと、先輩!?」 幸一を待たずに、修良は一陣の風を起こし、それに乗って、舞台に舞い降りた。 「悪鬼というのは、私のことですか?」 「出たな、世界を滅ぼした汚らわしい悪鬼め!!今日こそ、みんなの前で貴様の正体を暴いてやる!」 中老の男は狂気の満ちた目で修良を睨みつく。 修良が返事をする前に、常勝は修良の後ろで小さい声で言った。 「お前たちに足を治してもらった件で恨みを持って、わざと邪魔しに来たのかも知れない。まず芝居に見せかけて謝って、彼の怒りを静めよう……」 「私の正体ですか?」 修良はいかにも芝居の振り付けような大幅な動きで仮面を外した。 「私の名は|冥清朗《めいせいろう》。天から使命を授けられ、仙道の始祖となるものです」 「ぎゃ!すてき!あの人誰、誰!?」 「なるほど、|清明神君《せいめいしんぐん》か!」 見たことのない展開と修良の姿は観客の中で新しい議論を起こした。 「善を成し遂げるには時に悪が必要です。潔白すぎるやり方は最善な結果を成し遂げるとは限りません。一日も早くこの世界を混沌から救い出すために、汚い手段でも惜しまない!悪鬼と呼ばれるのは承知の上です――」 「フン、下手な猿芝居……うっ!!」 男の話はまだ終わっていないのに、一本の黒い棘は後ろから彼の体を貫いだ。 指数本の距離がずれたら、男が手に抱えている子供まで貫けられるだろう。 「しゅっ、何を!?」 その棘が修良の術だと気付いた常勝は驚愕で言葉もでなかった。 修良は男に一歩近づいて、子供を男の腕から降ろしながら冷たい笑顔を男に見せた。 「確かに、私の芝居はうまいとは言えないでしょう。でも、あなたの芝居もそれほど上手ではありませよ――太陽太歳(たいようたいさい)さま」 「けっ、もう気づいたのか……」 男は獣のような低い唸り声でその名前を認めた。 「元神(げんしん)が臭すぎて、気付かないほうがおかしい」 修良は一陣の旋風を起こし、「太陽太歳」という男を囲んだ。 風の中心にある男の体は、ガタガタな初老の人間から、速やかに修良の二倍の大きさもある巨大物に変わった。 巨大男の髪が黄土色で枯れた草のように荒くなり、筋肉が膨らんで、岩のように硬くなる。 目が数倍の大きさになり、宝石のように赤く光る。 明らかに、普通の人間の姿でなない。 「えっ、どういうこと!?」 「なるほど、妖魔か!」 「本物?お芝居?」 「私に聞かれても……」 急すぎる展開に、観客たちはかなり混乱した。 「先輩!」 舞台の袖に駆け付けた幸一はそのまま表に上がろうとしたが、冷静な殷実紀に止められた。 「待って!観客たちに本物の妖魔だと気づかれたら大混乱になるぞ!」 「しかし……えっ!」 その時、太陽太歳が連れてきた子供が幸一の足に突っ込んだ。 「あなたは……!」 子供はそのまま幸一の足に抱きついた。 「常勝さん、このものは私がかつて滅ぼした『太陽太歳』と呼ばれた化け物です。おそらく、私に復讐するために来たのでしょう。大事な行事が邪魔されて、本当に申し訳ございません」 修良は常勝に深く頭を下げた。 でも常勝は修良を責めなく、臨戦態勢で太陽太歳のほうを睨んだ。 「いや、修良さんのせいじゃない!太陽太歳、俺も聞いたことがある。人間の身でありながら、人間の子供を喰って邪悪な力を手に入れた、最悪十位にも入る化け物だ」 「そうです。人間の子供の生命力を吸い取った故に、彼の再生力は凄まじいものです。三年前に、青渚さんと協力して、なんとか彼を幽冥界の深淵に送り込んだのですが、なぜここにいるのでしょうね……」 よくない匂いがますます強くなり、修良は目を細めた。 「フフ、フフ、プハハハハハ!!」 困惑する修良と常勝を見て、太陽太歳は狂ったように大笑いを飛ばした。 「たしかに、わしは貴様のその破滅の力に再生能力を打ち消され、幽冥界の深淵に投げられた。だがな、そんなわしの前に『天命の星』が降りてきたんだ。その星はわしを選んだ。天命がすでに下された、滅世の悪鬼の貴様を滅ぼせば、わしのすべての罪が許され、わしは『救世主』になるとその星が教えてもらったんだ!」 「救世主だと!?馬鹿か!」 常勝は太陽太歳を叱った。 さっきから太陽太歳は修良のことを悪鬼呼ばわりしていたが、こんな場面で、誰が「悪鬼」なのか、明白しすぎることだ。 「貴様も言った!善を成し遂げるには時に悪が必要だ。やはりわしは正しかった!わしはこの世界の太陽になるべき人間だ!なんの力もなく、自分の意思もない凡人の赤子の血肉は、わしの肥料になるべきだった!偽善な貴様こそ、この世界に不要なものだ!」 「まさか、この子は彼の食料!?」 太陽太歳の狂言を聞いて、幸一は緊張して子供を胸に抱きしめた。 隣の殷実紀はほかの弟子に指示を出した。 「観客の前に透明な結界を張り、後ろのいる人間から避難を誘導するんだ!」 演奏や道具などを担当する弟子たちは手もとの道具を捨てて、観客席のほうに駆け出した。

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