100 / 106

百 初対面の家族

仙縷閣。 牡丹は修良に朝廷との相談結果を報告した。 「私に会談に出てほしい?」 修良はその場で妙な気配を匂った。 「ええ、だそうです。今回の演劇は国の重要な外交事務で、是非とも対面で仙縷閣の主にその重要性をお伝えしたいとのことです。わたしはいつも通りに断ったのですが……向こうは、修良様のことをよく知っていると言いました。それに……」 牡丹は困惑そうに言葉を続けた。 「幸一様のご同行も希望されたのです。もしかしたら、その粛衛将軍は、修良様のお知り合いでしょうか?」 「なるほど……」 修良は納得した。 仙縷閣に訊ねてきたは「朝廷の御霊堂」 救世主を探しているのも「朝廷の御霊堂」 やはり、偶然ではない。 「知り合いの知り合いだ。『彼たち』伝えてくれ、幸一と対面するつもりなら、余計な企みをしないほうがいい」 修良はいつもより硬い口調で牡丹に命令を下した。 「かしこまりました」 聡明な牡丹は慎重にその言葉を胸に覚えた。 *** 修良と牡丹が朝廷の人たちと対面のことを交渉する数日間、幸一は毎日も鏡花の家に行って、雪月華の栽培に専念していた。 「驚きましたよ、幸一様」 鏡花は先日に種を撒いた花壇を幸一に見せながら、感動しそうに言った。 「この季節、これだけの異なる種類の種、八割も芽生えたなんて、本当に奇跡です」 「それはよかった。万が一、土に霊気を込めた操作が間違っていたら、元気そうな種たちに大変申し訳ないと思った」 可愛らしい小さな芽がたくさん出たのを見て、幸一もほっとした。 「種のことを考えるなんて、幸一様は優しいですね。これからどうしますか?」 「霊気を直接に注ぐより、環境づくりをしたい。せっかくこんなたくさん芽生えたから、慎重に育っていきたいと思う。まずこの花壇の隣で、虚像で雪月華の生長環境と雪月華の波動を模擬する。二つの環境を共鳴させて、だんだん重ねさせる。花が成長していくうちに、雪月華の波動を融合させ……」 幸一が夢中に考える姿を、鏡花は微笑ましい目で見つめる。 「……」 「ごめん!分かりづらいですね!俺もうまく説明できないけど……」 鏡花が自分をじっと見つめているのに気づいて、幸一は慌てて謝った。 「いいんですよ。私はその辺の知識がないから、幸一様にお任せします」 「はい、鏡花さんがそれでよければ……」 鏡花の優しい微笑みを目にすると、幸一はなぜか胸に痒みを感じた。 「環境づくり」が終わったあと、鏡花は庭でお茶とお菓子を用意し、幸一と一休みをした。 「幸一様のような仙道の英才は、花の育成にも精通しているなんて、思いもしませんでした」 「俺も驚いた。やろうと思えば、前世の知識が勝手に……!」 話の途中、幸一はまた口が滑ったことに気づいた。 「前世の知識?」 鏡花は目を輝かせて、興味ありそうに続きを催促した。 「えっと……」 その期待な眼差しに負けて、幸一は簡単に説明をした。 「実は、俺は最近、前世のことをいろいろ思い出したんだ。ちょっとごちゃごちゃというか、まだ完全に呑み込んでいないけど……とにかく、役に立つ知識もあってよかった」 「すばらしいじゃないですか」 鏡花は賛嘆した。 「前世に未練が今世の邪魔、手放さなければならない言い方もよく耳にするけど、私はそう思いません。未練が残すくらい大事なことだからこそ、軽々しく手放すのが妥当ではありません。慎重に考えて、真面目に向け合うべきです。ですから、幸一様もそのごちゃごちゃとかに気にせずに、自分が思うままに前世のことを受け止めればいいと思います」 「ありがとう、鏡花さん……」 前世をの話題に触れたら、幸一はまた思わず鏡花の顔をぼうっと見つめる。 すると、鏡花の顔と頸にある金色の模様に気づいた。 演劇のお化粧だと思ったけど、普段も消さないのか? 「どうしましたか?ああ、これのことですね」 鏡花は襟元を広げて、体に続くその模様を幸一に見せた。 「お化粧、ではないですか?」 少しためらってたが、幸一はやっぱり気になる。 「いいえ、お守りの呪文のようなものです。小さい頃からずっと変な病気に纏われていて、どんな医者でも原因が分からなくて、治療も効かなかったのです。最後は、とある仙道の方がこの模様を描いてくれたおかげで、やっと元気を取り戻しました」 「治さない病気か……ひょっとして、病気じゃなくて、何か邪法を施されたのかもしれないな。だからお守りの呪文が効いた……」 幸一は真面目にその理由を分析した。 「分かりません。その仙道の方も詳しいことを教えてくれませんでした」 「めんどうなことじゃないといいけど……鏡花さんの波動はとても純粋だから、邪の欲望に狙われる危険性が、確かにありそう」 「え?私が?」 鏡花は怪訝そうに目を少し見開いた。 「そうだ。舞台上の鏡花さんは本当に輝かしい」 「いいえ、それほどでも……」 「謙遜しなくていい、みんなも鏡花さんのお芝居に夢中している。鏡花さんが優秀の証拠だ!」 幸一は隠しもなく、鏡花を褒め続けた。 「気に入ってくれて、ありがとうございます」 鏡花は恥ずかしそうに笑顔を維持した。 「でも本当は、一人だけに見せたかった……」 「一人だけ……」 幸一は反射的に訊こうとしたが、鏡花は目を花壇のほうに逸らした。 「……」 天良鬼と同じ顔の人は、ほかの誰かを思っている。 寂しさが幸一の胸から湧いてくる。 (だめだ、何にがっかりしているんだ!鏡花さんは天良鬼じゃない!思う人がいても、俺と関係ないんだ!) 幸一はさっそく変な気持ちを振り払い、別の話題を取った。 「そういえば、お庭の花が前よりかなり減ったような気がして……」 「花の命は、短いですから」 鏡花は軽く鼻息で笑って、幸一のほうに振り向いた。 ちょうどその時、扉のほうから呼び声がした。 「鏡花さん!お花を届けに来ました!」 幸世の声だった。 「公演もないのに、お花ですか?さすが鏡花さん、人気ですね!」 幸一は手伝おうと、鏡花と一緒に扉に向かった。 「またまた、幸一様は意外と口が上手ですね」 鏡花はニコニコしながら庭の扉を開くと―― 「!」 扉の前で待っているのは幸世だけではなかった。 あの日、白い花のつぼみを持ってきた青年もいた。 鏡花は笑顔を収めて、扉を閉めようとしたが、もう間に合わない。 「多い?手伝います……」 幸一は鏡花越しに、あの青年と目が会った。 「幸一!」 青年は嬉しそうに幸一に声をかけた。 「あなたは……?」 その青年、幸一ほどの美貌がないが、幸一とよく似ている顔立ちだ。 「やっぱり幸一だ!幸世、幸一がここにいるのに、なぜ教えてもらえなかったんだ!」 そう言って、青年は隣の幸世に文句言った。 「だって、だって、お母様は幸銘(こうめい)兄様に話さないほうがいいって……」 幸世はなぜかしどろもどろに答えた。 「幸銘、兄様……?」 幸一はその名前に印象がある。 「まだ思い出していない?俺は玄誠義(げんせいぎ)家の幸銘だ!お前の従兄だ!」 そう、父の実の兄・玄誠義伯父の家に、自分と年の近い息子がいた。 その名は幸銘。 でも、今まであったことはなかった。 七年の家族集会で、伯父は自分息子が体弱、幸一が健康で聡明で羨ましいみたいな話を口にしたら、 父は「聡明?とんでもない!あの子はお金のことがちっとも理解していない。わしのいいとこをまったく受け継いでいない。彼がほしい人がいれば、養子にあげるぞ!」って言った。 もちろん、伯父は本気にしなかったが、隣で聞いていた小さな幸一がひどく傷付けられた。 「あなたが誠義伯父さんの家の幸銘兄さんか!」 「兄さんはよせ、俺は幸一と同い年で、同じ日に生れたんだ!ただ幸一は難産で、俺は一歩先に落ちてきただけだった」 「そうだったのか……あっ、ごめん、鏡花さん、俺たちは勝手に……」 鏡花の視線に気付いて、幸一はさっそく鏡花のほうに伺う。 鏡花は一瞬の暗い目線を隠し、笑顔を作った。 「いいえ。久びりに親戚に会うのが嬉しいことです。よろしければ、うちで少しくつろぎしましょう」

ともだちにシェアしよう!