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九十九 雪狼と火狐

于又の知らせを受けると、珊瑚は酒屋から上等なお酒を一壇持ち帰りをして、啸風の住んでいる官府の宿に行った。 しかし、深夜が過ぎても啸風は戻らなかった。 珊瑚はつまらなさそうにお酒と酌を放置し、啸風の部屋の畳でそのまま寝転んだ。 どのくらい経ったのか分からない。 冷たい風の匂いがした。 微かな布団の音が、ふわっと背中に落ちてくる。 その時、珊瑚は速やかに手を出し、布団を握っているその人の手首を掴んだ。 「!」 相手の動きが止まった一瞬、珊瑚は身を翻し、その人を床に押し倒した。 その人は布団から手を放し、布団が二人の足元に落ちた。 「起こしたのか、悪い……」 いきなり倒されて、啸風は不自然な硬い口調で言葉を発した。 「狐の睡眠は浅い。勤勉な粛衛将軍様は知らなかったっけ?まして、それがしみたいな美しさにうるさい狐は、こんなしょぼい宿場で安心に寝れると思う?」 珊瑚は狐らしく細めて、ニコニコして啸風を見つめる。 窓からの薄い月光が珊瑚の顔を照らす。 普段は陽射しのように華やかなその顔は、儚くて、冷たい色を染められた。 「……すぐに来てくれと言っていないから、もっと高級な宿で休めばいい」 啸風は反射的に目を逸らしたかったのに、視線がまったく移せなかった。 「仕事に復帰させてくれるって思って、お祝いのお酒まで持ってきたのに、まさかの放置。まあ、元と言えば、勝手に期待して駆け付けたそれがしが悪かったけどね」 珊瑚が笑って言っているのに、啸風はそれを責め言葉しか聞こえない。 「……補償をする」 「どんな意味での補償?」 珊瑚は何かを愛でるように、爪の甲で啸風の首から顔へ掠めて、また指先で顔から首へと撫でる。 「公的?それとも、私的?」 珊瑚の笑顔に妖艶さが増していく。体から甘いお酒の香りがする。 いかにも誘惑の意味だ。 啸風は珊瑚を凝視したまま軽く眉をひそめて、低い声で正直に答えた。 「私的には好きにするがいい。公的には、無理やりではない範囲で許可する」 そこまで硬い返事をもらって、珊瑚は手を上げて、から笑いをした。 「ぷっ、ふふふふ、お兄ちゃんは本当に交渉下手だね。『僕たち』の仲だし、公私混同してあげてもいいよ~そう、たとえばね――」 珊瑚は体の重さを啸風に預けて、啸風の頸元で息を吹くように囁いた。 「『この小狐め、お前の命は俺の『妖丹(ようたん)』で繋げているんだ、余計な要求をするな、死にたくなければ、言うことを聞け』、なんてことを言われたら、それがしは大人しく従わなければいならないかもね」 実は、珊瑚と啸風は幼馴染だ。 啸風はとある滅亡した妖狼族の末裔、珊瑚の父に救われて、珊瑚と一緒に育てられていた。 珊瑚は父と母から異なる種族の力を受け継いだ故に、とんでもない強い妖力を持つ。 しかし、同じ理由で、生まれつきに致命的な「欠点」を持った。 妖怪の体内には、命と霊力の核心となる「妖丹」とうものが存在する。 妖丹の数は種族によって異なるが、通常、陰と陽で対になっている。 同じ種族の両親の間で生れた子供は、母と父から別々に陰と陽の力をもらい、自分の「妖丹対」を形成する。 だが、珊瑚の父と母は異種族のため、妖丹対の数が異なる。 珊瑚の体内に対のない妖丹が一個ある。 それは諸刃の剣のようなものだ。 対の制御がないゆえに、より強い力を珊瑚に与える。 その同時に、強くなりすぎると制御しにくい。とくに、昇格の際など激しい霊力に衝撃された時、制御しきれないのがほとんど、つまり、死ぬ危険がある。 啸風の種族は、普段使わない後備の妖丹対を持っている。 啸風がその後備の妖丹の一つを珊瑚に渡したおかげで、珊瑚の妖丹が平衡を取って、制御しきれない危険性がなくなった。 でもその代わりに、啸風は最上級の修為に到達できなくなる。 また、二人の力の属性が違う。啸風の妖丹は極寒のもの、珊瑚の火炎属性の体に入るとだんだん消耗する。 その妖丹の力を維持するために、啸風と珊瑚は不定期に「保養工作」をする必要がある。 二人の因縁を話せば長くなるが、とにかく、ある意味、珊瑚の命は啸風に繋がっている。 でも、啸風は珊瑚にお返しや報酬等を要求することは一度もなかった。 珊瑚に挑発されても、啸風は不動のままで言葉を返した。 「いいえ、公私混同はよくない。妖丹のことは完全に私的なことだ。公的な交渉材料にならない。お前は重罪犯失踪のことを調査しているのを知っている。どうぜ大人しくしてくれないなら、せめて、俺の目の届くところでやってほしい」 啸風は珊瑚の両肩を軽く押しのけて、体を起こそうとした。 「『救世主』のことは于又から聞いただろ。今夜、俺は『救世主』かも知れない人に会いに行ったんだ。この一件は、お前が調査している失踪事件と関係なくもない……っ」 でも、珊瑚は二本指を啸風の唇に置いて、啸風の口を封じた。 「こんな時に、『救世主』の話?」 「……」 珊瑚が拗ねったような顔をすると、啸風もそんな話をする場合ではないかと自覚した。 啸風の視線が揺れると、珊瑚は片手を啸風の懐に入れて、直接にお腹の肌に触った。 もう一方の手で啸風の手を拾って、自分の胸に置いた。 二人の体の温度が違う。直接な接触により、異なる温度がお互いの体へ流れ始める。 「妖丹は熱い。保養が要る」 珊瑚は目をさらに細くし、簡単に要求を置いた。 「……いつもより早いな」 啸風は手を移さないまま珊瑚の胸の温度を感知する。 「仕方ないだろ?幸一の悪鬼先輩との戦いでかなり燃え上がっていて、消耗が激しかった……っ!」 突然に、啸風は起き上がり、珊瑚をひっくり返して、床に押し倒した。 「こんな時に、『他人の話をしない』、だろ」 啸風の目に、より強い青光が浮かんだ。 珊瑚は彼と二秒ほど見つめ合う。 「ふん」 啸風の眼差しが真剣なものになったと分かったら、珊瑚は鼻から軽く息を吹いて、満足そうに両手を啸風の頸の後ろにかけた。 啸風は遠慮なく珊瑚の唇を噛みつき、自分の冷たい息を珊瑚の口に押し込む。 御霊堂で会った時のことと違い、本物の接吻だ。 妖丹を保養するには、啸風は冷たい霊気を珊瑚の体内にある妖丹に送る必要がある。 ほかの方法はなくもないが、二人は最初から今まで、ずっと体を重ねる方法を使っていた。 この二人の微妙の関係は、また別の物語になる。

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