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百二十二 道具人間

幸一の判断は正しい。 幸銘は遠く行かずに、戦場を眺めるのにいい場所――とある高い木の上に座っている。 修良の手が届くところでもあり、修良が幸銘を倒せば、すべてが終わるはず。 だが、修良は幸銘を倒すことより、罪人たちと戦うことを選んだ。 それを悟った幸一は心の中でいっそう決意を固めた。 幸銘をの居場所を定めたんに、幸一は剣を抜き、空を飛び、容赦なく幸銘に突き出す。 「!」 幸一の到来に気付いた幸銘は口元に微笑みを浮かべながら、慌てずに手を一振りをする。 すると、大きな刀が幸銘の手に現れ、幸一の攻撃を迎え撃つ。 幸一の剣に耐えたが、衝突する衝撃で、幸銘が樹から落ちた。 「転生回数が重なると、性格がゆったりになると思うが、こんな短気になるなんて」 燃えるような目で自分を睨む幸一に向かって、幸銘は鼻で笑った。 「どうやら、いっぱい甘やかされたのね」 「っ!」 いけないところをツッコまれて、ムッときたけど、それが幸銘の挑発だと分かって、幸一は乗らなかった。 ただ決意をした目で相手をまっすぐ見つめて、剣を構える。 「今すぐ罪人たちを止めろ!いくら卑怯なまねをしても、先輩はお前を殺さないから」 幸銘は小さく驚いたが、すぐに鼻で吹いた。 「何を言っている。今は、俺が悪鬼を殺すところだったぞ」 幸一は動揺せずに、もっと強い口調で言った。 「お前は癸黙の記憶だったら、天良鬼に殺されるのを望んでいるはずだ!」 「!」 癸黙の生を振り返って、幸一は気付いた。 癸黙は自らの手で命を断ったが、意識が完全になくなる前に、薄々と、「天良鬼に殺されればよかったのに……」と願っていた。 幸銘は記憶と共に、その願いも受け継いだのなら、彼の今の行動が説明できる。 「先輩は理由もなしにお前を殺さない。だからお前は先輩に選択を迫った。悪鬼化するか、お前を殺すか……俺は断言する。完全に悪鬼になっていても、先輩は絶対お前を殺さない」 「それはどうした?」 幸一の確信を聞いて、幸銘は気にしないように笑った。 「お前も覚えているだろう。前世で愚かな天良鬼のために、自分一人でどれだけもがいたのか。少しでも、彼を苦しませるのもいいじゃないか」 「天良鬼を追いかけるは俺の勝手だ!先輩と関係ない!」 幸一は大声で反論した。 「記憶は過去、俺は今を生きている。たとえ俺の記憶でも、先輩に傷付けさせない!」 たちまちに、幸一はもう一度幸銘に攻撃をかけた。 「愚かなのは、天良鬼だけじゃないみたいな」 幸銘は苦笑しながら幸一に刀を振る出す。 前世の福徳を取り戻した幸一の武力は仙道の最強階級とも言えるが、技の凶悪さでいうと、幸銘が何段も上だ。 幸銘の攻撃は、どれも幸一の致命部位を狙っていた。 幸一は本能的に守勢を取った。 それに、二人の剣と刀がぶつかると、妙な共鳴が響く。 幸一が剣に注いだ霊気が幸銘のほうに流れていく。 幸銘の攻撃の威力がまた増やす。 「!」 幸一はすぐに分かった。武器を交わす度に、彼の力が幸銘に吸い取られる。 (どういうことだ!? あの数珠を封じたはずだ、なぜ……) 幸一の表情から彼の考えを読み取ったように、幸銘は挑発的な笑顔を浮かべた。 「前世を思い出してくれて、ご苦労だった」 「!」 「数珠は増幅道具にすぎない。俺たちはもともと同じ波動を持っているのだ。特に、お前が俺をお前の一部だとはっきりと認めた今、俺は無限にお前から力を吸い取られる」 「俺に前世を思いださせるのは、そのため……っ!?」 幸一が躊躇した刹那、幸銘の刀が彼の首元で血痕を付けた。 「恨むならお前の福徳を恨むがいい。いや。元と言えば、お前は福徳を世界に返してくれないからこうなったんだ。神にあるべきものは、くだらないもに執着を持つのがだめだ。お前が断ち切れないなら、世界が代わりに切ってやる――」 そう言って、幸銘は左腕を伸ばし、幸一から集めた霊気を罪人たちのほうに放出した。 「福徳なんか欲しいなら好きなだけに取っていくがいい!だが先輩に絶対触れさせない!」 幸一は霊気を切断しようと幸銘の左腕に剣を振る出す。 その動きに気づいた幸銘は、避けもしなく、そのまま幸一の斬撃を受けた。 「!」 飛ばされた血が幸一の顔に落ちる。 幸銘を倒すために戦っていたのに、幸一はいきなり戸惑った。 何かか違う……と、直感が彼を止めた。 「なぜ、避けない……?!」 落とされた腕に目もくれず、幸銘はなんのこともない顔で幸一に答えた。 「俺はお前の記憶を持つとは言え、ただの道具だ。敵さえ倒せば、道具自身の損害はどうでもいいんだ」 「!」 鏡花から幸銘が「道具人間」だと聞いたが、幸一は心底で幸銘を「人間」だと認識している。 幸銘がやっと見せた「道具」のような姿を見ても、幸一はどうしても納得できない。 幸銘の腕を切った感触がまだ手に残る。 幸銘のやったことの数々が幸一の脳内を走る。 鏡花に好意を寄せ、幸世のデタラメに付き合い、自分を脅迫し、天良鬼を迫る…… 神に作られたものだとしても、彼はちゃんと「自我」を持ているのではないか…… 「どうした?まさか、俺が道具なのか人間なのかとかくだらない迷いでも生じたのか」 「!」 幸一の考え事はもう一度幸銘に見抜かれた。 幸銘は右手で刀を構え、幸一に指した。 「迷いは無用だ。俺は人間だろうと道具だろうと、幸一のやることは一緒……っ!」 突然に、幸銘の体が雷に撃たれたようにけいれんし、苦痛の声をあげて、刀を落とした。 「幸銘!」 幸一は反射的に幸銘を助けようと、前に出た。 しかし、幸銘は残った霊気を刀に注ぎ、思いきり刀を幸一に投げた。 幸一は剣で飛んできた刀を防ぐと、刀に付着する霊気が爆発し、幸一を飛ばした。 爆発が突然すぎ、力も強く、幸一は空中で姿勢を整える余裕もない。 これじゃ硬着陸だと思ったら、背中が誰かに受け止められた。 「先輩!」 目で見なくても、匂いや感触で分かる。 彼を受け止めたのは修良だった。 やっと罪人たちから離れたのか、と幸一は安堵した瞬間―― 「聞いたよ、幸一」 耳元で響いた修良の声が不快なものだと気づいた。 幸一は思わずドキッとした。 修良に振り向くと、やはり皮肉交じりのいじわるな表情だった。 「そんな大声で私と関係ないと宣言するなんて、無視できないな」 「そういう意味じゃないって先輩も分かるだろ!」 幸一は慌てて修良から離れて幸銘に向き合おうとしたが、修良は彼の肩と腰を掴んだまま行かせなかった。 「離して先輩、幸銘がやばいから俺がやるしかない!」 幸一はもう一度もがいたが、修良は手に更に力を入れた。 「安全に着陸した途端に、私が不要になったのか?」 「先輩は手を出さないでくれって意味だ!」 修良が自分の意味が分からない訳がないのに、幸一はあえて開き直した。 「やはり私が要らないって意味じゃないか」 修良はいじわるっぽく笑った。 「先輩!もうとぼけないでくれ!」 修良が話を聞くつもりがないと悟って、もともと焦った幸一はムキになった。 「とぼけるのはどっちだ」 次の瞬間、修良の表情が真面目なものになった。 「!」 「幸一はどんな私も受け入れると言ったことがあるのに、私は異なる幸一を受け入れないとでも思っているのか?」 「!」 幸一は言葉を繋げなくなった。 「癸黙や幸銘は幸一だけのことだとしても、幸一のことは私のことだ。まして、これはもともと『私たち』のことだろ――」 修良は視線を氷山の輪のほうに向けた。 幸一は同じ方向に目を向けると、大きく息を吸った。 「鏡花さん!?」 鏡花は修良が先ほど立っていた場所にいる。 幸銘が罪人たちへ転送した生命の霊気は全部彼が受け止めている。 そのおかげで、修良の棘に縛られた罪人たちは活気を失い、動けなくなった。 同じこの場面を見た幸銘は、目に怒りに似たような複雑な光が浮かんで、体が強張った。 幸一と幸銘が戦っている間に、鏡花は修良の前に行って、何か耳打ちをした。 それを聞いた修良は、自分自身で幸銘に向き合わなければならないと分かった。

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