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百二十一 あなたの思いを届ける

*** 看守長はそれ以上の情報を知らないので、幸一と鏡花は一旦牢屋を出た。 「すれ違ったのか、それもと……」 幸銘・癸黙の性格を思い出すと、幸一の焦燥感がますます上がる。 「罪人の処理なら、やはり世界の縫い目のあの深淵に行ったのかな……」 「幸銘はあの深淵に続々と罪人たちを投下してたけど、その中にいるのはただ一部の罪人にすぎません。残った罪人たちをどこに隠したのか、私も分かりません」 「なるほど、じゃあ、俺は先輩の居場所を探る」 そう言って、幸一は左手で右拳を包み、拳を額の中心に置いた。幸一の右手に、修良の心と連動する術が描かれている。その術のおかげで、幸一は修良の居場所を追跡できるようになった。 幸一は自分の霊力を印に注入し、共鳴を起こす。 意識を集中すると、いきなり、牢屋のような場所の映像が頭に入った。 修良が目の前にいる。 「自分」は修良にこう言った。 「幸一がいるこの世界を守りたいなら、お前自身を差し出せ」 「!!」 幸一は冷たい空気を大きく吸った。 懐に入っている幸銘からの数珠が鳴動し始める。 あれは、おそらく、幸銘の記憶だ。 「幸一様!」 鏡花は足元が揺れる幸一を支えようと前に出た。 幸一は片手で頭を押さえ、目の焦点がまだ戻らない。 幸銘と修良が会話している場面、二人が珊瑚たちと一緒に牢屋から出る場面が断続的に頭に入る。 「幸銘の記憶を見たようだ……数珠との繋がりを切断したはずだ。彼は、俺の前世の癸黙じゃなかったら、なぜ俺は彼の記憶を見える……彼が先輩に言った俺に似せて作られたとはどういうこと……?」 「それは……」 幸一が幸銘の記憶を見た以上、真実を隠しても無意味だと鏡花は悟った。 むしろ、幸一の迷いを切るために、言わなければならない。 「幸銘は、あなたの記憶ですから」 「!?」 「天命の星は、魂を持っていない道具人間。あなたが旧世界での記憶の一部を複製し、任務遂行のためだけに作られたものです。あなたの一部の記憶の波動と同じだから、あなたから福徳の力を引き出せます」 「そういうことなのか……」 (そんなややこしものを作れるのは、やっぱり「神」だろう……) 幸銘の身分についてなんとなく納得した幸一だが、別の疑問が生じざるを得ない。 幸銘の目的が自分の福徳と修良の命なら、自分と修良が何も知らないほうが彼に有利だ。 なのに、幸銘は自分や修良に「癸黙」のことを思い出させようとした。 「記憶」だけのもの、任務遂行のためだけにあるものは、そんな「余計な行動」をするのだろう? それに―― 「幸銘は俺の記憶だったら……鏡花さんは!?もしかして……」 天命の星の正体が分かった以上、次に知りたいのはやはり「救世主」の身分だ。 幸一が推測を口にする前に、鏡花は先に否定をした。 「いいえ、私はあなたが思っている天良鬼と関係ありません。私は、ただ前世であなたに憧れるものの一つ。多分、何かご縁があって、この姿に生まれ変わったのでしょう。幸銘のいたずらで幸一様の福徳を受け取るための救世主に選ばれました」 「……前世で俺に憧れる人?誰ですか?」 幸一の問い詰めに向けて、鏡花は気軽そうに笑って、嘘をついた。 「そこまでは覚えていません。普通の人間は、前世を思い出すのが難しいことですから」 「そう、なのか……」 「それより、早く修良様たちを追いましょう」 鏡花は彼自身に関する話題を切った。 幸一は疑いもしなく頷いた。 「分かった。でも、もう一つだけ聞きたい。天命の星って、救世主を選ぶのは自由なのか?誰でもいいのか?」 「幸銘から聞いた話だと、大法術を使う才能のある人であれば、誰でも可能です」 その答えを聞いて、幸一の顔色がいっそう深刻になった。 (もしかしたら、幸銘は……) 幸銘の記憶に辿り、幸一と鏡花は東南の城門に駆け付けた。 城門前に、たくさんの人が詰まっていて、外への道が塞がれていた。 「城門が封鎖?なぜだ?!」 人に訊ねてみたら、そのわけを教えてもらった。 「なにか、大盗賊を捕まえるための罠が仕掛けられたようで、捕まえる前に、柳蓮県への出入りが禁止となったんだ」 (おかしい!) 幸一は城壁のほうを見る。城壁全体に強い結界が付着している。盗賊を防ぐとより、何か危険な霊的な力を防ぐための仕組のようだ。 幸一の力では強行突破はできなくもないが、県を守る結界なら壊しては行けない。 なら、これしかない―― 幸一は袖から一枚の青い羽を出して、空に投げた。 羽は蒼炎鳥となり、強風を起こした。 「鏡花さん、上から行こう!」 幸一は鏡花と鳥に乗って、結界の届かない高い空まで昇って、城壁の外へ飛んだ。 城壁の外は、一片の薄い霧に囲まれている。空から地面の状況がほぼ見えない。 そんな中で、とある高地らしいところから暗い力の波動がどんどん湧き出ていて、とても目立つ。 「あれは、破滅の力の波動……先輩!」 幸一は急いで蒼炎鳥にその高地へ降下させる。 地面の霧は上から見るよりずっと薄い。 空から降りていく途中から状況が見えてくる。 あの高地を中心に、破滅の力がまるで棘の森となり、柳蓮県へ向かう道を断ち切った。 その中に、百以上の人間が武器か拳を振る舞い、狂ったように棘の陣を突破しようと戦っている。 おかしいことに、破滅の力が宿った棘に貫くられ、縛られた人間たちが、その場で消滅することはなく、傷がすぐ直り、再び戦闘に身を投げ、どんどんと棘を切って前進する。 幸一は秒で見抜いた、人間たちは生命の霊気を身に纏っている。だから、破滅から何度も再生している。 だが、その人たちは何処へ突っ走ろうとしても、新しい棘がすぐに生れ、彼たちを追いつけ、元の場所に引っ張り戻す。 棘の森の中央にいるのは修良だ。 修良は何か呪文を念じている。彼が大地に根付く樹となったようで、破滅の力で棘を生み出し続けて、人間たちが身に纏う生命の霊気を消耗させる。 一瞬だけだが、幸一の目の中で、修良のその姿が旧世界の神の幹に縛られた悪鬼の姿と重なった。 幸一は修良の隣に目指して蒼炎鳥から飛び降りた。 「先輩、やめるんだ……!」 だが、幸一の足がまだ床についていないうちに、修良は一陣の強い風を起こし、幸一と蒼炎鳥を遠く飛ばせた。 幸一たちが飛ばされた方向に、珊瑚と啸風を含めて、御霊堂の数人が構えている。 珊瑚は手が早く、右手で幸一、左手で蒼炎鳥から落ちた鏡花を受け止めた。 「先輩!」 珊瑚に感謝する余裕もなく、幸一はもう一度修良に駆け付けようとしたが、珊瑚に止められた。 「待って、幸一!せめて状況を聞いてからにしよう!」 「状況なら分かってる!幸銘は生命の霊気を重罪犯たちに振り分けて、犯人たちを柳蓮県に襲わせる。だから先輩は破滅の力で何度も再生できる重罪犯たちを打ち消そうとしている。だろ!」 「理解がはやいね、さすが幸一」 「感心する場合じゃない!あの消耗は半端じゃない。このままだと先輩は悪鬼化する。とめなきゃ!」 「お前を飛ばせた時点で、彼はもうお前に干渉されたくない態度を示したと思うが」 幸一の後ろから啸風は威圧感のある声が響いた。 「御霊堂が手伝いましょうって申し出たけど、修良さんに断られたんだ。修良さんのことだから、そんなことを言ったら他人が手を出す余地がない。幸一も分かるだろ」 珊瑚は困りそうに幸一に事情を補足した。 「それに――」 いきなり、珊瑚は左斜めの方向に一団の火炎を投げ出した。 いつのまにか、数人の体格の罪人は棘を突破し、柳蓮県のほうに走り出した。 珊瑚の火炎に直撃されたが、火傷に気にせずに足を止めなかった。 数歩先で陣を構えっている三人の御霊堂の兵士はすぐ罪人たちに取り掛かり、武器で迎え撃つ。 技量の面で言えば、御霊堂の人たちが断然に上だが、罪人たちは傷にまったく気にしなく、攻めを徹した。 「やっぱり火だけでだめなのか。そろそろ肩の封印を解いてもらえないかな、こんな時、刀と縄を使えないのは不便だ」 珊瑚は啸風に要求したが、啸風に冷たい声で拒絶された。 「お前はここにいろ」 啸風は珊瑚にそう言ってから、自分で罪人たちのほうに駆け付けて、妖術を放ち、罪人たちを氷の中に封じ込めた。 つまらなさそうな珊瑚は幸一に説明し続けた。 「見ての通り、それがしたちは、この柳蓮県を守ることを最優先にしなければならないんだ。ここにいる罪人たちは例の失踪した凶悪犯だけど、まだ全員じゃない。御霊堂は戦うために柳蓮県に来たんじゃないから今十数人しかいない。柳蓮県が大きい、全ての方向から守るのは困難だ。城壁の結界と通行人を止めるための霧を張るだけでかなり精を使う。それに、深淵のほうの罪人たちの見張りもいる。増援が来るまで我慢するしかない」 「我慢する必要はない。先輩は何を言おうと、俺は幸銘を止めればすべてが解決だ。幸銘は何処だ?」 幸一は拳を握った。 「乱に乗じて、真っ向に行ったけど、逃げていないかな」 「やつは逃げない。絶対向こうで最後を待っているんだ」 幸一は足を踏み出すと、鏡花に肩を掴まれた。 「待ってください」 「鏡花さん?」 鏡花はいつもより強めな視線で幸一を見つめる 「私に任せてくれませんか?私が幸銘の協力要求を断ったから、彼がこんな物騒なことを起こした――」 「だめだ!」 でも、幸一は鏡花の話を断ち切った。 「これは俺自身の問題だ!俺が解決する!」 鏡花に反論の余地も与えず、幸一は高地の向こうへ駆け出した。 もちろん、修良は幸一の動きに気づいたが、矢の如く急速に駆け抜けた幸一を止める余裕はなかった。 「なんか、幸一はいつもより焦っているな。普段もかなりせっかちだけど」 珊瑚は幸一の異様に気づいた。 「彼自身の問題って、もしかして……知られたくないことでもあるのかな」  鏡花は嘆きのように苦笑した。 「幸一様は真面目すぎるから、気付かないうちに彼自身を追い詰めます。修良さんに知られてはいけないことなんて、彼にはないのに」 「ん?……鏡花さんは何か知っているのか?」 「ほんのちょっとしか知らないけど、私から見ている幸一様はいつだって美しいです」 そう言って、鏡花は幸一の走った方向を眺めた。  珊瑚は不思議と思った。 この鏡花と言う人、さわやかな気質なのに、なぜか重々しい修良と似たような雰囲気がする。 一方で、先ほど啸風に氷に閉じ込めた罪人たちは氷の中でももがいていて、今にも氷を破るような勢いだった。 啸風はもう一層氷を固めてから、珊瑚の隣に戻った。 「下がっていろ。もう一重結界を張る」 「もしかして、氷でその人たちもろとも囲むつもり?」 ほかの御霊堂の兵士たちが分散しに行く動きを見て、珊瑚は啸風の打算を悟った。 「そのほうが御霊堂の消耗が少ない」 「効率の面では賛成だけど、友達を一緒に封じるのはよくないと思うな」 戦闘中の幸一と修良たちを考えて、珊瑚は少し眉をひそめた。 「変態たちと友達になるな」 「人の友達をそこまで言うのか?」 珊瑚のツッコミに構わず、啸風は手を上げて部下たちに合図を出した。 彼の妖気が部下たちの妖気と共鳴し、大地に極寒の力が降りかかる。 あっという間に、棘の森を囲む巨大な氷山の輪が形成した。 「仕方がないな。じゃあ、それがしは近くに行って、幸一の様子を……あれ、鏡花さんは?」珊瑚は移動しようをしたら、隣にいた鏡花が消えたことに気づいた。 鏡花は、氷山の輪の中にいる。 揺るがない目で、修良の居場所に向かった。 「今回こそ、あなたの思いを届けてあげます。太子殿下」

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