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百二十 俺は人を喰う!

幸一は仙縷閣に駆け付けたのはもう夕方頃、『最後の白山神』の千秋楽の上演が終わる頃。 部屋で修良が見つからなくて、舞台のほうを覗いた。 上演が終わって、観客が順次に離れていくはずなのに、観客席がまだ満席のまま、ざわざわ騒動している。 様子がおかしく思って、幸一は舞台の裏に訊ねに行った。 舞台の裏で、従業員たちもお互いを見つめ合い、どういうこととそわそわしている。 「幸世、どうした?何があったのか?」 幸一は妹を掴んで事情を聞いた。 「お、お兄様!」 幸世はぎゃと小さく跳んだ。 「た、大変です!鏡花さんは、鏡花さんはやめるって発表しました!」 「鏡花さんはやめる?もう役者をやらないのか?」 「違います!この仙縷閣の仕事をやめて、旅に出るって!」 「!」 「しかも、今から去るって言い出した!牡丹さんは追いかけに行ったの!」 幸世の話を聞いた幸一は急いで裏扉のほうに駆ける。 裏庭で、会話中の牡丹と鏡花を見つけた。 鏡花は何かを話したのか分からないが、牡丹は納得した表情をした。 牡丹に一礼をしてから、鏡花は出口のほうに身を翻した。 「鏡花さん、待ってください!」 幸一の声を聞いて、鏡花は足を止めた。 牡丹は静かにその場を去って、裏庭への扉を締めた。 「鏡花さん!ごめん!」 幸一はまず鏡花に頭を下げた。 「俺は思い出した。幸銘は、俺の前世の癸黙という人物らしい。彼が現れたのは、おそらく、俺のごちゃごちゃな前世のせいだ。鏡花さんまで巻き込まれて、本当に……」 鏡花はさりげなく、幸一の唇の前に人差し指を立てて、幸一の話を止めた。そして、淡々とした微笑みで質問をした。 「幸一様は、本当に私が巻き込まれただけと思っているのですか?」 「……」 鏡花の懐かしい眼差しに見つめられ、幸一は一度息を変えて、やっと胸に詰まっていたあの疑問を口にした。 「鏡花さんは、天良鬼なのか……」 でも、鏡花は答えしなく、さっきの話を続けた。 「私は自分の意志でお二人を会いに来たのです。幸銘も癸黙という人物ではありません。ですから、幸一様が謝るようなことはありません」 「!」 天良鬼の顔で、修良に似たよう話をする鏡花。懐かしいなのに、どこかよそよそしい雰囲気。 幸一はこの人の正体を完全に掴めなくなった。 「私のことより、修良様のことが先です」 「!先輩はどこ!?」 修良のことときたら、幸一は瞬時に反応した。 「投獄されたのです。各地の重罪犯を攫ったという罪です」 「!?なぜそんなことに!?」 「幸銘が告発しました。彼が従犯で、修良様が主犯だと」 「!」 「何を考えているのか分かりませんが、思い通りにはさせませんよ。私が官府に出頭します。自分こそが主犯と自白します」 そう言って、鏡花は扉のほうへ歩く。 でも、幸一は一歩先に彼の進路を塞いだ。 「だめだ!鏡花さんは無実だろ!」 「元と言えば、私は幸銘との『任務』を断ったから、彼が修良さんに直接に手を出したのです」 「任務って、まさか……」 「幸一様はもう気付きましたね。幸銘の言った通り、彼は『天命の星』、私は彼に選ばれた『救世主』。私たちが『神』から授けられた任務は、修良様の消滅と、幸一様から神の力を取り戻すことです」 やはりそうだったのか。 幸一は意外を感じなかった。 あの太陽太歳の行動からもう推測ができた。 分からなかったのは、「天命の星」の正体と、彼たちが「救世主」を選ぶ基準だ。 「ですが、私は救世主になるつもりはなく、ずっと幸銘への協力を断っていました。この件をここまで伸ばしたのは、私のわがままの結果です。もうこれ以上お二人にご迷惑をかけてはいけません。私は責任をもってこの件を……」 鏡花の話が終わる前に、幸一は断絶な口調で彼の話を断ち切った。 「たとえ神の命令でも、鏡花さんがやりたくないなら、責任じゃない!」 「!」 「先輩も鏡花も犯人じゃない。罪のない人に責任を背負わせることは、徹底的に間違っている!」 旧世界で天良鬼が神の幹に縛られた場面が、一瞬に幸一の脳内に蘇る。 「とにかく、まずその牢屋に行こう!鏡花さんは何もしなくていい、幸銘は俺がなんとかする!」 反論を許さない勢いで、幸一は先頭を歩いた。 鏡花は仕方なさそうに淡い微笑みを浮かべながら、幸一の後についた。 *** 幸銘と修良は、柳蓮県の重罪犯牢に閉じ込めらている。 幸一は看守長に面会の要求を出したが、きっぱりと断られた。 「だめだめ。この中にいるやつらは重罪犯だ。上からの許可がないと、誰も面会できない~」 寝ぼけた目で幸一が出した面会願書を一瞥して、看守長は厄払いみたいな態度で何回か手を振った。 「上の許可は誰に申請すればいいですか?」 幸一は焦った気持ちを抑えて、更に訊ねた。 「申請しても無駄だ。重罪犯との面会は厳しく管理されている」 「構いません。申請方法を教えてください」 「無理は無理だ。お前のために言っているぞ、小童。お偉いさんたちは怖いぞ!ただしな、お前のために進言する人がいれば、融通が聞くかもしれないな~」 「私のために、進言する人?」 看守長は片手の指先を擦りながら、横目で幸一に合図を出した。 だが、幸一はそれが賄賂をくれという意味だと分からなかった。 「幸一様、こういうことです……」 鏡花は幸一の耳元で看守長の意図を明かした。 そして、袖から金銭物を取り出す。 「これでよければ――」 だが、看守長に渡す前に幸一に止められた。 「こんなやつの言うことを聞く必要はない。俺は別の方法で入る」 幸一は一度咳ばらいをして、顎を上げて、看守長を見下ろした。 「賄賂なんかを要求する余裕があるのか?俺は牢を刧すかもしれないぞ!」 「はぁ?」 意外な一言で、看守長のボケ目はやっと完全に開けた。 「止めたいなら、さっさと俺を捕まえて投獄するといい」 「ぷっ、そんなとっさに思いついた言い訳、誰が信じるもんか!」 看守長は鼻で笑った。 幸一は不敵な笑いを返して、神秘そうにあの「汚名」を口にした。 「玄天双煞、聞いたことはない?」 「玄天……っ?!」 看守長は最初に戸惑っていたが、すぐ反応して、体を引き締めた。 「牢屋の中にいる天修良はその一人、この玄幸一はもう一人だ。彼が有罪なら俺も同じだ。だから、本当の事情を知りたいなら、俺を捕まえて、一緒に調べたほうが―――」 幸一の話はまだ終わっていないのに、看守長は叫びながら、ドタバタに玄関に置いてある太鼓に走った。 「緊急集合だ――!ひ、人食いがきたああああ――!!」 「ちょっ、人食い!?」 いつの間にかそんな冤罪が追加されたのか分からないけど、今はそんなことに構う場合じゃないと幸一は分かる。 むしろ、それを好都合に利用したほうが早い。 看守長が太鼓を叩く寸前に、幸一は片手で彼の胸倉を掴んで、彼の体を吊り上げた。 「そうだ!俺を入れてもらえないなら、本当に人を喰っちまうかもしれないぞ!」 「あの、幸一様……そこまでする必要は……」 鏡花の声はもうこの場面に入らない。 看守長は鬼形相の幸一に必死に乞った。 「か、勘弁してくれ!あ、あなた様の仲間なら、もう、もうここにいないんだ!ついさっきに、御霊堂の方が連れ出した!!攫われた罪人たちを処理しに行くだって」 「!?」

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