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春は2人のもの5
鐘路からソウルタワーへはタクシーですぐだった。タクシーでないと、地下鉄|明洞《ミョンドン》駅から離れたところからケーブルカーに乗るんだけど、鐘路からだとケーブルカー乗り場までが遠い。だからタクシーにしたんだけど、タクシーまと一直線でいけるから早かったんだ。
タクシーを降りた俺達はソウルタワーにはもう上ったので、もう上る必要はない。今日の俺たちの目的はソウルタワーの目の前にあるツリーだ。ツリーには普通の四角いのはもちろん、ハート型の南京錠がたくさんついてある。
「ここで待ってて。南京錠買ってくるから」
そう言ってイジュンは南京錠を買いに行った。イジュンを見送ってからツリーにたくさんついている南京錠を見る。カップルが別れないように鍵をかけた南京錠。鍵は投げ捨てているらしいから、もう南京錠は開けられない。でも、これだけたくさんの南京錠がかかっているけど、ほんとにみんな別れてないのだろうか。それとも、鍵はかけたけど、そんなこと忘れてしまって別れてしまっているのだろうか。別れないためのパワースポットだというけれど、100%別れないなんてことはないだろう。俺とイジュンはどうだろうか。わからない。わからないから、冬に来たときは鍵をかけたかったイジュンに、今はかけられないと言ったんだ。でも、春になって韓国へ来て、それから4ヶ月一緒に仕事をして、もちろんデートもして。以前よりもイジュンという人がわかってきて、ずっと傍にいたいと思うようになった。だから愛してると伝えた。絶対なんて言葉はあり得ないけど、それくらいに俺はイジュンの傍を離れたくないって思ってる。そこまで考えて鍵をかけるカップルはどれだけいるんだろう。そんなことをごちゃごちゃ考えるのは俺だけなのだろうか。まぁ、俺以外にもいたとして、少ないかもしれない。なんとなくそう思った。
そんなことをごちゃごちゃ考えているとイジュンが戻ってきた。
「お待たせ。いやー。この南京錠。鍵がないんだって。昔は鍵ついてたらしいけど、今は開けないようにするんだからって、わざとつけてないんだってさ。その代わりに油性ペンがついてた」
そう言うイジュンの手元を見て一瞬固まった。なぜって、イジュンが持っていたのは大きなピンクのハート型だったからだ。
「ハートなんて恥ずかしくないのか?」
「なんで? 愛って言ったらハートでしょ。しかも俺の明日海への想いは大きいから、ハートでも大きいのを選んできた」
得意気に話すイジュンに俺はクラクラした。ダメだ。俺も一緒に買いに行くべきだった。だからって今から普通の四角いのに換えてこいとも言えないから、代わりに大きなため息をついた。ため息をつく俺をイジュンは不思議そうな顔で見ている。イジュンの中ではハートがこれが正解なんだろうな。一緒に行かなかった俺が悪かったか、と諦めて鍵にはなんと書くのか訊く。
「んー。ありきたりだけど、”|영원히 함께 있어《永遠に一緒にいるよ》”じゃないかな。他になにかいい言葉ある?」
逆にそう尋ねられて考えるけれど、思い浮かぶ言葉はない。
「それをさ、韓国語だけでなく日本語でも書こうよ。せっかく大きいんだしさ」
「日本語でも? 日本人にも見られたら恥ずかしい」
「そうは言うけどさ、韓国で韓国語で書くのは恥ずかしくないの? 見るとしたら圧倒的に韓国人だよ」
そう言われて我に返る。そうだ。ここは韓国で住んでいるのは大半は韓国人で言語は韓国語だ。韓国人で日本語の読み書きができる人がどれだけいるかわからないけれど、韓国語を読める人の方が圧倒的に多い。そしたら、数少ない日本語なんて気にしなくていいのだろうか。大体、日本人のどれだけがこのツリーを知っているだろう? 旅行のポータルサイトには載っているだろうか。多分載っている。これだけ多くの南京錠がついているということは有名ということだろうから。でも、鍵をかけようとするカップルはどれだけいるだろうか。恋人同士で韓国へ来た人じゃないと鍵はかけないだろう。そしてカップルで旅行にくることはあるけれど、大半は友人同士だろう。友人と来たら、このツリーは見るだろうけど、わざわざひとつひとつ見ることはないだろう。そうしたら日本語で書いてもいいか。
「明日海。ごちゃごちゃ考えてると思うけど、人を愛するのって恥ずかしいことじゃないからね。それを忘れないで」
まさにごちゃごちゃ考えていた俺にイジュンは言う。そうだ。確かに人を愛するのは恥ずかしいことじゃない。ただ俺は恥ずかしがりなだけなんだ。
「わかった。韓国語と日本語で書こう」
「明日海! 愛してるよ。あ、日本語は明日海が書いて。俺、まだ読み書きマスター出来てないから」
「わかった。じゃあ韓国語はイジュンが書いて」
「うん」
そしてイジュンが韓国語で書いて、俺が日本語で書く。そして鍵のない南京錠をかける。これで、俺とイジュンは別れることがない、というわけだ。とは言ってもどうかはわからない。でも、もう別れたくない、ずっと一緒にいたいと強く思ってる。冬に韓国へ来たときよりずっと強く。ほんとに永遠に一緒にいられますように。そう思って一瞬目を閉じた。
THE END
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