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春は2人のもの4
イジュンに連れられてきた鐘路の通りには、イジュンの言った通り貴金属店が軒を連ねていた。鐘路に来たのは初めてじゃないのに、こんなに店があるなんて気が付かなかった。店の中から外に向けて飾られているアクセサリーは女性が見たら楽しいんだろうなと思う。
「ペアリングを表に出しているところは少ないね。あ! ここは出してる。シンプルでいいね。中、入ってみようか?」
「うん」
こんなに店があるとどの店に入ったらいいのかわからなくなる。だからシンプルなペアリングが表に出ているところならいいんじゃないかと思って返事をする。でも、付き合って100日でペアリングって気、早くないか? それとも最初は安い指輪にしておくんだろうか? 韓国のカップル事情がわからない俺はそんなふうに考えながらイジュンの後について店に入る。イジュンが、俺が女性に間違われるから大丈夫だと軽く言ってたけど、男だとわかったらどうするんだよ。大体、話せば声で男だってわかるだろうに。でも、ここで俺が男だってバレたら困るので、できるだけ話さないでいよう。話すときも短く。……って、なんで俺がそんなこと気をつかわなくちゃいけないんだよ。でもなぁ。日本よりもゲイの居場所がないのなら、バレるわけにはいかない。日本だって男2人でアクセサリーショップに入るのなんて勇気のいることなのに、韓国でなんてもっとだ。あ、でも、意図的に黙っていなくても平気かも。イジュンのいうことなら、簡単な言い回しをしてくれるから大体わかるようになってきたけど、アクセサリーに関する韓国語なんてわからないから黙って聞いているしかないだろう。これは良かったと思うところだろうか。
店に入ってすぐのあたりにペアリングが並んでいた。こんなに目につきやすいところにあるということは、ペアリングを買う人が多いということなのだろうか。
「お店ではなかなかつけていることはできないけど、できるだけつけていて欲しいし、長く使いたいから、シンプルで小さなダイヤがあしらわれたのがいいかな」
「ダイヤ必要か?」
できるだけ声を聞かれたくなくて、つい小さな声で話してしまう。
「え? あった方がおしゃれじゃん。それに長く使うならそれくらいの出費いいでしょ」
まぁ、長く使う予定ではいるけど。今日、そんな現金持ってきてない。仕方ない。今日はクレジットカードを使うしかないか。
「石が気になるなら、内側についているのでもいいんじゃない? あると思うんだけど……」
そう言ってイジュンは真剣に指輪を眺めている。俺も探そう。確かに内側についているのなら、そんなに気にならないし。そう思って俺も見ているとイジュンが、あった! と声をあげた。
「明日海、こっちこっち。これなんかいいんじゃないか? 小さな石が内側についていて、ホワイトゴールドだ」
イジュンのいるところへ行くと、イジュンの指の先には遅くてうねっているシンプルなリングがあった。そして内側にはダイヤが一粒埋め込まれていた。内側なんて見えないから、俺としてはダイヤなんてなくてもシンプルで飽きのこないデザインがいいと思った。
「これどう? ホワイトゴールドだから、そんなに高くもないし。デザインもシンプルだよ」
「いいんじゃないか?」
他のは石は外についているから却下だ。俺としては石はいらないと思うんだけどな。イジュン的には必要なんだろう。俺としては目立たなければいい。
「すいませーん」
俺の声を受けて、イジュンがお店のお姉さんを呼ぶ。
「この指輪見せて欲しいんですけど」
そう言うとお姉さんはガラスケースから指輪を取り出してくれた。土台が細いからほんとに小さな石で、外からは全く見えない。これぐらいならいいと思う。ホワイトゴールドだからそんなに高くないし。
「明日海、嵌めてみて」
イジュンが俺の薬指に嵌めてくる。もちろんリングは少し小さい。でも、嵌めてみたイメージはわかる。うん、これならいいかもしれない。っていうか早く決めて早く店を出たいというのが本音だ。いくらできるだけ喋らないようにしたって、いつ男だってバレるかわからないからな。
「どう? 俺も嵌めてみるか」
そう言ってお揃いの、でも俺が嵌めたのよりサイズの大きい方を指に嵌めてみた。うん、イジュンにも似合う。イジュンは指が細いから、あまり太いのは似合わないだろう。
「いいと思う」
「うん。そうだね。これ、貰えますか?」
イジュンがそう言うと、お姉さんが俺達の指のサイズを測る。指輪のサイズで男だってバレないかな? そう思って俺がドキドキしていても、お姉さんは表情ひとつ変えない。バレてないってことか、興味がないのか。どちらにしても助かった。
「裏側にイニシャルとか入れられるみたいだよ。入れようよ」
「いいよ」
「じゃあ、L&Aって彫ってください」
俺はお姉さんとイジュンがなにを言っているか黙って聞いていても、半分くらいしかわからない。やっぱり韓国語難しいな。
そんなことを思いながらぼんやりしていると、イジュンが支払いまで済ませてしまい、お店を出てしまった。あ、俺、カードで払う気だったからどうしよう。どこかでキャッシングするか。
「いくらした?」
「2つで4万円」
「そしたらどこかでキャッシングさせて。手持ちないから」
1万円ならあるけど、2万円はない。
「いいよ。男が買うものだし」
「俺だって男なんだし」
「いや、だってそこは俺でしょ。だって、ほら……」
イジュンがなにを言いたいのかすぐには分からなかったけれど、言葉を濁したことで理解した。つまりはベッドでどうか、ということだ。そう理解した瞬間、思わず赤くなってしまった。
「とりあえず俺に買わせて? そんなに高いわけじゃないし」
イジュンは穏やかに言っているけれど、案を引っ込める気はないようだ。そうしたら、そのうちなにかの形でペアのを買うときは俺が出そう。そう思って頷いた。
「わかった。大事にするよ」
「うん。受け取って貰えれば俺はそれでいいよ。さ、ソウルタワー行くよ。タクシーで行こう」
そう思って大通りへ出てタクシーを止めた。
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