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プロローグ
「眞陽 、おやすみ」
姉ちゃんと交わした、最後の会話。
「うん」
最後なのに、これが俺の返事だった。めちゃくちゃ後悔するよな。「うん」だもん。そりゃぁさ、姉ちゃんが死ぬって知ってりゃ、『もう少し話したい』とか言えたと思う。でも、死ぬ時ってさ、突然だもん……
『はい、私は明日死にます』
『何時何分に僕は死ぬ予定です』
『これから〇×□が起こるので、あなたは死にます』
そんな事あるわけねえし……
現実はさ、何も言えないで死んじゃう人も多いと思うんだ。
現に俺の姉ちゃんは、何も言わずに死んじゃったし。遺書くらい書けよ、って思ったよ。残された身になってくれよなって。理由が分からないとさ、悲しくて泣いても、ずっとモヤモヤが残るんだよ。死なないといけない『何か』が姉ちゃんにあったのか、ってさ。
姉ちゃんが死んでから、両親の関係もおかしくなっちゃってさ。ずっと姉ちゃんの事で泣いてたかと思ったら、毎日大喧嘩するようになってさ。俺が高校卒業する頃に離婚しやがった。
別にそれは、俺にとっては、どうでもいい事だった。毎日喧嘩して憎しみ合ってるくらいなら、離婚してくれてせいせいしてるし。俺も居心地悪くて毎日バイト入れて忙しくしてたし、家に寝に帰ってるだけだったし。
こんな感じだから、俺は大学に進学するわけなくてさ。仕事見つけても続かなくて、いまだにフリーターなわけ。
話を戻すけどさ。
両親が離婚する時にさ、俺も一人暮らしするわ、ってなったわけ。そしたらさ、親父が援助してやる、って言うんだよ。俺はさ、そんなつもりはさらさらなくて、逆にムカッとしたんだけど、拒むこともないよなと思い直して、それなりのマンションを選んでやった。だからまぁ、フリーターでもなんとかやっていけてるわけ。
その時にさ、家出る前に姉ちゃんの部屋の整理をしようと思ったんだよ。死んだ時のまま、時間が止まっちゃってる、あの部屋の整理。姉ちゃんは俺と違ってちゃんとしてたから、そんな事しなくても、きちんと整理されてたんだけどさ。何か姉ちゃんの形見を持って行きたかった、って言う方が正確かもな。それで何となく姉ちゃんが使ってた、手帳を選んだんだ。分厚い手帳で、もしかしたら死ななきゃいけない理由でも書いてあるんじゃないかって思ったしさ。
そんな大切な形見もさ、新しいマンションに越した時に段ボールに入れて持ってきたまんま、使ってない部屋に置きっぱなしで。形見を持って行きたい、って言ったの俺なのにな……
俺ってさ、子供時代はそれなりに真っ直ぐ育ったつもりなんだけどさ、途中からおかしくなっちゃったからさ、人付き合いも適当になっちゃって。まともな恋愛したことなくて。性欲の捌け口ぐらいにしか思ってなくて……
それはちょっと今は反省してる……
そんで、こんなんだから一回だけ寝た奴が押しかけてきちゃって。で、喧嘩して。その時そいつが、その段ボールぶちまけやがってさ。姉ちゃんの手帳が床を滑って行ったの見て、頭来て……そいつ殴って……ごめんなさい……
そいつが出てった後に慌てて姉ちゃんの手帳を手に取ったんだけど。多分ぶちまけられた拍子に出てきたんだと思う。手帳から写真が出てきたんだよ。男の写真。もしかしたら姉ちゃんの彼氏だった人なのかもって思ったんだけど、俺その時思い出したんだよ。姉ちゃんが死ぬ何日か前に、写真を握りしめて泣きながら、
『絶対に許さない』
そう言っていたのをさ。
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