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第19話
「綾人ぉ………それだけは、堪忍…!」
「ダメだ」
「そこを何とか!」
今日は大学が終わるのが遅かったため、いつもより遅い時間にスーパーに買い物に来ていた。
今はちょうど、嫌がる陽助を無視して綾人がトマトをカゴに入れたところだ。
「あああ〜………もう終わりや」
「手軽に栄養摂れるんだから文句言うな」
「別にトマトやなくたってええやん」
「つべこべ言うな!」
2人で静かに騒ぎながらスーパーを歩いていると、後ろから声がかかった。
「あれ、綾人じゃないか?」
2人が振り向くと、そこに立っていたのは、黒の短髪で陽助と同じくらいの体格をしているスーツの青年だった。
「綾人、すっかり大人になったな」
「………え、もしかして、雅兄!?」
「久しぶり」
雅兄と呼ばれたその青年は、ニコリと微笑むと綾人の頭を撫でた。それを見てムッとした表情を浮かべた陽助が、綾人の腕を軽く引いて尋ねる。
「綾人の知り合い?」
「ああ。実家の近所に住んでた幼馴染の兄ちゃん」
雅也の視線が綾人から陽助へと移される。その目が、ほんの一瞬だけ、陽助を値踏みするように細められたように見えた。
「どうも、綾人の幼馴染の國見雅也です」
「…ドーモ。樫月です」
陽助は素っ気なく挨拶を返すが、そんな様子には気がつかない程綾人は舞い上がって雅也に話しかける。
「雅兄ももしかしてこの辺住んでるの?」
「ああ。歩いて5分くらいかな」
「えー!雅兄が一人暮らししてからもう何年も会えてなかったのに、こんなとこでバッタリ会うなんて!!運命!」
綾人は嬉しそうに満面の笑みを雅也に向ける。
「俺が就職したときからだから、もう4年くらいになるか。仕事が忙しくて中々帰省もできなかったしな」
「もー、寂しかったんだからね!」
「悪かったって。…そうだ、連絡先交換しておかないか?家も近そうだし、また今度ゆっくり会おう」
「うん!」
2人が連絡先を交換すると、雅也は職場に戻らなきゃいけないから、と言って急いでレジへ向かっていった。
「…こんな時間からまた職場?本当に忙しいんだな………」
「綾人、浮気はあかんで」
「なっ、どこがだよ!ただの幼馴染の兄ちゃんだって」
とても面白くなさそうな陽助を振り払い、買い物を続ける綾人。
「ありがとうございましたー」
2人は会計を済ませて店を出た。
陽助は頬を膨らませたまま、食材の入ったレジ袋を担いでいる。
「…………」
なんとなく帰り道が気まずいが、別に何も悪いことをしたわけではないので、綾人は特に気にせず歩みを進めた。
家に着き、鍵を開ける。
先に綾人が入り、陽助が後に続く。
ドアが閉じられた瞬間、靴を脱ぐ間もなく綾人は後ろから陽助に抱き締められた。
「っ!?な、に?」
「別に幼馴染やからかまへんと思ってるけど、何かモヤモヤする」
ストレートに嫉妬を見せる陽助が、綾人にはなんだか可愛く見えた。
「ふはっ、お前、また嫉妬かよ。端留のときに続いて」
陽助の頭をぐしゃぐしゃと撫で回す。
「いや、アイツは嫉妬っちゅーか…」
「?」
「…いや、なんでもない。とにかく、雅兄?とやらは昔の綾人も知っとるんやろ?あー、ズルイわ」
陽助は綾人の豪快な撫で回しを無抵抗で受け止めている。
「小さい頃の俺?」
「可愛かったんやろーなー」
「……お前は雅兄が知らない色んな俺を知ってんじゃん」
「……出た、綾人の人たらし」
「はっ!?たらしてねーし!」
綾人が陽助から離れようとするが、陽助はくっついたまま離れない。
「〜〜っ、そろそろ離せ!」
「綾人からちゅーしてくれるなら離したる」
「は?」
陽助は綾人の耳元でキスを強請る。
「ほら、ちゅ〜」
「まて、まて!」
「早よしてや」
陽助はちゅーして?なんて可愛い顔で言っているが、綾人を逃すまいとするパワーは可愛くないほど強い。
「あーやーとー。キスしてくれるまで離さへんで?」
「〜〜〜っ」
「なぁなぁ」
綾人は恥ずかしさとそろそろ家に上がりたいという気持ちの間で揺れていた。
意を決して陽助の方を向くが、その唇が目に入った瞬間、恥ずかしさが勝って顔をまた背けてしまう。
「おーい、俺から襲ってほしいってこと?」
「なっ、ちがう!」
「しょーがないなぁ」
「っわ!」
陽助は、綾人の体を自分に向かせ、そのまま壁に押し付ける。
急に目が合い、さらには壁と陽助の間に閉じ込められたことで綾人の顔はみるみる赤くなっていく。
「赤くなっちゃって、かわええ」
「…………!」
「そろそろキスにも慣れて欲しいけど、ウブなままの綾人も可愛いな」
「…ウブじゃねえ」
「あ、これもアイツが知らない綾人の顔やんな。嬉し」
陽助は満足したような顔で微笑むと、綾人の前髪を手で上げ、キスを落とした。
「気分よくなったからおでこで許したるわ」
そう言うと、エコバッグを持って鼻歌を歌いながら家の中へ入っていく。
「………」
緊張が解けたが、まだ恥ずかしさが残っている綾人は、火照りが引くまで、立ち上がれなかった。
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