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第5話

 *****  「本日の部活動のテーマは、人物像! だ」  美術室に入ってくるなり、無駄に大きな声を出して説明する部長の姿を冷めた目で見ながら、部員が定位置につく。  サトと京香も校庭を眺めていたが、しょうがなく部長の方へ向いた。 「モデルは、だれですか?」  部員が手を挙げて言う。 「俺だ」  部長のドヤ顔に、一同またか……という言葉を飲み込んだ。  彫刻や陶芸を専攻している部員もスケッチをする。  1か月に一度のペースで、この部長がモデルという実地訓練的なことをしている。 「あいつ、モデルになるの好きなんだよ。見られるのが快感ってやつだな」  彫刻を専攻している2年生が、身悶えながらふざけて後輩に話しかけている。  後輩は笑うしかない。    おもむろに、シャツを脱ぎ上半身裸になった部長。 「今日は、ヌードだ」  ヌードといっても、ズボンは着用している。  椅子の背もたれに肘をかけ、斜め横を向きで座る姿勢になった部長をそれぞれ自分の好きなアングルでスケッチしていく。  サトは、部長を真正面から見たところに椅子を置き描き始めた。  部長の視線は、チラチラ京香に向いていた。  京香は、そのまま椅子を正面にした、斜め横顔の部長を描く位置に座った。  視線に気づいているであろうが、京香の表情は変わらない。  以前、京香がサトに話していた。 「部長ってさ、私のこと好きだよね。気持ちは嬉しいけど、気が向かないのよね」  色が見えなくても、部長の心は分かりやすい。  何事も一生懸命で、面倒見がよくて、お人好し。  本当にこんな人いるんだなって思うくらい純粋な人。  部長の色は白い。  『白は200色あるんやて』なんていう言葉を聞いたことがあるが、絵具では表せない色だ。  大体、人がもっている『色』は、ほとんど絵具で表せない。  絵画教室に通い始めた小さい頃は色が表現できて喜んでいたが、今は違う。  どうやっても人の感情は、表現できない。  それでも、絵を描くことが好きなのは、景色でも人でも些細な表情の変化があって、美しいからだ。  特に、人を見ていると面白い。  部長は、京香の視線を意識しながら、喜んだり、憂いたりする。  彼の色もそれに合わせて、淡くなったり濃くなったりしていた。  部長のスケッチが仕上がり、時間の最後に来た顧問へ見せて、この日の部活は終了となった。  窓の外はまだ明るい。  運動部の声や音がグラウンドから聞こえる。  京香が窓を開けて、大きく伸びをしていた。 「ああー、外の空気は気持ちいいね」  部長は急いでシャツを着ると、京香の横に来て何か話しかけたそうにしていた。 「何か用?」  京香から挙動不審の部長に問いかける。 「あ、え、えーっと、鍵閉めるから。早く片付けろよ」 「はーい」  顔も見ずに返事をして、グラウンドの陸上部を見ている。  部長も京香の視線を追いかけてグラウンドを見ている。 「陰谷さんだっけ? モデルしてくれることになったのか?」 「え? なんで知ってるの?」 「そ、そりゃ、毎回、モデルのこと話してたし……な? サト?」  サトは、そんな部長の問いに頷いただけで、グラウンドにいる亮太を見つめていた。  まだ一年生なのに、もうファンがいるようだ。  グラウンドのフェンス越しにいる女子生徒の黄色い声が聞こえる。 「亮太くん、こっち向いて」 「可愛い」  それを先輩に揶揄われながら、ボール拾いをしたり走り込む姿は、一生懸命だ。  微塵もふざけるような態度はない。  それがまた、かっこ良いと慕われる。  亮太は、友達が多い。  いつも周りに人がいる。    僕は、運動が得意なわけでもない。  勉強が出来るというのも違う。  なにか秀でているものがない。  だから、キラキラしている彼の隣に僕なんかが居たらダメだ。  ひっそりと遠くから見つめるだけで満足しているのに……。  グラウンドにいる亮太が、ふと顔を上げる。  見下ろしているサトと目が合った。  亮太は、口元を少し上げて、手を振った。  その瞬間、近くの女子から「キャー」という悲鳴が上がる。 「手振ってくれた」 「えっ、あんたにじゃないでしょ」 「うそ、誰よ」  女子の口々から、いろんな言葉が湧き上がる。  ほんの、一瞬の行動だったけど、サトの心臓は跳ね上がっていた。 (ほんとに、かっこいいんだよな。 僕も、キャーキャー言いたいよ……)  そんな気持ち悪い妄想に耽っていると、京香から絵具を買いに行きたいから、画材店に付き合ってくれと言われ、部長と三人で学校帰りに行くこととなった。

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