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第4話

 *****  美術部では、年に一度、市の展覧会へ出品するための作品を制作している。  絵、陶芸、彫刻。  美術部には、全員で六名在籍している。  サトと京香、部長の三人が絵を専攻し、あとの三人は陶芸、彫刻だ。    京香に、『色が見える』話をしたのは、サトが高校に入学したばかりの頃だ。  新部員のお世話係である京香と共に行動することが多かった。    人物像を描きたいと常々思っていた京香は、そのことをサトに話していた。  モデルも決まっているのだと。 「どうしたらモデルになってくれると思う?」  その日は、外をスケッチするために、中庭に向かって校庭の横を歩いていた。  陸上部が準備体操をしている真横を通る。   「あの人ですよね?」  手足が長く、ほっそりとした女性。  髪の毛を1つに束ねている。  冷たそうな外見なのに、彼女の周りは、鮮やかなオレンジで、とても楽しそうな印象を持った。 「声かけてみても大丈夫だと思います。すごく調子が良さそうですよ」 「な、何言ってんのよ。練習中だし……邪魔しちゃ悪いわよ」 「……ああ、そうですか」  サトは、中庭に向かって歩き出す。 「そうよ……」  京香は、そう呟くと、恨めしそうに陸上部の彼女を見ながら、サトの後を追いかけた。  中庭は、ちょっとした日本庭園がある。  近くの四阿に腰掛けて、松の木をスケッチする。 「ねえ、さっきの調子良さそうってなに? 彼女のどこを見てわかったわけ? もしかして……」 「……」  もしかして、何か見えるの? そんな質問をされるのかと身構えてしまう。 「あなたも、狙ってるのね? だから彼女に詳しいんでしょ?」  突拍子もない言葉に、スケッチしていた鉛筆の芯を折ってしまった。  否定しようと京香の顔を見るが、彼女は鋭い眼差しでサトを見ている。  気圧される……。  京香の周りは赤色に燃えていた。  真っ直ぐな性格の彼女は、喜怒哀楽が激しい。  それが羨ましくもあった。  サトは、ふふッと笑い、「狙ってませんよ」と伝えた。  きっと彼女は、しつこく聞いてくるだろう。  色のことを話してみようかと思った。  ――実は……。  小さい頃から見える色の話をした。  そして、陸上部の彼女は、面白い人なのではないかという印象をもったこと。  京香の顔は、真剣なまま腕組みをして、なにやら考えている。 「じゃ、今から行ってくる」  そう言うと、走って中庭を抜けて校庭に向かってしまった。  そして五分も経たないうちに戻ってきて言った。 「断られた」 「……?」   落ち込む様子もなく続ける。 「でも、またお願いしてみる。今は大会前だからっていう理由だったから……それに彼女、とても素敵な人だった」  うっとりしている京香を横目にスケッチを続ける。  思い立ったら行動の人。  皆んな、京香のことをそう言う。 (この人、凄いな)  自分には出来ない。   「陰谷祥っていうんだって」 「名前知らなかったんですか?」  こくりと頷く京香の顔は、真剣そのものだ。 「一目惚れよ」  思い出しては、目を細めて、ニヤついている。 「……女性が……好き……なんですか?」  おそるおそる聞いてみる。  サトは、完全にスケッチする手を止めていた。  京香が顔を仰いで、1つ息を吐いた。 「わからない。でも彼女のことは好きだわ」 「そうなんですね」 「で、彼女に告ったわ。ついでだし」 「……ついでって」  今度は、鉛筆を落としてしまった。  なんたる行動力。 「サトくんのそれ、イイわね。色が見えるなんてさ。明日晴れるとか雨降るとかそんな感じでしょ? 便利ね」  そんな例えをされるとは思わなかった。  京香にとっては、天気と一緒。  それが、なんだかホッとして、考えすぎるのもくだらないことなんだと思えた。  呆気にとられた出来事だった。

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