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第3話

 美術部の隣は吹奏楽部で、いつものように部員の声と楽器の音で賑やかだ。  音楽準備室を挟んで位置している美術部の教室には、サトと中田 京香がいる。  京香は、サトの1つ先輩だ。  背が低くて、天然パーマのくるくるした髪の毛をきちんとリボンで結んでいる。  少女漫画から出てきたような可憐な見た目なのだが、はっきりモノ申す人で、しょっちゅう部長と口喧嘩している。   「ねえ、サトくん。今日の私は何色に見えるかしら?」 「そうですね……。ピンクって感じですかね」  二人して窓の外を眺めながら、口だけを動かす。  フフフと不気味な笑い方をした後、「とうとう私の想いが通じたのよ」とグラウンドで準備体操している子に手を振っている。  相手は、陸上部の走り高跳びの選手だ。  その子もそれに気づいて、手を振り返した。 「ああ、モデルになってくれたんですか?」 「そうなのよ。苦節1か月。やっと気持ちが通じ合ったのよ」 「……」  だいぶ、しつこかったからな。  通じ合ったのかどうかはさておき、モデルの了承を得られたことがすごく嬉しかったらしい。  京香の周りには、ピンクの幸せ色が見えた。    サトは、小さい頃から、人の機微に敏感だ。  人の感情が『色』で見える。  悲しんでいる時は、黒や灰色のような濁った色。  怒っている時は、赤、紫、黒の混ざったような濃い色。  喜んでいる時は、パステルカラーのように鮮やかな色。  人それぞれ多少の違いがあるのだが、基本は同じような色合いに見える。  なんとなく今日は調子がいいのかな? 悪いのかな? という判断をしていたのだ。    昔、それを母に話したら、黙ってしまった。  母の色がみるみる濁っていくのを見たことがトラウマになっている。  ……言ってはいけないのだと。  不思議で、恐ろしくて、情緒不安定だった幼少期。  母は、それを絵に描いてみたらと提案してくれた。  絵画教室へ通うことになってから、色を表現できることで、だいぶ落ち着いてきたらしいが。  この色が見えるということは母と絵画教室の先生は知っている。  遠い昔、亮太に話した記憶があるが、彼がそれを覚えているか分からない。

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