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第1話 私の大切な人たち

回帰前の自分を一言で表すなら、八方美人。 他人から悪意を向けられるのが苦手で、いつも善行を心がけていた。 公爵家という優秀な血統ゆえに所持する魔力は膨大で、両親自慢の息子でもあり、国の宝と称されるほどの将来有望な若者。 それが私、エリファレオだ。 この国は、爵位よりも、魔力の所持量で優劣を競う。 だから下位貴族であっても魔力量が高ければ敬われるし、上位貴族であっても魔力がなければ見下された。 私は魔力が膨大であっても、本当は魔術具を作ることに興味があった。 しかし空気を読んだ結果、皆の期待に応える形でアカデミーでは魔法師の道を選ぶことになった。 戦時では後衛を、平時では防御壁の維持や街の治安維持に励む、全国民憧れの職業だ。 アカデミーでは、気難しいと聞いていた国唯一の王子であるアダルバードとの関係も良好で、私が彼のピンチを救った時から、全生徒公認の「王子殿下のお気に入り」となった。 常に微笑みを絶やさず、完璧な存在でいようとする私だったが、たまには疲れることもある。 そんな中、歯に衣着せぬ言い方をするアダルバードは、私に息抜きの仕方を教えてくれた。 いつも裏表なく接してくる彼とは時に意見が食い違い、ぶつかり合うこともあったが、気づけば彼は私の本音を吐露できる大切な親友になっていた。 そして一方で、小さな頃からの私の癒しとなっている大切な人がいた。 公爵家の使用人である、ジェレミーだ。 ジェレミーは表向き使用人だが、本当のところは異母弟である。 父の愛人の息子であるジェレミーは、使用人だった彼の母が亡くなり本人が六歳で私が八歳の時、公爵家に引き取られた。 とはいっても、実子でも養子でもなく、単なる孤児の後見人としてだけだ。 よって、国一番の資産家である侯爵家から嫁いだ母は、当然のことながらジェレミーを忌み嫌い、彼を敷地内の厩のようなところで育てさせた。 私は平民よりも水準の低い必要最低限の食事と寝床しか与えられないジェレミーを不憫に思い、母の目を盗んでは何度も足繁くその掘っ立て小屋に通った。 「君は私の大事な弟だから」と言って、私が与えられる物はなんでも分け与えると、やがて彼の警戒心が解けていくのがわかった。 「エリファレオ様」と私の名前を呼びながら、私の後ろをちょこまかと付いて来ては構って貰おうとするその姿が可愛くて仕方なかった。 可愛がらずにいられない弟には常に優しい兄で居続けた結果、弟は私にたいして誰よりも従順に育ち、私が十二歳でアカデミーに入る前には魔術具による主従関係を自ら望んだ。 そのことで母も、ジェレミーが私にとっての脅威にはならないと判断して、彼が同じアカデミーに通うことを許した。 とはいえ、私は貴族枠であり、ジェレミーは平民枠である。 アカデミーで私は、誰にでも平等で優しく、模範的に過ごした。 誰かが困っていれば助けるのが当たり前で、誰かが喧嘩していたら諫めるのが当たり前で、誰よりも秀でた成績を修めるのが当たり前だった。 アダルバードとジェレミーはそれぞれ私の半分くらいの魔力量で、アダルバードは剣術を、ジェレミーは魔術具を専攻しており、魔法師専攻の私とそれぞれを補うようにしてお互いに高め合っていた。 このまま順調に、平和な未来が訪れると、その時は信じて疑わなかった。

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