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第13話 軟禁されました

 俺はリオ・クライシス第三騎士団団長からのアプローチについてそろそろ真剣に考えなければならないのかもしれない。  リオの父親であるライフォンからリオの告白は本物である旨を聞かされたことで、俺が今まで見て見ぬふりをし続けてきたこのリオからの想いと自分の中にあるリオへの想いについて考えなければならないと思い始めたのだ。  もちろんリオから向けられる好意が嫌なわけではない。  しかしそれは、リオが悠一≪しんゆう≫と同じ顔をしているからなのかどうかがわからないのだ。悠一≪しんゆう≫と同じ顔をしているから向けられる好意が嫌ではないのか、悠一≪しんゆう≫と同じ顔でなくともリオから向けられる好意自体が嫌ではないのか。  そもそもリオを悠一≪しんゆう≫と同一人物のように感じている俺はリオに対して失礼なことをしているのではないだろうか。それではリオの気持ちに向き合っていないことになるのかもしれない。  そんなことを考えながらいつも通り魔法付与の仕事を行っていたところ、仕事中にもかかわらず別のコトを考えていたからか、魔法付与対象である剣で指を切ってしまった。  「イッタ!」  ほんの少しかすって切ってしまっただけなのだが、痛みとは一切比例することのないほどのボリューム感の声を出してしまった。  その予想外に大きかった声に反応をしたのか、サポート部魔法付与課の課長が俺の部屋に訪れた。俺の部屋はサポート部の魔法付与課の中でも唯一専用部屋が与えられている。見方を変えれば隔離されているようにも見える。俺の場合魔法付与だけではなく、修理や修復の魔法を使用するため専用部屋が設けられているのだが、依頼分である剣や修理分の備品を届けに来る以外では滅多なことがない限り、この部屋に足を踏み入れるものはいない。  「どうした?」  「あ、課長すみません。大声だしてしまって。剣で指を切ってしまいまして」  「なんだ、大丈夫か? 医療班のところに行くか?」  「このくらいなら自分で治せるので大丈夫です。すみません。ご心配おかけいたしました」  「……自分で治せる?」  「え、はい、こうやって……」  俺はいつも通り、自身が使用可能な簡易回復魔法を自身に施す。  ここで思い出したのだが、自分自身に簡易回復魔法を使用するのはこれが初めてかもしれない。  そんなことを考えていると、課長にものすごい勢いで腕を掴まれ、俺の先ほどの指を切ってしまったときのボリュームとは比にならない声量で俺を怒鳴り散らした。  「お前は何をやっているんだ!」  突然の出来事に何も出来ず、大きく目を見開き、間抜けなきょとん顔を晒してしまっていた。それもそうだろう。今まで幾たびの人間をこの簡易回復魔法で完治とまではいかないものの回復を施してきたのだ。その度に怒られていたならまだ分かるが、回復魔法を使用して怒られるのが’初めてのため、俺としてもどうして怒られているのかすら分からない状況だからだ。  「え、えっと、簡易回復ですけど……」  「今まで怪我しても自分で治していたのか?」  「いえ、自分自身を治そうとしたのは今回が初めてで……」  「なら他に誰がその簡易回復が使えることを知っている?」  「誰が? えっとエリースさんにサジさん……それから先日の討伐遠征に参加したメンバーは基本知っていると思います。リオ第三騎士団団長にも簡易回復は施しましたから……」  それを聞いた課長はこの世の終わりのような表情を浮かべた状態でため息にしてはデカすぎるボリュームで息を吐き出す。  俺は何かまずいことをしてしまったのだろうか。  俺の知る限り、回復魔法に適正にある候補生は全員医療班行きが決定しているため、このサポート部魔法付与課にいること自体が問題になってしまうのだろうか。  いや、そうであればエリースが最初っから医療班の所属にしているのかもしれない……が、俺の魔法付与と修理魔法の実力を見て、サポート部魔法付与課の配属にされているのだから、それが問題ではないような気がする。  実際に課長含め、第一騎士団だけではなく騎士団全体が俺の修理魔法の存在を知っているのだから、今さら知らなかったや回復魔法に適正があるのであれば医療班に異動ということにはならないだろう。  ならなぜ俺は今怒られているのか。  それを考える暇もなく、俺は課長にものすごい勢いで手を引かれ、自分の部屋を後にした。 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □  魔法付与課の課長に手を引かれ連れてこられた先は第三騎士団の団長室であった。  課長はノックを三回行うと、団長室にいるであろう団長の返事を待つことなく部屋に入る。  「突然申し訳ございません。第三騎士団サポート部魔法付与課ルーク・ウェスタリアです。御取込み中失礼いたします。」  団長室にいたエリースは突然のことに驚いた表情を見せつつも、腕を引っ張られている俺を見つけるなりいつもの真剣な眼差しにすぐにもどった。  エリースの「どうした?」という言葉を聞いた後課長はことの顛末を簡潔に話し始めた。  課長の話を要約すると、俺に回復魔法の使用を禁止してほしいという内容であった。  「な! ど、どうしてですか? 回復魔法には医療班がいるからですか?」  「トーラス……お前は気付いていないのか?」  「気付いていない? 何の話ですか?」  「エリース第一騎士団長はご存じだったんですよね? どうして止めなかったんですか?」  「何の話だ?」  エリースも課長がどうしてここまで怒っているのかを理解していないようであった。  それにしびれを切らしたのか、課長は声を荒げながら分かるように説明をし始めた。  「だから! トーラスは自身に回復魔法を付与しようとしたんですよ? 他者ではなく自身にです!」  「…………自身に? それは本当かトーラス」  流れが変わったようだ。  それと同時にエリースは問題を理解したかのように俺に問いただす。  「え、えぇ……。ただ自分自身に使用しようとしたのは今回が初めてです。今までは他者にしか使用したことしかありません。もしかして自分自身に回復魔法を使用してならならない決まりでもあるのでしょうか? それなら知らずとはいえ失礼いたします……」  「そうではない……。はぁ。トーラス、お前は今までどのくらい回復魔法を使ってきた?」  自分自身に回復魔法を使用しようとしたことが悪いわけではないようだ。  話の流れからするに、誰に回復魔法を使用したかが問題のようだが、俺にはまだそれの何が問題なのかを理解出来ずにいた。  「俺が使えるのは簡易回復のみで……エリースさん含め回復魔法を使用した対象者は両手で数えるくらいだと思います……。あっ、えっと、先日の討伐遠征中は、魔法付与を行いながら回復魔法を掛けていたのでそれを含めるとそうですね……両手両足だけでは足りないと思います」  それを聞いたエリースと課長はひどく動揺した。  課長は何か信じられないことを聞いてしまったかのように頭を抱え、次はエリースが俺の腕を掴んで引っ張るように走り始めた。  エリースの俺の腕を掴む力は力強く、手首に手形が残るんじゃないかと思うほどだ。  そんな状況で連れてこられたのは第一騎士団の医療班が常駐している医務室だ。  「失礼。ライデンはいるか?」  エリースは医務室の扉を豪快に開けながら大声でそう叫んだ。  その声に渋々応じるように医務室の奥から百七十センチメートルほどの身長で、医療班特有の清潔感のある白を基調とした服に身を包み、回復魔法を連想させるような薄いエメラルドグリーンの色をした長髪を後ろで束ねた男性が後頭部を掻きながらめんどくさそうに出てきた。  「……どうしたんですかエリース第一騎士団団長。ん? 君は……どこかで見たことはあるんだけど、ごめん。どこで見たのかは思い出せないや」  「こいつはサポート部魔法付与課のトーラスだ」  「あぁ君がトーラスか! 噂には聞いているよ。それで? 魔法付与課のトーラスを連れて医務室に何の用ですか? 怪我ですか?」  「トーラスは簡易回復ができるんだ」  「それは魔法付与課から医療班に異動ってことですか?」  「トーラスを魔法付与課から異動させることは今後ない! ……今はそうではなくトーラスは自分自身に回復魔法を使用しようとしたらしい」  「………………はい?」  「だからトーラスは、」  「聞こえてますよ!」  そう言うとライデンと呼ばれる男は俺に近づき、鋭い眼光で俺を下から上まで舐めまわすように観察をしはじめる。そんなにジロジロと自分自身を観察された経験がないため、何とも言えない気持ちになる。それは恥ずかしいのか嫌な気分なのかは分からない。  俺の観察をし終えたライデンは顎に手を置き数秒考え込んだ後、呆れたような表情を見せながらエリースに説明するように口を開いた。  「この子なに? 死に急がせてるの?」  口調は先ほどの敬語口調とは異なり、エリース第一騎士団団長相手にもかかわらずタメ口だ。  「そんなわけないだろ。俺も簡易回復魔法が使えることは知っていたが、ここまでとは思わなかったんだ」  「はぁ……。それでトーラスは誰に回復魔法を教えてもらったの?」  「え、あ、その、独学でして……。すみません。そもそもの話の流れが分からないのですが、自分自身に回復魔法を使ってはいけないんでしょうか?」  「……独学ねぇ。何かの本でも読んだの?」  俺の質問は無視されたのかはたまた聞いてはいけないことだったのか分からないが綺麗なまでにスルーされ、ライデンには追加の質問を受けてしまった。  正直な話をすると俺の扱う簡易回復は本で学んだであっている。しかし完璧にマスターしたかといえばそういうわけではない。マスターしてないからこそ簡易回復までしか使用することが出来ないのだ。  「はい……本を読んで覚えました。ただ回復魔法は俺には難しく、覚えることができたのは簡易回復のみでした」  「そもそも回復魔法は適正がなければ発動することすら困難な魔法だ。本を読んだだけで簡易回復でありながら行使できるのは才能があると言っていいだろう。しかし本は最後までちゃんと読むべきだ」  「ど、どういうことですか?」  「回復魔法には禁止事項があるからだよ」  それを聞いた俺は思わず頭を傾け「禁止事項?」と傍≪はた≫から見たらあざとさマックスな仕草をしてしまった。この世界での俺の年齢は二十一歳なのだが、元居た世界からカウントすると四十八歳になる。エリースが現在四十七歳のため実際にはエリースより俺は年上と言うことになる。  これがいわゆる年甲斐もなくということなのだろうか。  そう考えると途端に恥ずかしくなってきたが、この世界では俺は二十一なのでまだ許容範囲内ではないかと思い、羞恥には蓋をすることにした。  「まず回復魔法とはどういうものか知っているかい?」  「本で読んだ知識では自然治癒能力の向上であると理解しています……」  「正解だ。ならトーラスはその代償が分かった上で回復魔法を行使しているのか?」  「代償……ですか?」  「回復魔法は確かに自然治癒能力を向上させる魔法だが、医療班や治癒士が消費するのは魔力だけだ。それに対し回復魔法を受けた者は自然治癒能力を向上をすることができる」  「ん? 俺の認識もそうですが何か問題があるんですか?」  「自然治癒能力の向上と言うのは、言えば寿命の前借だ」  「寿命の……前借?」  知らなかった。  回復魔法が寿命の前借をするような危険な魔法だとは思っていなかった。  基本的に魔法は魔力を対価に奇跡を行使できるものだと考えていたが、そうではないらしい。いやおそらく回復魔法に限ったことだろう。そのため俺はこの医務室に連れてこられたに違いない。  「自然治癒を向上させるということはそれだけ危険な行為なんだ。トーラスは今までは知らなかったかもしれないが、これからは回復魔法の使用を控えるようにしてください」  ここで言われてしまえば俺とて簡易回復であろうと回復魔法を行使する気にはなれない。  しかしここで俺に一つ疑問が浮かんだ。  「……あの、質問いいですか?」  「質問?」  「どうして俺だけ回復魔法を行使することが禁止なんですか?そんなに危険な魔法であれば医療班や医務室の皆さまも禁止にされた方がいいんじゃないでしょうか?」  「…………本当に気付いていないのか?」  「気付いていない?」  「トーラス、君は今すぐ入院だ」 ■ □ ■ □ ■ □ ■ □ ■ □  俺は強制的に仕事を取り上げられ、第一騎士団の医務室にあるベッドで軟禁され、かれこれ二週間が経過しようとしていた。  軟禁と言っても監視付きの入院といった感じで、三食の食事と数時間置きの定期健診が行われるだけの監視がついていること以外は元居た世界の入院とほとんど変わりのない入院だ。  状況で言えば検査入院に近いだろう。  「あの、そろそろなんで俺が入院することになったのか理由って教えてもらえたりできないんですか?」  俺の監視をしているライデンに俺はそう声を掛けた。  俺は知らなかったが、ライデンは第一騎士団の医務室局長でお偉いさんらしい。そのためエリースも直接ライデンに声を掛けたのだろう。  俺の問いかけを聞いたライデンは少しめんどくさそうにしながら口を開いた。  「……君が回復魔法を行使するとき、何も感じてないの?」  「感じる?」  「……トーラスだけが回復魔法を禁止している理由は君が魔力だけじゃなく、対価である寿命も肩代わりしているからだよ」  「………………え?」  「え? じゃないよ。無自覚だったのかもしれないけど、君は今討伐遠征時にほとんどの騎士に簡易回復を掛け続けたそうだね。それに加え重傷者に対しても医療班のテントに連れていく間にも魔法を掛け続けたと報告を受けている」  「…………」  「今、トーラスの身体は非常に危険な状態なんだ。今は大丈夫かもしれないがいつ倒れてもおかしくない状態だ。そんな君には回復魔法を掛けることもできないからこうやって何もしないように監視しながら入院させてるの。わかった?」  「……はい」  俺は無自覚で寿命を肩代わりしているらしい。  今まで簡易回復の魔法を使用後、身体に違和感を覚えることは無かったため特に意識したことはなかったが、自分の身体にはとんでもない負担が掛かっていたみたいだ。  少しは反省しつつ、一体俺はいつまで入院生活を続ければいいのかと考えていると、ふとあることを思い出した。  リオのことだ。  思い返してみればかなり長いことリオには会っていない。最後にあったのはリオの父親であるライフォンに会う前日のことで、それ以降は姿を見ることはなかった。  もちろんライフォンにリオの思いは本物である旨を聞かされ、少し会うことが気まずくなっていることは認めるが、俺から意図的に会うことを避けていたわけではない。  もしかして入院のことを知らないリオが俺の仕事部屋を訪れているのではないかと少し不安になってきたくらいだ。  「ライデンさん、そういえばなんですが第三騎士団団長のリオさんって最近第一騎士団に来ているとか何かご存じだったりしますか?」  「リオ第三騎士団団長? あぁそうか。あれだっけ? 二人はお付き合いされてるんだっけ?」  「違います! ただ最近俺の仕事部屋に来ることが多かったので、もしかして入れ違いになってるんじゃないかと思っただけです!」  「え? 付き合ってないの? 騎士団だけじゃなくて王宮内でも噂になるくらいなのに?」  「えぇ本当に付き合ってないんです……」  それを聞いたライデンは心底驚いた表情を見せた。  こんな感じでリオと俺が付き合っていると思っている人は多いのだろう。正直夢?を壊してしまうようで申し訳ないが、本当に付き合っていないのだからしょうがない。  俺はそんな驚いた様子のライデンを余所に質問を続ける。  「それで来ていたりしないですか? 行き違いになっていたら申し訳ないのですが……」  「リオ第三騎士団団長は来てないよ。なんだったら今は討伐遠征中じゃないかな?」  「え? 討伐遠征ですか? 先日行ったばっかりなのに?」  次に驚いた表情を浮かべたのは俺の方だった。  俺は第一騎士団のため、他の騎士団の様子を詳細まで把握しているわけではないのだが、第三騎士団はこうも高頻度で討伐遠征に出向いているのだろうか?俺も同行した討伐遠征からまだひと月程度しか経っていないはずだ。それなのにも関わらずまたも討伐遠征に行くというのは、この世界の魔物の脅威というのはそれだけ深刻化しているということなのだろう。  「まぁ最近は更に魔物の活動も活発になってきているっていうし大変なんじゃないかな? それにしても帰還が遅いような気もするね。でもまぁあの第三騎士団だし大丈夫だとは思うけど……」  「そ、そうですか……」  それを聞いた俺は胸がざわつきはじめた。  討伐遠征において帰還が予定よりも遅れるというのはよく聞く話だ。そのため普段の俺なら何も心配などはしないだろうが、この日に限ってはどうも嫌な予感がしてならない。  その時各騎士団に設置されている緊急放送が響き渡った。  ——第三騎士団討伐遠征より帰還。負傷者多数。  ——各騎士団の手の空いているものは直ちに第三騎士団に援助・援軍を。  ——繰り返す  ——第三騎士団討伐遠征より帰還。負傷者多数。  ——各騎士団の手の空いているものは直ちに第三騎士団に援助・援軍を!  その緊急放送は俺の予感が的中していたことを示していた。

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