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第5話⭐︎

* * * ――後日 「今度、気持ちを伝えてみようと思う」 借りる本を僕に手渡しながら、 彼はそう告げた。 「……告白するの?」 思わず目を見開く。 「あぁ」 その返事を聞いた瞬間―― 頭の中には、彼が親しげに話していたラグビー部の人が浮かんだ。 「頑張って。応援してるよ」 無理に笑顔を作って、そう伝える。 「ありがとう」 彼は穏やかに微笑み返して 図書室を出ていった。 彼が好きな人に、気持ちを伝える。 心から応援したい。 そう思っているのに―― 胸に広がる痛みを、どうしても誤魔化せなかった。 告白すれば、 きっと図書室に来る必要もなくなる。 もしかしたら―― 彼と話すのは、今日が最後だったのかもしれない。 心の内に、黒い影が差す。 僕は―― 僕自身は、 本当にこのままでいいのか。 彼と、こんな終わり方でいいのか……? 強い衝動に、身体が突き動かされていた。 僕は他の委員に窓口を任せて、図書室を飛び出していた。 まだ近くにいるはずの彼を追いかける。 「待って!!!」 階段の踊り場から 降りていく彼の背中を見つけた。 手すりを握りしめる。 人生で一度も出したことがないような声で叫んだ。 彼が足を止め、こちらを見上げた。 「そんな急いで、何かあったのか?」 彼は、心配そうに戻ってきた。 「その……」 必死で息を整えながら、口を開く。 「僕もきちんと、伝えておきたくて」 彼は黙って僕を見つめている。 「あなたともう話す機会がなくなると思うと……すごく寂しいんだ」 震える手を必死に握り拳でごまかす。 視線が交わる。 「だから……もし良ければ、友達になりたい」 しばらくの沈黙。 やがて彼は、静かに口を開いた。 「それは……難しいな」 ――ズキン。 心が悲しく音を立てて砕けた気がした。 「分かった。 …そうだよな」 自分を説得させるように答えた。 「あなたと僕は、住む世界が違う。 友達になりたいなんて、おこがましかった」 そう言って、背を向けようとした―― その腕を、 彼が掴んだ。 「違う」 「……え?」 振り返る。 彼は、まっすぐ僕を見つめていた。 「俺は、君が好きだ」 その言葉に、息が止まる。 「恋人として付き合ってほしい」 頭の中が、真っ白になった。 「……ちょっと、待って。 頭が混乱している」 手を上げて、制止する。 「告白するって話はどこにいったんだ?」 眉間を寄せて不思議そうに聞く僕に、 彼は、少しだけ笑った。 「今している、君に」 「そうじゃないよ! ラグビー部の好きな人にだよ」 「ずっと、何か誤解しているな」 彼が一歩、僕との距離を縮める。 そして、僕の顔を覗き込む。 「俺は最初から君だけ見てる」 彼は愛おしそうに微笑んだ。 「でも、いつも窓際に座って、校庭を…」 「違う」 彼は、優しく言葉を遮った。 「俺が見ていたのは、校庭じゃない」 「鏡に映る、君だよ」 「……え?」 彼の視線が、僕へ向けられる。 「なんで。 僕を?」 「俺たち実は図書室で出会ったのが初めてじゃないんだ」 「本当? ……思い出せない」 彼みたいな人、 一度会えば忘れないはずなのに。 彼は、ふっと笑った。 「俺はあの日、帽子にマスク姿だったから きっと分からなかったんだろう」 「あの日……?」 彼の目が、優しく細められる。 「君に、愛犬を助けてもらった日だ」 「…犬……」 そう呟くと 記憶の断片が一つに繋がる。 「あっー…!!」 驚き声を上げる。 「もしかして あの時の飼い主!?」 彼は笑って頷く。 「あの日、必死に愛犬を助けてくれた君を見て一目惚れしたんだ」 「でも、大事な治療が始まって、 名前も連絡先も聞けなかったことを、 心から後悔していた。 だから、君をこの学校で見つけたときは、 すごく嬉しかったよ」 僕は、ただ呆然と彼を見つめていた。 信じられない。 ずっと―― 自分だけが、彼を好きなのだと思っていた。 彼の視線の先には、別の誰かがいる。 そう思っていた。 彼が見ていたのは―― 僕だった。 「頭は理解できたか?」 ふいに頭に手を置かれる。 「……うん」 気恥ずかしくなり、 俯いた。 彼が、僕の頬にそっと触れる。 「それで?」 甘く低い声で尋ねる。 「……」 「友達か、恋人か」 「どちらを選ぶ?」 熱い視線でそう問いかける。 もう―― 誰にも遠慮する必要はなかった。 僕は、彼の胸へ飛び込んだ。 「……好きだ」 言葉を絞り出すように伝える。 次の瞬間、 彼の腕が、僕の身体を力強く抱きしめた。 「やっと見つけた」 彼が子どものように嬉しそうに笑った。 そして―― もう一度、優しく抱きしめる。 「もう離さない」 ――Fin.

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