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第1話
私は三十路ともなって色恋もなにもない…弟の清司は立派な奥さんを携えて息子までできたと言うのに
時おり恋愛ドラマなんか見ていると…若い子にさえ劣っている自分がもどかしい
「兄さんもいい年なんだから恋人とか見つけないと…師走だけは越えないようにしてよ」
居酒屋の隣席でお冷や片手に清司が説教してくる…成功者に言われてはごもっともだ
奥さんは美しいOLで息子である健太もなかなかの美形ときた
2~3違うだけでここまで人生が変わるなんて
「分かってはいるんだが…どうも…一歩踏み出せなくて」
何て言うのは表向きで…実は…
「分かってるよ兄さん…妻には言ってないから大丈夫…健太も兄さんになついているし疑われることはないよ」
そう…私は弟の息子が好きだ…あの小さいながらも整った顔…声変わりをする前の男児にしては高い声…なにより幼い頃の清司に瓜二つ
私は生まれた頃にすでにカミングアウトしていた
会うたびに私の心はとろけてしまいそうになる
いけないことだと分かっていてもあの笑顔を前にしては…我慢ができなくなる
「それならいいんだが…もしも我慢できなくなったら…」
その言葉に清司は水をゴクリと飲み干して
「言いにくいんだけど…実は…今日誘ったのは兄さんにお願いがあって」
こちらにクルリと向きを変えた…コップを持つ両手は震え目は泳いでいる
「兄さんに健太を一週間ほど預かってほしいんだ…」
「なぜ!?」
驚きで飛び上がってしまった…回りの視線が私に向けられている
清司はいそいそとコップを置いて私の両かたを押さえた
私はそのまま椅子に腰かける
「そう言うとは思ってたけど…実は妻の実家に行くことになったんだ…健太は兄さんと遊んでいたいと言っていてね」
「そうだったのか…」
喜びでまた羽上がりそうになるのを必死に抑えながら平静を装った
気付いているのか清司はフフと鼻で笑っていた
「明日の朝行くから…その時に健太を預けるよ…じゃあいい夢を兄さん」
嫌みともとれる言葉を去り際に投げ掛けてきた
本当にいいやつだ
私は残っていた焼酎を飲み干して家路を急いだ
その日の夜私は健太を抱き締める夢を見た
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