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第15話 番外編2
番外編2
ネックガードを外してくれた佐々木さんの話。
檻に入れられたオメガ達は、暗い目をしていた。公的機関と連携し、会社の御曹司の番を助けに行った時、その子を見つけた。
満足に食事も与えられず、暴力を受け、希望を打ち砕かれた顔だった。檻を壊し助け出しても反応がないオメガが大半だったのに、その子だけは違った。
「さ……るな」
「わかった。立てるか?」
「……!」
「立てないならあの毛布で包めば直接触れることねーから許してくれっか?」
こくりと頷いてくれたが、その目は警戒心でいっぱいで、決して信じないぞと決めている野生の猫みたいだった。
オメガたちは国が用意した病院に入り、極度の栄養不足と薬物による体調不良で入院している。
「やっほー!元気か?」
「……さっきまでは気分良かった。今は最悪だ」「そりゃ大変だ。なら、このプリンは他の子に渡すか」
「今良くなった!」
だからプリンは俺が食べる! と適切な治療を受けて元気になりつつあるオメガは両手を差し出してくる。
本当はそのまま抱きしめてしまいたい。でもそんなことをすれば少しだけ懐き始めたこのオメガはまた心を閉ざすだろう。プリンを食べながらオメガはちらちらとこちらを見てくる。
本当に可愛い子猫みたいだ。御曹司の番も可愛いと思ったが、この子に比べたら天と地ほども違う。俺だけの……っと、平常心!
「あんた、毎日来るけど暇なの?」
「仕事なんてクソだね」
いつもなら暇なので残業してでも時間を潰していたが今は一分一秒たりとも会社に残る気持ちはない。定時五分前には仕事を終わらせ、病院に直行……する前にデパートで甘味を探す。
まだチョコレートは早いと言われたので、胃に優しいものをチョイスだ。元気になったらあれもこれも贈ろうと考えて、頭の中でメモする。
「仕事はちゃんとしないと!」
「そうだねー、明日からちゃんとやる!」
おもしれー部署に配属になってから、自由に働けているが、それでもこの子がいうならもっと頑張ろう。
「……プリン、一個食う?」
選んだプリンは三つ。個室ではないここには三人のオメガがいる。今は俺が来たので他のふたりは外に行っていた。
「相部屋の奴にあげな。友達なんだろ?」
「うん。あ、……ありがと。昨日の菓子も美味しかった」
「そりゃ良かった」
「……」
「……」
そこで会話が終わってしまう。他に話題を見つけなきゃと、いつもなら全く考えないことを考えている自分に驚く。
「あんたは、俺の……なんでもない」
この子の体のことは、医師から聞いている。御曹司の大学の先輩という優秀な研究者らしく、薬でボロボロにされたオメガを健康に戻してくれるらしい。でも今は、ぐちゃぐちゃにされた本能が何も感じないようになっていた。
あのクソ野郎をもっと痛めつけてやれば良かったと今更思う。
俺の感情が漏れたのか、オメガはびくんと体を震わせる。
「監視はつくが、ここを退院出来るくらいになったら、俺と一緒に暮らさないか?」
「へ?」
「えっと、もっと健康になったら言うつもりだったんだけどさ、俺はオメガちゃんが好きだよ」
「……」
無言の返事にやっぱりダメかーと落ち込んでしまう。でも仕方ない。この子はアルファにこんな目に合わされたのだ。アルファ全部を憎んだって仕方ない。
「……俺、フェロモンわからない」
「そんな風に薬でめちゃくちゃにされたからなー。でも、大丈夫! ここのお医者さんはとーっても優秀で、既に一人健康を取り戻してるよ」
「でも、絶対じゃない。このまんま、わからなかったら俺の事諦める?」
「諦めない」
被せるように返事をする。この子を諦めることは、未来を諦めることと同じだ。決して離れることはない。出会ったからにはもう二度と。
「絶対、諦めないよ」
でもこの子の嫌がることはしたくない。御曹司がどうして番ちゃんに素っ気ない態度をとっていたのか今ならわかる。
アルファの執着をこんなに傷ついている大切な相手に見せたくない。もっと元気になって欲しい。幸せになって欲しい。それが俺の隣なら良いのに……、でもそうじゃなくても幸せになって欲しいと願う。
「本当に?」「嘘なんてつかない」
「……うん。なら、ここから出たら、あんたのとこいく。ちゃんと働くし、俺のこと好きに使っていい」
「待って?ちょっと待って?そんなこと言っちゃダメ!あのね、きみはねこれからすっごく幸せにならなきゃダメなの。俺がそう決めたの。働きたいなら働いて良いし、のんびりしてても良い。勉強したかったらしていいし、何か趣味を見つけたかったらそうしていい。でも、嫌なことは嫌だって言って欲しい。したいことはしたいって言って欲しい」
あまりにも衝撃的な発言に、思わず息継ぎもせずに話してしまった。
「……えーっと、やりたいこと、ない?」
「やりたいこと……。誰かを好きになりたい」
「よっしゃ!わかった、その願い俺が叶えてあげる。きっときみが好きになれる相手を探し出す!」
「あんたじゃダメなの?」
「俺ぇえ!?」
驚きすぎて声が裏返る。
「さっき一緒に暮らそうって言ったじゃん」
「言いました。でも良いの?」
「あんたさ、初めて会った時、立てもしない俺になんとか触らないように助けてくれただろ?このアルファ変わってるなってずっと思ってた」
「変わってる!? 確かによく言われる」
「あはは、言われるんだ。やっぱり」
「笑った!」
初めてこの子の笑った顔を見て、驚きと嬉しさにどうにかなりそうだ。もっと見たい。もっと笑って欲しい。もっと幸せにしたい。
「……久しぶりに笑った」
「もっと笑うといいよ。可愛いよ。いや、綺麗だよ」
「……あんたはカッコ良いよ」
もう死にそう。こんな幸せは初めてだ。つが……じゃなかった、大好きな子にカッコ良いと言われてしまった。
◇ ◇ ◇
退院して一緒に暮らし、プロポーズしてみた。番とかもうどうでもいい。ずっと一緒にいる公的な束縛が欲しい。肉体的とか精神的とか後でも良い。
そしたら御曹司の番ちゃんが祝いにカップを作ってくれたので、受け取りに行く。
「綺麗……」
カップを見て受けはそう言った。
「そう? 嬉しいな。佐々木さんには俺も凄く世話になったから何か礼をしたかったんだ」
「ありがとー、高嶺ちゃん」
「ありがとうございます。高嶺さん、西園寺さん」
「元気になって本当に良かったな」
「ちょっと御曹司、俺の番なんだよ。見るな触るな近づくな!」
そう怒鳴ったら大切な番ちゃんは驚いた後、にっこりするし、御曹司は「こいつ、めんどくさくなったな」って顔をした。
高嶺ちゃんのネックガードを外すとき、俺を全く信用しなかったくせに。俺はそれを言葉にしただけだぞ。
でも俺の番ちゃんが幸せそうにカップを見ているからもうなんでもいい。帰りにそのカップで飲むものを買って帰ろう。番を幸せにする為に、俺は今日も頑張るのだ。
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