14 / 14
第14話 番外編
素っ気ない態度〜番外編
手のひらの中でチャリっと金属の音がする。視線を落とすと、そこには輪っかの付いた鎖が見えた。
「はー……」
ため息が出たのは自分がこれを無意識に購入していたからだ。物が届いて家政婦から渡されて驚愕したが、捨てることも出来ずに部屋の中に隠して持っている。
使うことはない。そのはずだ。運命の番は今、手の中にいる。高嶺は俺から逃げる必要なんてないし、今はもっと重要なことがある。
だから、これは戒めみたいに持っていよう。俺はそう考えて、手の中のソレをしまった。
だいたい、祖父と亡くなった父を見ていて実感しているじゃないか。過ぎる執着は身を滅ぼすと。なのに、高嶺は、運命の番は、俺のそばを離れるという。
「オレ、この家を出る」
コノイエヲデル?
その言葉を理解した途端、頭の中が真っ黒に塗り潰される。気がついたら、高嶺に足枷をつけていた。興奮しすぎていて、何も考えられない。でもここにいると、きっと最愛を傷つけてしまう。それだけは、どうしても許せなかった。手の中の鍵を汚いものとして床に放り投げた。
急いでこの場から逃げ出さないと、一等大切にしたい存在を傷つけてしまう。番と離れなければとそう思うだけで、心が引き千切られる。この時の俺は、番を離したくないという感情と、決して離れないという激情に襲われていた。
だから何かをやらかす前に、高嶺のそばから離れなければならなかった。
車に乗って、海のそばを走る。どこまでも走って、家に戻って高嶺を抱きしめたかった。一時間ほど走ってから、海岸沿いの駐車場に車を停めて、一晩そこにいることを決めた。頭を冷やさなければならない。
その後、高嶺が拐われたり、救いに行ったりして、お互いの想いを告げて、晴れて番となった。
◇ ◇ ◇
「足枷、嫌だったよな。すまない」
リビングのソファーで膝の上に愛しい番を乗せ、その細い足首を撫でる。白くて細くてかぶりつきたくなる魅力的な足だ。いやいや、今の問題はそこじゃない。この魅力的な足に無粋な足枷なんて必要ない。
「嫌だったよ。でもさ、怜、鍵を落としていったろ?あれ見つけてさ、なんか怜の心を拾ったみたいで嬉しかった」
だから、嫌だったけど、嫌じゃなかったよと愛しい番は言う。心をぎゅっと抱きしめられた気がした。温もりに溢れていて寂しかった心が満たされた。
「これからは絶対高嶺を縛らない、約束する」
「そお?なら明日朝日とカフェに行っていい?」
「……い、いいぞ」
苦渋の決断をしたつもりはなかったが、高嶺の表情が曇った
「やっぱり嫌か? オレ、怜の嫌がることしたくねーんだけど」
「いや、行っていい! 俺は爺さんや父親みたいな番にはならない!」
「へ?」
「俺は番を大事にする!決して息苦しい生活なんてさせない!自由に幸せに生きて欲しい。それが俺の隣ならなお良いが、でも、お前が望むならなんだって叶えてやる……」
「オレさ、怜のそばにいたいな。ずっといたいな」
これはわがままに入る? と聞かれて、首を横に振る。それはわがままなんて物じゃない。
「それは俺を幸せにする言葉だ」
わがままなんかじゃないと言えば、にっこりと微笑んでくれた。せっせと食べさせて、ゆっくり眠らせ、安心と安全なところだと認識させたことで、高嶺は花開くように美しくなった。
「明日、朝日とカフェに行ったあと、迎えに来てくれる?」
「もちろんだ」どんな大事な会議だって抜け出していく」
そう言えば、高嶺はその美しい容貌を輝かせて爆笑する。
「あははっ! 待ってる」
翌日、カフェに友人ときた高嶺は、見慣れた後ろ頭を見ながら、新作の飲み物を飲んだ。
「高嶺、それそんなに美味しいの? にっこにこじゃん」
「ああ、あの後ろ頭を見ながら飲むと百倍美味しい」
後ろ頭? と振り返った朝日は、それが誰なのかわかって大仰に嘆息する。
「これだから溺愛系アルファは厄介なんだよな」
友人の朝日は、カフェの新作を飲みながら、唇を尖らせる。
「でも、待ってるだろ?」
朝日は「僕、運命の番を待ってるんです」と堂々と告白してきたアルファに言い放つくらい変わったやつだ。でもとても優しくて、信用できる友人だ。
「まあね」
運命に出会ったオメガと、運命を待ってるオメガはカフェの新作の飲み物で乾杯する。
「きっと、朝日にも現れる」
「高嶺に現れたみたいに?」
「オレよりとんでもない出会い方をするかもな! 朝日がオレを助けにスタンガン持って駆けつけたみたいに、アルファを助けに行く、とか!」
「あれは必死で! もう、笑わないでよ。それより番のところに行かなくていいの?」
「いいのか?」
「もちろん。また明日ね」
「うん、また明日!」
手を振って、番の元に行けば、サングラスを掛けていた怜は慌てていた。
◇ ◇ ◇
高嶺を下ろした後、服を着替えサングラスをかけてから、時間をずらしてカフェに入った。目立たない場所の席を確保して、飲み物を注文する。少しでも番のそばにいたいいじましいほどのアルファの純情だと自分でも思う。
カップに口をつけたとき、影ができた。目を上げると、見つかってはいけない相手が目の前に立っていた。
「な、こ、これは、迎えに来たのが早くて、それで喉がかわ……」
「失礼。あなたはアルファですか?」
それは出会った時に、自分が声をかけた時と逆の問いかけだった。
「……はい。運命の番を待ってるアルファです」
「隣に座っても?」
「どうぞ!」
愛しい番は、ふふっと綺麗に笑って俺の前の席につく。
「……邪魔するつもりはなかったんだ。後で佐藤くんにも謝る」
「うん、オレも謝る。怜がここにいてくれて嬉しかったから」
今すぐキスして押し倒したいくらい、俺の番は可愛いな、やらないけど、と思いつつ、早くここから出て家に帰ろうと考えていたのだった。
ともだちにシェアしよう!

