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 現在の時刻は午後八時過ぎ。九時からシフトが入っているが、バイト先までの片道はおよそ二十分ほど。もう少し纏った空き時間があれば適当に連れでも誘って合流できるのだが、それよりも今は体力の回復を優先したい。一時間半もヤッたあとに休む間もなくフルタイムのバイトに入るのは、いくら体力に自信のある晃大でもキツい。  ――しゃーなし、一旦部屋戻るか。  戻っても、あまりくつろげるような空間ではないけれど。  結月と相部屋になってからほぼ一ヶ月が経過したが、未だこれといった会話をすることはない。晃大がバイトを終えて帰る頃には結月はすでに寝ているし、晃大が寝て起きる頃には結月はすでに大学に行っている。大学からバイトまでの空き時間や休日も晃大が寮で過ごすことはほとんどなくて、大抵は連れと集まってわいわいやっている。  結月のだらしなさは今なお健在だが、それに関して注意したことも一度もなかった。別に、気を遣って我慢しているわけではない。部屋は綺麗に越したことはないけれど、ちょっとやそっと散らかっていたところで死ぬわけじゃない。晃大からすれば、そんなことでいちいちルームメイトと揉めるほうがよほど面倒臭かった。  ――あいつ、部屋いんのかな。  まあどっちでもいいんだけどと思いながら開いた四〇二号室のドア、相も変わらず散らかり放題の玄関を見て、浅いため息が零れた。  もういくらか板についた動作で転がった靴を端に寄せ、部屋の奥へと足を進める。膝を立ててベッドに座る結月はヘッドホンをつけて漫画を読んでいるようで、こちらには目もくれない。  ルームメイトはルームメイトでも、所詮は他人。一ヶ月生活してみてわかったが、結月はそういうスタンスの持ち主らしい。「ただいま」や「おかえり」などといったやりとりは皆無に等しい。そのへんに関しては、晃大もやりやすかった。  ――バイトまで、ちょっと横になるか。  この部屋で唯一、安心して寛げる場所。それは、晃大のベッドだった。ここから半分は晃大のエリア、みたいな境界線は特に作っていないので、床は満遍なくとっ散らかっている。けれどさすがの結月も、人のベッドにまでゴミを置いてくることはない。  膝をついてシーツに乗り上げ、晃大はその大きな体躯をごろんと仰向けに横たえた。頭の下で手を組んで、数秒、意味もなく真っ白な天井を見上げる。……あ、と思い至り、ポケットに入れていたスマホを抜き取った。  晃大のスマホは、少し放置していただけでもすぐに何十件と通知が溜まる。大学の友人やらバイト仲間やら一回寝ただけの女の子やら――週末のバイト終わりなんかだと、下手すると百件近くいくときもあるくらいだ。  もちろん、全部には返信しない。そんなことをしていたらきりがないので、重要度に伴った取捨選択は必須だ。  あほらしいなと、たまに思う。だけれど自分は典型的な、浅く、広くのタイプの人間だった。  流し見る通知の大半が、今この瞬間を機にやりとりが途絶えても何一つ差し支えがないようなものばかりだ。相手にとっても多分、自分はその程度の存在なのだろう。  虚しいとは思わない。その時々、ノリが合った人間とだけ時間を共有して、合わなくなればどちらからともなくフェードアウトする。お互いさまの、後腐れない関係。それだけ自分は身軽だということだ。身軽で、気楽で、だからこそ、悲観する必要性は感じない。  例えばエヴァンなんかも、そのタイプの人間だったはずだ。というか、そうでなければ金と引き換えに体を重ねるなんて仕事はまずできないだろう。  しかし、さっき見たあの反応……。

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