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(朔実、待ってるから……早く抜いて)
なんだろう、この釈然としない感覚は。
断じて、嫉妬などではない。晃大はなにも、恋愛対象としてエヴァンを見ているわけではない。エヴァンがどこで、誰とセックスしていようと、そんなことはどうでもいいのだ。むしろそういうエヴァンだからこそ、晃大もまた、気楽に付き合いを続けてこられた。
(朔実といると、なんか落ち着く……)
続けて思い出した言葉に、作業のように返信を打ち込んでいた指先が止まった。
「……はぁ」
ため息をついて、だらりとシーツの上に両腕を垂れる。ふと目線をずらした先、視界に映ったあるものに眉が寄った。
晃大の頭の重みでわずかに弛む、真っ白な枕の上。目と鼻の先に添えられた、一本の細い糸のようなもの。近すぎて、すぐにはピントが合わなかった。
――これって……。
じっと、晃大はその体勢のまま考える。
髪の毛……にしては、晃大のものとは色が違う。色素の薄いブラウン。結月の毛の色と同じだ。
しかし、それにしても違和感がある。結月は常に寝癖がついているものの、髪質自体は細くて柔らかそうなストレート。それに比べて、目の前に落ちている毛は、やけにチリチリと縮れていて……。
「って、陰毛じゃねぇか!」
気がつくと同時、晃大は声を上げて枕から頭を起こした。弾みで、枕に乗っていた陰毛がふわっと一瞬、宙に舞う。
「きっ、たね……っ」
ありえない。仮にこれが自分の陰毛だったとしても普通に引く。
少し前までエヴァンのちんこを掴んで扱いていた自分がいうのもなんだが、セックスという割り切った状況における許容範囲と、日常生活のそれは必ずしも一致しない。互いの性器にベタベタと触れ合いながらヤッたあと手を洗わずに寝ることはあっても、トイレでちんこを握って用を足したあと手を洗わずにいることはまずないのと同じだ。
「おい、結月」
さすがに看過できないと思い、晃大は立ち上がって結月のそばへと歩み寄った。読んでいた漫画を下ろし、「んー?」ととぼけた声を出しながら、結月は装着していたヘッドホンを首に掛ける。すかさず、晃大は親指と人差し指で摘んだそれを、結月の眼前へと突きつけた。
「これ、どういうつもりだよ」
「えぇ? これってぇ?」
結月はその大きくてくりくりとした目をすっと細め、晃大の指先を見た。
「んん〜? なんだこれは。……糸くず? それがどうかしたのか?」
「はあ? どう見てもおまえの陰毛だろ。俺の枕に落ちてたんだけど?」
「いんも〜う?」
訝しげな口調で繰り返し、結月は一際難しい表情を浮かべて、まじまじとそれを凝視した。ややあって、ぱっと目を見開いたかと思うと、打って変わった明るい声を発する。
「ああ! 言われてみれば、そんなふうに見えないこともないな! ――で? それがあんたの枕に落ちてたって?」
悪気なさそうに訊き返してくる結月を、晃大は無言で見返す。本来なら気まずくなりそうな沈黙にも動じることなく、結月はなおもあっけらかんとした調子で口を開いた。
「いや〜参った参った! たんぽぽのワタ毛よろしく、風で飛んでったってか? ってそれじゃ、ちんぽぽのチン毛だっつーの! わざわざ返しにきてもらって悪いな!」
よっ、と腕を伸ばして、結月は晃大の手から陰毛を摘み取る。次の瞬間、ふっと息を吹きかけて、その陰毛が宙を舞った。
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