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「あ! あった!」
いや、あるんかい。思わず、声に出してツッコみかけた。
「よく見たら、内ポケットの奥に引っかかってた! やった! 見つけたぞ!」
嬉々として言う結月の手には、確かに黒に赤のロゴが入ったUSBが持たれている。拍子抜けして、晃大は呆然と立ち尽くした。
少しして、はっと肩を揺らした結月が、おずおずと顔を上げてこちらを窺い見る。目が合うなり、きゅっと身を竦めて恐縮を露わにした。
「あ……え、っと……ちゃんと確認、したつもり、だったんだけど……」
もごもごと弁解して、結月は気まずげに視線を逸らす。
都合が悪くなると、黙り込む癖。本当に、困ったやつだ。
「……ったく」
呟いて、晃大はぽんと結月の頭に手を置いた。図太いのに臆病な小動物のように、ピクリと結月の肩が跳ねる。
「これに懲りたら、今度からはちゃんと身の回りのものを整理整頓するように。……わかりましたか?」
抑圧的な物言いにならないよう、あえて小学校の先生のような口調で確認を取った。可愛さに比例してワガママな気がある妹にも、当時よく使っていた注意の仕方だ。
「……わかった」
ややあって、こくんと結月が頷いた。
少し前まで泣いていた名残で、つんと尖った鼻先は赤く、長い睫毛には涙の雫が乗っかっている。まだ若干物言いたげに尖っている赤い唇も含め……どうにも憎めないやつだ。
「はい。じゃあもうさっさと立って、大学行く。遅刻したら元も子もねえだろ」
「あ、う、うん……っ。急がなきゃ……!」
結月は慌ただしくベッドから腰を上げ、リュックを背負って玄関へと向かった。散らばったいくつもの靴を見て、数秒あたふたと慌てふためいた後、もうどれでもいいやとばかりに左右色違いのものを履く。
「え」
困惑の声が漏れたのと同時、結月がガチャリとドアノブを捻った。
「じゃ、じゃあ……っ」
ぱっと振り返った結月の前髪が、勢いでふわりと浮き上がる。くりっとした大きな目元が露わになって、部屋の窓から漏れる逆光がその瞳を照らす。
「USB……一緒に探してくれて、ありがと」
「え? あ、ああ――」
「じゃあ、行ってくる!」
逃げるように言い捨てて、結月はそそくさと部屋を出ていってしまった。
しんと静まり返った空間、晃大はぼうっと、半開きになった玄関のドアを見つめる。
――あいつ……。
鍵くらい閉めていけと、浮かんだ思考はどこか心ここにあらずなものだった。
腕を伸ばし、玄関を施錠して部屋に戻る。と、かすかなアラームの音が耳を掠め、晃大ははっとした。
そうだ、目覚まし。本来、晃大が起きる予定だった時間。
どうにも音がこもって聞こえるのは、ベッドに積み重ねた服の下にスマホが埋もれてしまっていたかららしい。山積みになった服をのかすと音は鮮明になり、晃大は慣れた手つきでアラームを止めた。
静寂が訪れ、ほっと肩の力が抜ける。そのままストンとベッドに腰掛けて、周囲を見渡した。
USB一つ見つけるためにさんざん引っかき回したせいで、過去最大に散らかっているといっても過言ではない室内。
やれやれと息をついた直後、ふと、あるものが目についた。
手のひらより一回り小さい光沢紙。はらりと、雑多に紛れて床に落ちている。
――写真……?
気づかず踏んでしまうと、折れ目がついてしまいそうだ。そうなったらそうなったで結月の自業自得ではあるけれど、晃大はそこまで冷たい人間じゃない。
「よっ、と……」
立ち上がり、腰を曲げて写真を拾い上げた。
特に意識したわけでもなく、その被写体へと目を向ける。そして思わず、「え?」という声が漏れた。
数秒、釘付けとなってその写真を眺めたあと、晃大はそっと手を下ろす。静かに結月のデスクに歩み寄り、絶対に踏まないであろう位置に写真を移動させた。
いつもと違う、慌ただしい目覚め。嵐が去ったあとのような静けさと混沌が同居する室内。
手放してしばらく経ってからも、晃大はデスクに置いた一枚の写真から目を逸らすことができなかった。
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