15 / 15

2-6

 その夜、バイトを終えて部屋に戻ると、玄関に散乱していた靴がすっきりと収納されていた。おや、と思い踏み入れた室内も、いつになく整理整頓されている。  これはこれは……と晃大は視線を結月のベッドへと向けた。  片方の手では股間を、大きく開いた口ではイビキをかきながら、相変わらずの寝相で結月は眠っている。その寝顔をじっと眺めること数秒、ふっと苦笑が零れた。  さすがの結月も、今回の一件で少しは反省したらしい。帰ってからきちんと部屋を片付けたようだ。それでもまだいくらかごちゃついてはいるけれど、これまでのことを思えば大した成長である。  ほどもなく、晃大は視線を自身のベッドへと移した。するとなにやら、枕元に見慣れない物を発見する。  くいと首を傾げて、晃大はそれを手に取った。ブラウンのリボンが結ばれた、透明のラッピング袋。正面に、薄いブルーの付箋が貼られてある。 『usdのお礼』  利き手と逆の手で書いたのかというような、汚い字。なんだか陰毛みたいなフォントだなと思い、ふっと肩が揺れた。  くるりと袋を裏返すと、中にいくつかの個包装された洋菓子が見えた。マドレーヌにワッフルにサブレ。どれも洒落たデザインで、わざわざ専門店で購入したらしいことがわかる。  まるで、バレンタインにこっそりと鞄や机の中にチョコレートを仕込む女の子のようだ。もっとも、女の子ならもう少し綺麗な手書きのメモを添えるだろうけれど。  かれこれ一週間ほど前に見たときは、枕元のちょうど同じ位置に、一本の縮れ毛が置いてあった。それが今はお礼のメッセージ付きのお菓子になっているのだから、人生、わからないものである。 「……つか、us『b』な」  再度付箋の文字を見直して、晃大は小さくツッコんだ。  バイトで疲れて帰ってきたはずが、不思議と心が軽くなっていた。

ともだちにシェアしよう!