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 新しいバイトの採用が決まってから早一ヶ月。本日、十一月一日は初出勤の日だった。 「今日は何時に帰ってくるんだ」  大学から帰り、バイト用にコーデを組み直していると結月に訊かれた。 「んー、十時半とかかな。帰ってきたら、またエッチなことする?」 「っ――そういうことっ、いちいち聞くなっ!」  顔を赤くして怒られて、ごめんごめんと頭を撫でた。 「冗談だって。初日だし、遅くなると思うから先に寝てて。寒かったら、こないだ買ったもこもこパジャマ、洗濯してクローゼットにしまってあるから。風邪引かないように……」 「子ども扱いっ――」 「してませーん」  うりっと戦闘モードに入りかけた結月をすかさず抱きしめて、額に軽いキスをした。 「むっ」 「むって」  いちいち可愛いやつだ。 「じゃあまあ、初っ端から遅刻するわけにもいかねえし、ちょっと早いけどもう行くわ」 「……いってらっしゃい」  「いってきます」  もう一度、今度は唇にキスをして部屋を後にした。  新しいバイト先は、先日まで働いていたナイトクラブとは真逆の方向に位置している。距離でいえば1・5倍ほど遠くなっているのだが、夜勤だったナイトクラブと違い、電車を使って行き帰りができるので所要時間はほぼ同じだ。  方向も変わり、移動手段も変わったとなれば、前のバイトの知り合いに見つかる可能性はそう高くないはずだ。もし仮に見つかったとしても、冷やかしで立ち寄れるようなセレクトショップではないので、あまり心配する必要はないだろう。  そうして心機一転、迎えた初日のバイトは、はっきりいってかなりハードだった。騒がしい店内で酔いどれを羽交い絞めにしていた今までと違い、落ち着いた店内で、ひたすら丁寧な所作を求められる。ナイトクラブとは違う意味で神経を使う。  とはいえ、店長含め、今日接した職場の先輩はみな落ち着いたいい人ばかりで、慣れればかなりいい職場なんだろうなというのが正直な感想だった。初出勤ということもあり、任された仕事は地味なスチーム掛けが大半だったが、それはそれで、いろんな服を見たり、触ったできるのが結構楽しい。  初日だから帰るのが遅くなるかとも思ったが、事前に聞いていた通りの時刻に上がらせてもらえたのも好印象だった。いつもならバイトが始まるくらいの時間に、バイトを終えて寮に帰る。不思議な感覚だが、悪くない。この時間帯なら結月はまだ起きているかもしれないし、そしたら『おかえり』も『ただいま』も、『おやすみ』も目を見て交わすことができる。それだけで、バイトを変えた甲斐があるというものだ。  ――もこもこパジャマ、着てるかな。  このあいだデートに出かけて、色違いで買ったやつ。店員に変に思われるから嫌だと結月が言うので、率先して晃大がレジに並び、一人で支払いを済ませた。お揃いにしたかったというよりは、もこもこパジャマを着ている結月が見たいという晃大の一方的な願望で購入し、押し付けたに等しいのだが、その日の帰り、結月はお返しにとアイスを奢ってくれた。口の中でぱちぱち弾ける、ポップなやつ。  ――もこもこパジャマ着てる結月、絶対可愛いだろうな……。  頭の中でもこもこ結月を想像しているうちに、気づけば寮に帰り着いていた。ちらりと腕時計の時刻を確認してみると、結月に伝えていたのより三十分以上早い帰宅だった。  足取り軽くエレベーターに乗り込み、四階で降りる。左手に曲がって二つ目の部屋。すでに寝ている可能性も考慮して、できるだけ物音を立てずにドアを開閉し、靴を脱いだ。  ――電気は点いてるな。  十時半頃に帰ると言っていたから、気を利かせて点けておいてくれたのかもしれない。いやしかし、この時間なら起きている可能性のほうが高い。 「結月ー、ただいまー」  寝ているなら起こさないくらいのトーンで告げて、部屋の内部へと足を踏み入れた、そのときだった。向かって左側――晃大のベッドの上でビクッと跳び跳ねた肩に、動きが止まった。

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