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第22話 断罪の夜
冬の帝都に吹く風が、窓を叩く咆哮となって寝室に響き渡っていた。だが、その冷気さえも、室内に立ち込める熱烈な「毒」と、焦げ付くような情念を冷やすことはできない。
シュハールの怒りは、静寂の皮を被った業火であった。暖炉で灰になったノルズガルドの遺品は、もはや影も形もない。カーツに残されたのは、焼けるような喉の渇きと、主君という名の絶対的な神による審判だけだった。
「陛下……っ、あ……」
床に跪き、震えるカーツを見下ろすシュハールの瞳は、黄金の冷徹さに満ちていた。彼は一言も発さず、カーツの襟元を巨大な手で掴み上げた。
――びりりッ!
暴力的な音が静寂を切り裂く。シュハールは、カーツが丁寧に整えていた漆黒の衣を、指先の力だけで無造作に引き裂いた。上質な生地が悲鳴を上げ、ボタンが弾け飛ぶ。
「あ、ぁ……っ!」
抵抗など許されなかった。ズボンも、下着も、シュハールの荒々しい手によって次々と引き破られ、剥ぎ取られていく。数秒前まで「人」としての形を保っていたカーツは、今や冷たい空気の中に、一糸纏わぬ全裸の姿で晒された。
「……死人のゴミを抱いて泣く暇があるなら、その身体が誰のものか、骨の髄まで思い出させてやる」
シュハールが無理やり嗅がせたのは、強力な媚薬を仕込んだ薫香だった。逃げ場のない鼻腔を甘ったるい毒が襲い、カーツの視界は瞬時に歪み、芯から突き上げるような狂おしい熱が筋肉を内側から食い破る。
混乱するカーツの腕が取られ、太い革紐でまとめられると、天井から垂れ下がる無機質な滑車へと繋がれた。ぐい、と索が引かれる。カーツの強靭な身体が、不自然な角度で宙へと吊り上げられた。
だが、地獄は始まったばかりだった。
シュハールは鈍い光を放つ金属製のフックを手に取り、潤滑の香油すら塗布せず、秘所へと深く、深く埋め込んだ。
「ひ、あぁあああッ!!」
裂けるような痛みが脳を突き抜ける。そのフックの末端もまた、天井の滑車へと繋がれた。腕を吊り上げられ、後ろの孔までもが上方に引き絞られる。さらに、前は鋭いリングで無慈悲に戒められ、一滴の解放も許されない。
カーツは、己の体重を支えるために、極限までつま先立ちを強要された。わずかでも踵を下ろせば、腕の関節と体内のフックに全体重がのしかかり、肉が裂ける。視界は漆黒の目隠しで遮断され、暗闇の中で五感だけが暴力的なまでに研ぎ澄らされていく。
――ビシッ!
「あ、がぁあッ!!」
不意に放たれた鞭が、汗ばんだ背中に鮮血の筋を刻む。シュハールは容赦しなかった。吊り上げられ、無防備に晒された腹部、太腿、胸板へと、唸りを上げる鞭が次々と蹂躙していく。
「お前の主人は誰だ。答えよ、カーツ」
「陛下……っ、お許しください、陛下……ッ」
「……まだ足りぬようだな」
シュハールは冷酷に言い放つと、つま先立ちで限界を迎えているカーツの膝裏を、容赦なく蹴り上げた。
「うぁああ、ああああああッ!!」
支えを失った全自重が、吊り上げられた手首と、内部に食い込んだフックへと一点に集中し、激痛が火花となって散る。カーツは声を枯らして絶叫し、振り子のように揺れる肉体が媚薬の痺れを増幅させ、絶叫の合間に卑猥な吐息が混じる。
調教は数日にわたり、方法を変えて執拗に繰り返された。
ある時は、脚を開かせて固定し、秘所に魔導で蠢く張り型を押し込んだまま何時間も放置した。またある時は、滑車に吊るした身体に翡翠の珠を押し込み何時間も過ごさせた。
夜が来るたび、シュハールは新たな苦痛と、それ以上の淫らな悦びをカーツの肉体に刻みつけた。高潔な騎士としての記憶を、暴力的な快楽と媚薬の霧で塗り潰していく。
躾の手が休む時間も、カーツは自由を許されず、石の床の上に、文字通り「打ち捨てられた」。
ドサリ、という重苦しい音。
両腕は固く戒められたまま、衣服もなく、漆黒の目隠しも外されない。
「……あ……、ぁ…………っ……」
カーツは冷たい石の床に、一反のボロ布のように横たわっていた。
鞭打たれた傷口が床に触れるたびに鋭い痛みが走り、極限まで引き絞られた秘所は麻痺したような鈍痛を訴え続けている。
床に散らばった衣の残骸は、彼が「騎士」であった過去の抜け殻のようだ。今の彼は、ただの肉塊として、冷え切った床の上で震えることしかできない。
一日の大半を、彼はその状態で放置された。
喉は渇ききり、前を塞がれた苦痛はもはや感覚を失いつつある。暗闇の中で、かつての戦友たちの顔を思い出そうとしても、脳裏に浮かぶのはシュハールの冷酷な黄金の瞳と、背中に走る鞭の熱い衝撃だけだった。
そして、再び夜が訪れ、軍靴の音が静寂を破る。
扉が開く。重厚な空気と共に、濃い「血の匂い」が流れ込んできた。
反シュハール派を一族ごと根絶やしにしてきた、死神の如き王の帰還。
「……まだ、生きていたか」
シュハールの巨大な影が、床に這いつくばるカーツを覆う。
抱き上げられることも、労わられることもない。だが、数日にわたる過酷な時間の末、カーツは目隠しの裏側で、自分を蹂躙したその支配者の気配を、狂おしいまでの渇望を持って追いかけた。
シュハールの手がカーツの顎を乱暴に掴み、無理やり上を向かせた。
「お前の主人は誰だ」
繰り返される問い。
かつて彼を支えていた高潔な魂は、シュハールの苛烈な執念によって、粉々に打ち砕かれていた。
「……シュハール陛下……っ、ご主人様……っ! 陛下が、私の……唯一の、ご主人様です……っ!!」
それは、もはや強制された答えではなかった。地獄から救い出し、唯一自分に触れてくれる主人の存在に縋りつこうとする、自発的な帰順の悲鳴であった。騎士としての矜持を完全に捨て去り、一人の奴隷として「ご主人様」という言葉を、震える唇で自ら口にした。
「……ああ、そうだ。お前の主人は、俺だけだ。死者の遺品も、北の神も、もはやお前の中には存在せぬ」
シュハールは冷え切ったカーツの身体を力任せに引きずり上げ、再び「手入れ」を始めるべく、鎖を短く握り直した。
窓の外の吹雪は激しさを増し、すべてを白く塗りつぶしていく。
だが、その雪さえも、カーツの心に刻まれた「主人」の名と、逃れられぬ隷属の闇を消し去ることはできなかった。
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