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第1話

「寒いな…。」  中学二年生、十二月。  吐いた息が白く可視化されるほどの酷寒に耐え、一歩一歩学校へと足を進める。  首に巻いたマフラーを鼻先まであげ、すっぽりとマフラーに顔を埋める。  自身のトレードマークである細身の黒縁メガネ。  そのレンズですら自らの吐く息で曇ってしまうことが微かな苛立ちを感じさせた。 「おはよっ。颯希。」  明るい挨拶とともにぽんっと背中を叩かれる。 「朝比奈、おはよう。」  さらりと返事をした後、同じ教室まで他愛のない会話を繰り返した。  ガラリと教室の扉を開き、二人ともある席へと歩みを進める。 「おはよう。穂積。」  颯希は気怠げに机に突っ伏す穂積伊織(ほづみ いおり)に声をかけた。 「ん…。さつきぃ…?おはよ…。(ふぁぁぁ…。)」  大きなあくびとともに挨拶を返され、溜息をつく。 「まったく…。また寝不足?体に良くないからやめなよ。」 「あぁ…うん…。…。」 「ってまた寝てるし。空返事も大概にしないと、」 「まあまあ、伊織の睡眠不足はいつものことじゃん?颯希もその辺にしとけよ。」  伊織の態度に変化が見込めないことで説教を始めようとする颯希を朝比奈悠馬(あさひな ゆうま)が止めた。  悠馬と伊織と長谷川颯希(はせがわ さつき)の三人は去年も同じクラスであり、なんとなく集まる関係にある。  伊織はもともと、いつも気怠げで何をするにも机に突っ伏していた。  ただの無気力人間なのだと思えば、突拍子も無いことを考えついたりするため、彼を暗い性格だと認識している者は少ない。  彼の私生活は皆が謎に思っていたが、三人で集まり始め、彼のことを知るうち、謎に包まれていた彼の私生活が判明した。  彼はなにかと「面倒臭い。」「だるい。」と言って食事及び睡眠を放棄するらしく、昼食は学校にて悠馬と颯希に命令され、渋々食べている状況にあるが、完食したことは少ない。  そんな彼のことが放って置けなくなり、颯希は伊織と行動するようになった。  一方悠馬は伊織と伊織を放っておけない颯希とのやりとりや、伊織の奇想天外な発想力を気に入り、二人と行動を共にするようになった。 「いやぁ~、いつ会ってみても、やっぱり伊織は面白いよねー。」 「面白がってる場合じゃ無いよ。中学生にしてそんな崩れた生活してたら後が大変なんだからっ!」  悠馬が軽い口調で茶化すと颯希がビシリとツッコミをいれた。 「あはは。颯希は見た目と中身の年齢があってないけどな!」  相変わらず軽い口調で的確な発言をする悠馬に颯希は再びため息をつく。

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