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第18話

 深呼吸をして教室のドアを開ける。 「颯希?なに真剣な顔してんの?」  教室には伊織の姿は見えず、代わりに悠馬が声をかけた。 「なんでもないよ。  それより、今日ってこのテキストでいいんだよね?」  尋ねられ、表情に出るほど緊張していることが恥ずかしく、咄嗟に話題を変えると、悠馬は「俺もそれ持ってきたー。」と明るく笑う。  ほどなくして教室の扉が開き、部活後であろう疲れた様子の伊織が入ってきた。 「よぉ、伊織。お疲れさん。」  真っ先に悠馬が声をかける。  どんよりとした雰囲気を纏った伊織が悠馬と颯希の方をみた。 「ん…。ありがと。もー、無理…。」  ふらふらと力の抜けた足取りで悠馬に抱きつく。 「どうした?なんでそんな疲れてんの?」  がしりと伊織を体で受け止めた悠馬は不思議そうな表情をしている。 「大丈夫?」  先ほどまで伊織に会うことに緊張をしていた颯希も、伊織のあまりの疲労感から心配する気持ちの方が勝り、声をかける。 「悠馬、颯希。…俺、もう無理。眠すぎ…。」 「「は?」」  悠馬と颯希、二人ともほぼ同時にため息をつく。 「いつものことじゃん。いつもの自業自得パターンだろ?」  呆れる悠馬。  けれど、颯希は不思議そうな顔をする。  伊織が寝不足なんていつものことだ。  けれど、それだけではなさそうな疲労感。  何があったのか不思議に感じた。 「で、寝不足はなおしてっていつも言ってるし、今も言うけど。  他に何かあったの?」  寝不足なことについて注意を施しながら疑問を尋ねる。 「…で。マジ寝不足で起きてるのも辛い中、部活まで出た。  問題はそこから。  なんか、神崎のさ、機嫌わるくて。  いつもうるさいし、すぐ突っかかってきてめんどいけど、適当に流してた。  なのに今日の神崎はいつもの倍以上怠い…。鬱陶しい…。」  基本的に寝不足な伊織は、今日は本当にいつもに比べて深刻な寝不足なのだろう。  それだけではなく、伊織が嫌っている神崎に色々と突っかかられて完全にキレているらしい。  いつものゆるい雰囲気で、短い会話からは想像もつかないほどバッサリとした雰囲気で長く話している。  そんな伊織の様子に開いた口が閉まらないほど驚いた颯希と悠馬。  悠馬の顔には「お前、本当に伊織か?」と書かれているように見える。  チャイムがなり、八坂先生が教室に入る。  イラついていた伊織は自分の席にて突っ伏し、先生が話す、今日の補習についての連絡事項を聞いている。  颯希がそんな伊織を見つめていると、後ろの席に座る悠馬から話しかけられる。 「なあ。さっきの伊織、やばくね?  怠いとか鬱陶しいとか、もともと素直なやつだけど、あんなにイラついてんのは珍しいよな。」  颯希は、こくり、と頷く。  前にも悠馬が言っていた通り、嫌いだと思った相手には優しくない伊織。  けれど、あんなにもキレているのは初めてだ。  昨日、教室を去っていく神崎は颯希を鋭く睨みつけた。  今日、伊織にいつも以上に突っかかってきたのはそれが原因だろう。  颯希は、次に神崎と会った時が怖いな、と感じた。 「なあ、颯希?」  悠馬が再度尋ねる。 「お前さ、伊織と何があったん?」 (ああ、やっぱり朝比奈は鋭すぎる。)  真顔で尋ねられた颯希は、驚くより先にそう思った。

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