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第19話

 放課後。  疲れていた伊織はふらふらとしながら誰とも話さず、家へと帰っていった。  特に予定のない颯希は同じく予定のない悠馬に誘われ、教室に二人だけのこの状況で、朝の質問に答えていた。 「で?伊織と何があったん?」  問い詰める悠馬。  悠馬は基本は優しくて気分屋だが、伊織と同じくらいかそれ以上に頑固な一面もある。  つまり、こうなったら素直に答える以外に道はない。  神崎が伊織にしたこと、それを偶然教室にいて見てしまったこと、それで泣いていたところを伊織に慰めてもらったこと。  包み隠すことなく、全てを悠馬に告げた。  話している途中も、話終えた後も、悠馬は何も話さず、動きもしない。  恐る恐るその表情をのぞいてみると、悲しいような、辛いような、とにかく微妙な表情をしていた。 「お前ってさ、本当に…。」  最後まで言わず、ため息をつく。  悠馬が続けて言おうとした言葉にだいたい想像がついた颯希もまた、ため息をついた。 「まあ、あれだ。忘れろとまでは言わないけどさ。  過ぎたことは仕方ないし、お前もはやく伊織に告れば?」  その言葉を聞いた瞬間、颯希は顔を赤くして俯く。 「こっ!告…る…。」  そんなことはできない。  勇気がない。  いくらヘタレだと思われても、それだけはできない。 「そそ。結果までは言い切れないけどさ。伊織なら、受け入れてくれんじゃね?」  軽い口調で話す悠馬。  けれど、"伊織なら、受け入れてくれる"の言葉は颯希の悩みを少しだけ軽くするものだ。  だが、それでも、怖い。 「俺、怖いよ。  告白したとして、穂積がそれを受け入れてくれても、受け入れてくれなくても。  ヘタレとか思うかもしれないけど、その先が怖くて、不安。」  そう、ふられた場合は、友人としての今の関係がなくなるかもしれない。  それに、伊織にふられて、颯希が立ち直れる気はしない。  なによりも、伊織に拒絶されたら、本当に死んでしまうかもしれない。  付き合えた場合はどうすればいい?  男同士、親友同士。  今の関係でも、ただの友人よりはずっと仲がいい。  抱きついてこられたり、手を握ったり、甘えられたり。  伊織の場合は特に、悠馬と颯希以外には会話の雰囲気すら変わる。  もはや「お前らって付き合っているのか?」と聞かれそうなくらいだ。 「まあ、確かにさ。  お前の気持ちはめっちゃわかる。本当に好きな相手に告白すんのって、怖いよな。」  あはは。と力なく笑う悠馬。  颯希はその言葉の意味に気づき、そんな悠馬を見つめる。 「…俺さ、幼馴染のことが好きなんだ。  つっても、相手は女の子だし、お前みたいに男同士って壁を越えるよりは楽なんだろうけどよ。  それでもさ、その壁がないのに、怖いんだ。  俺の方がよっぽどヘタレだろ?」  そう呟き、また力なく笑った後の悠馬の表情は暗い。  颯希は何も言えずただ悠馬の話を聞いていた。

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