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第20話
家に帰り、風呂場へと向かう。
冷たい空気に裸体が触れ、身震いしながらポチャンと音を立てて湯船に浸かる。
「告白…かぁ。」
教室で悠馬に言われたことを思い出す。
いつも楽しそうな悠馬。
そんな悠馬が、好きな子に告白できずに悩んでいることを知ってしまった。
思い出すのは、颯希の伊織への恋心を知った後の悠馬。
初詣では心配してくれ、伊織について悩めば、いつも相談に乗ってくれた。
誕生日の時なんて、水族館のチケットを二枚も渡してくれた。
考えれば考えるほど、いつも支えてくれた悠馬ばかりが出てくる
(朝比奈に、迷惑かけてたかな…。)
ふと思った。
あんな顔をするほど、悠馬も悠馬で悩んでいる。
それなのに、いつも支えて、応援してくれた悠馬。
自分は悠馬が悩んでいたことに気づかず、いつも甘えてばかり。
「俺って、やっぱり馬鹿だよね…。」
自己中心的な自分に苦笑した。
ベッドへと転がり、カバンから取り出したチケットを眺める。
誘った後、伊織からメールが届き、三月十一日に行くことに決まった。
けれど、昨日の出来事を思い出すと素直に楽しめない気がして、不安な気持ちだった。
確かに、もう過ぎたことで、見てしまったものは仕方ない。
諦めて前に進むこともできず、その場に立ち尽くしているのは馬鹿かもしれない。
けれど、初めてこんなにも好きになった人。
大好きで、大切で、誰にも渡したくない人。
その人が他の人に目の前でキスされれば、誰だって落ち込む。
そしてそれは、颯希のように引きづる性格なら尚更だ。
だからこそ、悠馬は自分の気持ちを教えてくれてまで、颯希を応援してくれた。
「頑張らなきゃ。朝比奈がこんなに応援してくれたんだから。」
告白まではきっとできない。
抱える悩みは多くて、伊織への恋心が本気だからこそ、やはりまだ怖い。
けれど、伊織といる時間は大切で、色々悩んで暗くなっていてはいけない。
この気持ちを伝えるようになるまで、まだまだ時間がかかるかもしれない。
それでも、勇気の出せる所は、少しずつ頑張ってみよう。
大したことを決めたわけではない。
けれど、どんどん前向きになれる颯希の気持ち。
悠馬との話は、確実に颯希の心を軽くしたことをしみじみと感じた。
近くに置かれたスマホを手に取り、画面を開く。
そこには新着メールが届いていた。
メールを開くと、差出人は悠馬。
「突然、俺の話とかして、戸惑わせていたらごめんな。
でも、颯希はもっと自信持て。俺、伊織も颯希も好きだからさ。応援してる。
自分のことを棚に上げて悪いけど、頑張れよ。」
目尻がだんだんと熱くなる。
溢れる涙を見たら、悠馬はきっと「馬鹿だな。お前、いちいち泣き過ぎじゃね?」って笑うだろう。
けれど、改めて強く思った。
最高の友人と出会えた。
ぽろぽろと溢れる涙をパジャマの袖でふき取りながらメールを返す。
「ありがとう。
正直、告白は怖い。
けど、深く考え込むことはないって、朝比奈が教えてくれた。
少しずつでも、勇気を出して、頑張っていくよ。
友達になってくれて、支えてくれて、応援してくれて、本当にありがとう。
悠馬。」
送信ボタンを押した親指は震えていたけれど、その口元は柔らかく笑っていた。
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