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第28話
二時間後。
自室で本を読んでいる途中、颯希のスマホが振動し、新着メッセージが届いたことを知らせる。
チャットアプリを開き、その内容を確認。
「俺も、その日でいい。」
ようやく伊織から連絡がきた。
「りょーかい。んじゃ、四月三日で決まりな!」
伊織の返信に秒速で既読マークをつけた悠馬。
悠馬はいつも一瞬で既読マークをつける。
そのことに気づいた時、颯希は「どれだけスマホを弄っているのか」と驚いた。
明るく元気で、人気者な悠馬は、他校でも、ネットワーク上でも、友人が多い。
悠馬は彼らと連日、SNSを利用してコミュニケーションをとっていた。
そのことを知った時、伊織や颯希には到底真似することのできないコミュニケーション能力の高さに、二人とも驚いた。
悠馬も伊織とは違った意味で不思議な人だ。
悠馬のような人気者が、颯希や伊織と一緒にいる。
面白いから。という理由があっても、やっぱり不思議だと颯希は感じた。
颯希は三人の中で、自分だけが普通だと感じている。
深い関係の友人は伊織と悠馬だけだが、浅い関係の友人ならそこそこはいる。
けれど、悠馬ほどの人気者ではない。
その人が好きか嫌いかは、やっぱりある。
けれど、態度などでそれを表に出したりはしない。
だから伊織のように、好き嫌いがはっきりとしているわけではない。
好きな相手が同性だということ以外は普通の中学二年生の男子だ。
けれど、伊織と悠馬は気づいている。
自分たちがクラスの中でそれぞれ違う意味で目立つこと。
そして、そんな二人と一緒に居られる颯希が一番変だということに。
「おやすみ。」
颯希は一言メッセージを送り、スマホを充電器と繋げ、ベッドへと横になる。
「四月三日…。」
それまでは伊織に会う約束はない。
颯希にも合唱部の活動があるように、伊織にも弓道部の活動がある。
春休み中に一回でも会える日があることすら奇跡だと思えた。
四月三日が待ち遠しい気持ちが膨らむ。
けれど、膨らんだ気持ちは急速に萎んでいった。
(部活動…。)
伊織が弓道部の活動で忙しいということは、神崎と頻繁に顔をあわせるわけで。
神崎が未だに心に押しとどめているであろう伊織への恋心を本人へ告白するチャンスが増えるわけだ。
そう考えた途端、颯希の中の嫉妬心が溢れ出した。
神崎と伊織が一緒に居てほしくない。
神崎からの告白を聞いてほしくない。
告白を聞いたとして、絶対に受け入れないでほしい。
ズキズキと痛む胸。
呼吸が苦しい。
泣きたくてたまらなくなる。
もう何度もそれを感じているが一向になれそうにない、鋭い痛み。
まるで、この痛みや苦しみに、慣れてはいけないと身体中が騒いでるように感じた。
軋む音がする。
絶対に開けてはいけない箱が無理やりこじ開けられてしまいそうな音。
けれどまだ開かず、その鍵はしっかりと閉められている。
この時、ほんの少しだけ箱の隙間が見え始めていたことに颯希は気づかないふりをして、静かに目を閉じる。
四月三日の約束を思えば、ほんの少しだけ楽になった。
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