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第27話
「何かやりたいこと、あるの?」
悠馬の提案を聞き、伊織が問いかける。
すると悠馬は、にいっと口の端を上げて笑う。
「バッティングセンター行こーぜ。」
伊織は「わかった。」と頷くが、颯希は目を丸くする。
「なんでいきなりバッティングセンター?」
唐突の提案に驚くが、悠馬は平然と答えた。
「ん?俺が行きたいから、かな。
お前らはやりたいこととかねーの?」
悠馬が二人に聞くと、伊織が「じゃあ、」と提案する。
「…スケート。行きたい。それか、ボウリング。」
伊織にしてはアクティブ過ぎる提案にまた驚く颯希だが、一年間一緒にいたからなのか、なんとなく慣れてきている自分自身に驚いてしまう。
「颯希は?」
「うーん。俺はなんでもいいよ。」
伊織の意見をスマホにメモした悠馬が颯希にも意見を求めたが、特にやりたいこともなかったので、颯希は笑顔で答えた。
「おっけー。一日同じことして遊ぶのも勿体無いし、全部やるか!」
悠馬からの伊織以上にアクティブ過ぎる発言に今度は颯希だけでなく、伊織も驚いた表情を浮かべた。
「それ、マジ?」
伊織が引き攣った表情で悠馬に聞くと、満面の笑みが返された。
「もちろん。マジに決まってんじゃん。いっぱい遊ぶぞー!」
颯希と伊織は二人してため息をついたが、三人で遊べることが嬉しくて、ふわりと笑った。
帰宅後、スマホのディスプレイを確認すると、伊織と悠馬、そして颯希のグループチャットに悠馬から新着コメントが送られていた。
チャットを開き、内容を確認する。
「四月三日に行こうと思うけど、お前ら空いてる?」
それは、先ほど学校で話していた三人で遊ぶ日の日程について。
悠馬は普段、元気でお調子者なイメージが目立つが、こういう計画的な部分はしっかりとしている上に、仕事が早い。
人は見た目で判断してはいけない、と聞いたことがあったが、本当だな。と颯希は頷いていた。
「俺はそれで大丈夫だよ。」
簡単に返信すると、秒速で既読マークが一つついた。
「あとは伊織だな。」
先ほどの既読マークをつけたのは悠馬だった。
「伊織のやつ、なかなか連絡繋がらねーし、気長に待つかな。」
メールもそうだが、電話ですら伊織と連絡をとるのは難しい。
悠馬と颯希、それに家族にだけはメールや電話を無視することはなく、必ず確認している。
けれど、時間がかかる。
それは普段、休みの日は余計に、伊織はスマホを見ないからだ。
むしろ、電源が切れていることにその日中に気づくかすらも怪しい。
スマホが普及した現代ではあまりに珍しいことだが、伊織ならありえる。
他人の好き嫌いがはっきりしている上に、好きになれる人が極めて少ない。
面倒なことと強制されること、我慢することが苦手で、他人との関わりを持つことも嫌い。
そのくせ、一度心を開けば、ふんわりとした柔らかい雰囲気を漂わせる。
やっぱり伊織は不思議な人だと颯希は再認識した。
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