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第51話

 四月九日。  朝七時、スマホのアラームが鳴り響き、颯希はまだ眠い目を擦りながらそれを止めた。 「今日からかぁ」  今日から中学三年生。  けれど、特に感動することもない。  中高一貫校で三年生に進級、悠馬も伊織も高校からも一緒なのだから、颯希にとってはいつもとほとんど変わらない。  支度を終え、始業式で荷物も特になく比較的軽い鞄を持ち、家を出る。  いつもの電車に乗ると、空席を見つけ、腰掛けた。 (同じクラスだといいな)  ぼんやりと向かい側の窓から流れていく景色を眺めた。  一年生も、二年生も。  悠馬と伊織と同じクラスで、当たり前のように過ごしていたことを思い知る。  鈴風中学高等学校では二年生からは進学クラスと特別進学クラスに分かれる。  去年三人の学年では、二年D組のみが特別進学クラスだった。  そしてそれは三年生になっても変わらない。  一年生の十一月にその希望をとり、三人とも特別進学クラスを選択していた。  文系理系は関係なく、希望者の中から二年間の成績順に決定されていく。  けれど、二年生で特別進学クラスになれたとしても三年生でクラスが変わらないわけではない。  二年生の十一月にもう一度希望をとり、三年生の特別進学クラスの生徒が決められていく。  自らの希望で進学クラス行きを決める人もいれば、成績が低く、強制的に進学クラス行きになる人もいる。  進学クラスに行った人の代わりに、進学クラスの希望者が特別進学クラスに来る。  こうして、特別進学クラスのクラス編成が行われる。  三人は今年も特別進学クラスを希望したけれど、その希望が通るかはクラス編成を見てみるまではわからない。  電車から眺める景色も、電車内の雰囲気も、いつもと同じ。  けれど、颯希の内心は少しだけ不安の色が滲んでいた。 「おはよー」  壁に貼り付けられたクラス分けの紙。  その周りには多くの生徒が集まっていた。  その中にいた悠馬が颯希に気づいた。 「おはよう。もう見た?」 「おうっ。俺とお前、それに伊織もD組だ」  颯希は「よかった」と胸を撫で下ろした。    けれど、悠馬は気まずそうに自らの頬を軽く掻いた。 「どうかしたの?」  思ったことをそのまま口に出すと、悠馬はさらに気まずそうに口を開いた。 「あいつがさ、特進に来たんだ」 「…あいつって?」  人物名を出さない悠馬に颯希が尋ねた。  決してわからないから尋ねたのではない。  「特進に来た」とは、その誰かが三人と同じD組の生徒だということだ。  そして悠馬がこんなにも気まずそうに口に出す名前に颯希はただ一人、心当たりがある。  尋ねた理由、それは、その相手のことではないと思いたかったからだ。  けれど、颯希の予想は見事に的中する。 「…神崎」 「…」  クラス編成をやり直して欲しいと心から願う。  けれどそんなことは現実に起こるわけはなく、開いたD組のドアの先に神崎は座っていた。

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