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プロローグ 俺たち『転生モブ同盟』

 色とりどりの花弁が陽光にきらめいて青い空に舞い上がる。まさに、|ゲームのオープニング《・・・・・・・・・・》のような光景だ。庭園を抜けた先に現れるのは、まるで城塞のようにそびえる、煉瓦造りの荘厳な学び舎。煉瓦を敷き詰めた舗装された道を、豪奢な馬車が行き交い、若き貴族の子弟たちが胸を高鳴らせながらその門をくぐってゆく。 「ついに、始まったか……」  イチルはフゥと息を吐き出し、パライバトルマリンの澄んだ瞳を、|見覚えのある《・・・・・・》校舎に向けた。これから三年間、この場所で生活していく。全ては、平穏無事な生活のため――。  イチルの隣に立つ人の気配に、視線をそちらに向ける。イチルと同じく、この世界では珍しい黒髪に、グリーンガーネットの瞳をした少年だ。得意げな顔をして、ツリ目がちな瞳を貴族子女たちに向けている。 「オレもようやく、実感が湧いて来たぜっ」  その隣では、伸ばしっぱなしの黒髪を適当に結んだ、パパラチアサファイアの瞳をした少年が立っている。メンバーの中では一番背が高く、真新しい制服の袖をもう捲り上げ、ネクタイもしていない。目つきの悪さも相まって、不必要に目立っている。 「おれは、よく解んねえけど。まあ、イチルの言うこと聞いてりゃいいんだろ?」  その後ろから、やや遅れて癖のある黒髪をした、オパールの瞳の少年がやって来た。制服の上に、やぼったい黒いローブを羽織った姿は、隠遁の魔法使いのようである。 「……ぼ、僕は、学校も授業も興味ないよ。同級生はみんな子どもだろ……?」  イチルは三人を眺め、はは、と空笑いを浮かべる。 (不安すぎるんだけど……)  クローバー商会の次男であり、軽薄な雰囲気を漂わせるツリ目の少年、フタミ・クローバー。  孤児院出身で貧民街育ちの不良少年、ミツハ。  リンドウ子爵家三男に生まれた根暗な中二病男子、ヨツギ・リンドウ。  ――そして、特に特徴らしい特徴もなく、無個性に整えられた雰囲気を身に着けた少年、アオギリ男爵家嫡男のイチル・アオギリ。  全員が、乙女ゲーム『星降る夜のファンタジア』の中のモブキャラクターに転生した、転生者である。 「良いかお前ら。モブとしての平穏な暮らしを守りたかったら、絶対に攻略対象に近づくなよ? 特に――フタミ!!」  ビシッ! と指差しするイチルに、フタミは軽薄な笑みを浮かべながら肩を竦めた。 「なーんでオレかなあ。攻略対象って、レヴァン、ディオルフ、フロストだろ? レヴァンは王太子だし、ディオルフは公爵令息。フロストは騎士団長だし? 接点なんかねーって。イチルは心配しすぎ。それに、男と接点もってどうするんだよ」  大仰にため息を吐いて、フタミが校舎を振り返る。 「見ろよ! 俺の家柄センサーがビンビン言ってるぜ! ここには、金のある貴族のご令嬢がわんさか通ってんだぞ? オレはこの三年で、絶対に玉の輿狙ってやるからなっ」  フタミの言葉に、イチルは額を押さえて重いため息を吐き出す。  そう。このフタミという男。狙っているのは、もちろん攻略対象ではなく、貴族令嬢である。男子の跡取りが居ない令嬢に、入り婿として貴族の仲間入りするのを狙っているのだ。すべては良い生活のため――。そのためなら、ちょっとくらいゲームの知識を使ってもいいだろう。そんな風に考えているのだ。 「お前な、ちょこちょこ儲けさせてやっただろ。あんまり欲出すな!」  実を言えば、転生知識でちょっとした商売を、イチルたち四人で行っている。男爵家の力と商人の力、前世の知識も合わせて、あまり目立たず、それでいてそれなりの金額を稼いでいるのだ。 「あんなんじゃ、一生遊んで暮らせないじゃん? それに何より、夢がない。オレが狙うのはあくまで、働かなくても生きていけるお金なの。な、ミツハ。金は大事だろ?」  そう言って、ミツハの肩を抱く。 「――確かに、金は大事だ。だが、人間、働かないとダメになる」 「ああ、そう……。ったく、真面目なんだからさぁ……」  不良面のミツハに「真面目」なんていうのはフタミくらいのものだろう。そのミツハに対しても、イチルは少し気が重い。 「それで、ミツハは大丈夫なんだろうな……?」 「横文字の名前なんか覚えられねえよ。知らねえけど、男に近づかなきゃ良いんだろ?」 「まあ……、仕方がないか……」  このミツハという少年は、『星降る夜のファンタジア』の知識がない。前世ではゲーム自体あまりやったことがないらしく、乙女ゲームと言っても何も通じず苦労したものだ。転生前もヤンキー。現在もヤンキー。イチルが一生懸命説明しても、「知らねえ」「解らねえ」で終わってしまう。 (まあ、攻略対象に近づきさえしなきゃ、大丈夫だろう……多分)  不安な感情を抱いたまま、チラリとヨツギを見る。 (不安だ……) 「ヨツギ……」  ヨツギは反応せず、分厚い本を開いてブツブツ呟いている。完全に変なヤツである。  このヨツギという少年もまた、『星降る夜のファンタジア』の知識がない。だが、ゲームやオタク文化については造詣があったため、「な、なるほど。転生チート主人公がハーレム無双。お、お腹いっぱい」という反応だった。違う。そうじゃない。  そんな彼は、前世では高校生だったらしく、この中では最年少。(イチルは社会人、フタミは大学生、ミツハは成人したフリーターだった)。そして前世は中二病。今世も絶賛中二病の真っただ中である。 「……オ、オウジサマもヒロインも興味ないよ。ぼ、僕が興味あるのはこの世の深淵だけだ。……この状況も、闇の勢力の陰謀かもしれないしね……」 (闇の勢力ってなんですか)  ヨツギの中では、四人の転生者が出会ったのは偶然ではなく運命で、闇の勢力と戦うための選ばれし覚醒者だということになっている。なので、イチルたちは闇と戦うために日々暗躍しなければならないのである(棒)。  残念ながらこのゲームには戦闘はなく、選択肢をポチポチするだけの分岐シナリオである。フレーバーとして魔法は存在するが恋のおまじないや生活魔法程度のものだし、騎士団なんてものもあるが作中に敵対勢力は出てこない。 (唯一、黒魔術師が出て来るけど……。まあ、あれもフレーバーだからな……)  この中で一番ゲームの知識があり、前世では腐男子の社畜会社員だったイチルは、これからのことを考えると気が重かった。 (ゲームでは主人公であるヒロイン・オリシアが学園に入学して、恋愛するだけの話だ。オリシアは聖女候補でもないし、世界は滅亡しない。そう言う意味では、ゆるいストーリーなのが救いだけど……)  ちなみにこのゲーム、悪役令嬢なんてものも存在していない。主人公には恋のライバル的な存在はおらず、ひたすら攻略対象のキャラクターとの好感度を上げるだけのシンプルなシナリオである。基本的には学業・美容・品性・モラル・話術の五つのパラメータを授業や部活、アルバイトなどのイベントで上げて行き、最終的に年度末に行われる学園祭でその年の『星花』に選ばれれば良い。三年間『星花』に選ばれると好感度の高いキャラクターとの最上エンディングというわけだ。 (こんなシンプルな話なんだから、なにも起こりようがないけどさ。この三年を無事に乗り切れば、なんの憂いもなく異世界ライフを送れるんだから)  悪目立ちするなかれ。  シナリオを壊すなかれ。  下手に攻略対象に関わるなかれ。  それが、イチルたち『転生モブ同盟』のルールである。全ては平穏なモブライフのため。異世界まったりスローライフの為なのだ。 「とにかく、ルールを守るんだぞ」 「へいへい」 「分かった」 「ぼ、僕は闇の勢力を調べるよ」 「調べんで良い」  どこかに行こうとするヨツギの襟をつかみ、石畳の道を行く。  王立ステラ学園。入学式である今日から、物語が始まるのだ。乙女ゲーム『星降る夜のファンタジア』の物語が――。 「行こう」  シナリオを決して変えない。そう考えていたイチルが、モブである自分たち四人が入学したことにより、平民の少女であるヒロイン・オリシアが入学する機会を失ったことを知るのは、しばらく先のことである……。 -----各キャラクター初期ステータス----- オリシア(ヒロイン) 学業4・美容3・品性2・モラル4・話術2 フタミ・クローバー(陽キャ) 学業6・美容5・品性3・モラル3・話術10 ミツハ(ヤンキー) 学業2・美容4・品性7・モラル10・話術2 ヨツギ・リンドウ(中二病) 学業8・美容6・品性10・モラル4・話術2 イチル・アオギリ(社畜) 学業10・美容7・品性9・モラル9・話術4

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