101 / 107

【番外編】静寂の宿で、君という傑作を読み解く55

「さっきはお前に気持ちよくしてもらったからな。今度は俺がたっぷり可愛がってやるよ」  俺が追いつかない思考で戸惑う間もなく、彼は片手で俺の熱く震えるソレを包み込み、そのまま口内へと放り込んだ。腔内をかき回す指と、ペニスを舐めしゃぶる舌先。上下から襲いかかる無慈悲な二重責めに、頭の中が弾けるような快楽が押し寄せる。 「あん、…あ、あぁ…うあ…っ、あぁ…ッあ…あぁッ!」  甘い感覚に溶かされ、視界が白く塗り潰されていく。混濁した思考の中で限界を迎えた俺は、彼の口内で情なく弾けてしまった。 「……あ、柊一さん……ご、ごめっ…っ」  申し訳なさで青ざめる俺の視線の先。彼の美貌には、俺の放った白濁が淫らに飛び散っていた。けれど彼は怒る風でもなく、妖しく唇を舌で舐めずると、低い声で笑った。 「……こういうのも、悪くないな」  出っぱなしになっていたシャワーの温水を頭から浴びながら、彼は滴る滴と一緒に白濁を拭い去っていく。その流し目があまりにも艶やかで、俺はまたしても胸を激しく突かれていた。 「流すぞ、七瀬」 「う、うん」  柊一さんは俺の体に残る白濁と汗を、温かな手つきで丁寧に洗い流していく。泡立つ肌を撫でる指先があまりに心地よくて、俺は大人しくその手に身を委ねていた。けれど――。 「っ……へ、変なとこ、触らないでね……?」 「それやったらまたお前のターンになるだろ。……それとも何?もっとやってほしいわけ?」 「……そんなこと言ってないっ!」 「七瀬晃司くん、本日計20回ほどの絶頂を記録中――」 「や、やめてよっ!数えないで、言わないでぇ……っ!」  耳元で面白がりながら事実を突きつけられ、俺は真っ赤になって彼の胸元をぽかぽかと叩いた。すがるように見上げた俺の視線と、彼の深みのある瞳が絡み合う。 「……またそうやって、そんな顔する」  低く落ちた声とともに、彼の指先が俺の頬の雫を優しく拭う。 「どんだけ俺を煽れば気が済むんだよ、お前は……」  呆れを含んだ呟きとは裏腹に、胸を叩いていた俺の手は、いつの間にか彼の大きな手にしっかりと握り潰されていた。シャワーの温水が二人を濡らし続ける中、引き寄せられた体温が再びじわりと熱を帯びていく。 「柊一、さん……?もう終わりって……」 「お前がそんな顔で甘えてくるのが悪い」  反論の言葉は、重ねられた熱い唇によって容赦なく塞がれてしまった。 「ん、…ん、ん…ぷはっ」 「ぷはじゃねえ…ったく、七瀬、自覚持てよ」 「何を?」 「その顔だ、その顔。無防備にもほどがある。俺以外の男にそんな顔するなよ」 「柊一さん以外居ないもん…」  彼は俺の頭をぐしゃっと撫でる。 「そろそろ上がるぞ」 「わかってるよう」  俺と柊一さんはバスルームを後にした。  ベッドルームに戻って、時計を見た。 「げっ!12時まわってる!!」 「七瀬が感じやすすぎるからだろ。何しろ20回は…」  俺は柊一さんの口を慌てて手で塞ぐ。 「い、言わないでっ!恥ずかしいからっ!」  柊一さんは口角を上げ、ほくそ笑んでいる。すべて柊一さんの手のひらで俺踊らされてるだけじゃん! 「ま、俺はいいんだけど。お前明日早いんじゃないのか?」 「寝る、とにかくもう寝るっ!」  俺は布団の中に潜り込んだ。 「パジャマとか着ないのか?」 「いい。このまま寝ちゃう」 「風邪ひくぞ、お前」 「え?それはダメ…三日間も休んでそれはマズい」  柊一さんは「待ってろ」と言い、寝室を出て行く。リビングに行ったのかな。着替えはだいたいリビングに揃ってる。  12時過ぎまで、俺一体何やってたんだ。峠の釜めし食べてから、ずっと柊一さんに抱かれっぱなし。何時間彼に抱かれてたんだ、俺…。柊一さん、手加減してくれたんだろうか。あんなにいかされたけど、腰は思ったよりキツくない。  俺の唯一の情報収集ツールであるスマホも、リビングに置いたままだ。長野から東京、川越、そして横川。旅立つ前に友人たちから冷やかしのラインが大量に届いていたけれど、今は一体どうなっていることやら。 「戻ったぞ、七瀬。ほら、着ろ」 「あ、柊一さん……。ねえ、パジャマ着たらスマホが気になるから、リビング行ってちょっと確認してきてもいい?」  手渡されたTシャツに袖を通しながら尋ねると、柊一さんは呆れたように短くため息をついた。 「ダメだ。……俺よりスマホの方が気になるのか?」  低く掠れた声とともに、着替え終えたばかりの俺の身体が、背後からベッドの上へと押し倒される。 「ひ……っ、柊一さん!?」 「そんな余裕があるなら、21回目を数えてもいいんだぞ、七瀬」 「ダメ、ダメ、ダメ――っ!俺、マジで壊れちゃう!それに早く寝ないと!」 「なら大人しく寝ろ。スマホは明日でも構わないだろ」  覆いかぶさる柊一さんの顔が、息が触れ合うほどの至近距離にある。影になった彼の瞳に覗く熱さに射抜かれ、俺は真っ赤な顔のまま唇を尖らせた。 「わかったよう……寝るから、離してぇっ……!」  降参の意を示すように両手をあげると、柊一さんはくすりと喉を鳴らして、ようやく俺の上から身体をずらしてくれた。けれど完全に解放されるわけではなく、彼はそのまま横たわると、俺の身体を背後から抱きすくめるように引き寄せた。 「ひ……っ」 「動くな。このまま寝るぞ」  大きな手が俺のお腹まわりをしっかりとホールドし、背中に彼の胸板の熱がダイレクトに伝わってくる。後頭部に押し当てられた顎から、彼の吐息が頭髪を揺らした。 (こんな密着されたら、余計ドキドキして眠れないじゃん……)  心臓がうるさく脈打つのを感じながらも、首元まで掛け布団を引っ張り上げられる。呆れるほど過保護で、けれどどうしようもなく優しい温度。  旅先で重ねた熱い時間と、身体に残る心地よい倦怠感。  「21回目」なんて意地悪を言いながらも、俺の身体を気遣ってしっかりと抱きしめてくれる彼の腕の中で、俺の意識は急速に甘い睡魔へ誘われていく。 「……おやすみ、柊一さん」 「……ああ、おやすみ。七瀬」  耳元で聞こえた低い答えを最後に、俺は深い眠りへと落ちていった。

ともだちにシェアしよう!