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虹のつづき21
「七瀬さん、おはようございます。具合大丈夫ですか」
隣の席の後輩女子に声を掛けられた。
(隣の子も心配してくれてたのかな?)
「おはよう。うん、今のところどこも悪くないみたい。ただ、もしめまいとかが続くようなら、脳外科とかに行ったほうがいいって言われたよ」
俺の話を聞いて、同僚たちが集まってきた。
「脳外科?!七瀬がか!?」
「どうなんだよ、具合悪いのか?」
俺は苦笑いしながら、昨日病院に行ったけれど、特に異常はなかったことを説明した。
「心配させるなよ~、七瀬~」
「元気すぎるぐらいが丁度いいんだ、七瀬は」
次々と好き勝手なことを言う同僚たち。
けれど、その言葉には温かさがあった。
「すみません。心配かけました」
俺がペコっと頭を下げる。同僚たちはそれを見て、「大事にしろよ」と、言ってきた。
柊一さん。
やっぱり俺、愛されてるのかな。
(柊一さんに愛されてるかはわからないんだけどね……)
そうだ。
柊一さんにコラム依頼できたこと課長に伝えなきゃ。
俺は課長の席に行き、そのことを報告した。
課長は笑顔を浮かべている。
「よくやった、七瀬。これでイベントの注目度が上がるな。写真はどうなんだ?」
……柊一の気持ちを伝えなきゃ。
「写真はダメです。写真撮影は一切なし、という条件で引き受けてもらったんで」
課長の笑顔が、一気に引きつった。
「それをどうにか持っていけないのか?七瀬、お前の力で」
「そこは無理だと思います。どうにか今回だけ、コラムを引き受けてもらえたんで」
柊一さんの意向は伝えた。
課長は渋い顔をしている。
「いいんじゃないですか。コラム書いてもらえるだけで。関根柊一はメディア嫌いで有名ですから」
課長の後ろに立っていた係長がフォローしてくれた。
「そうは言ってもなあ……」
課長はまだ渋い顔を浮かべていた。
「コラムニストなんですから、写真はさほど必要ないでしょう。そこは折れましょうよ、課長」
「……そこまでお前たちが言うのなら、仕方がないな」
課長はやっと納得してくれた。
ひとまず良かった。
納得してもらえなかったらどうしようかと思った。
「コラムの締め切り日と文字数はいくつですか」
柊一さんに聞いてくるように言われたことを、今度は課長に尋ねる。
「締め切りは一ヶ月後だ。レイアウトなどの作業もあるからな。それまでに四百文字前後で書いてもらえればいい」
「締め切りは一ヶ月後の十月三十一日。それまでに四百文字前後の内容を書けばいいんですね?」
「ああ、それで大丈夫だ。七瀬メモ取って、関根柊一に伝えてくれ」
俺はメモ用紙に締め切り日と文字数を書いた。
これで柊一さんに少しは仕事頑張ってること、認めてもらえるかもしれない。
それで柊平さんのイベントを成功させれば、柊一さんの俺を見る目変わるかも。
少しだけ期待を膨らませて、俺は自分の席に戻った。
スマホを取り出し、締め切り日と文字数を書いたメッセージを柊一さんに送った。
そうだ。
柊平さんにも、柊一さんがコラム書いてくれること伝えた方がいいかな。
柊平さん、柊一さんのこと気にかけていたしな。
俺は昼休みに、柊平さんにラインを送った。
柊一さんがイベントのコラムを引き受けてくれたことを伝えるために。
『あいつがコラム、書いてくれるんですか…嬉しいです。七瀬さんありがとうございます』
柊平さんからお礼のラインが届いた。
柊平さんは柊一さんと仲良くしたいんだな。
柊一さんは、柊平さんのことをあまり良く思っていないようだ。
話していると、言葉の端々からそれが伝わってくる。
俺は二人の架け橋になれるのだろうか。
できたら、家族は仲がいい方がいい。
好きな人を兄の柊平さんに取られたのは辛かったと思う。
だからって、いつまでも無視を決め込むのは、大人としてどうなんだろう。
柊一さんの気持ちもわかるけど、もう子供じゃないんだからさ。
……って、俺が柊一さんの顔を見て言えるかな。
柊一さんに意見するみたいで、怖いんだけどな。
ただでさえ、いつも柊一さんからバカと言われている、俺。
俺みたいなヤツに言われたら、柊一さんのプライドが傷つかないかな。
(嫌われたら元も子もないよ……)
こういう時には美也子さんに相談!
でも、美也子さん太一の件で、俺に気兼ねして、なかなか俺に会ってくれないんだよな。
美也子さんより太一の方が狡猾だったというだけで、美也子さんに非があるわけではない。
それに対処しきれなかった俺が一番バカだったというだけだ。
もう太一の件は忘れたい。
……それでも、心のどこかに苦い思いが残っているのは事実なんだけど。
俺は美也子さんにラインを送った。
「美也子さん、柊一さんのことで聞いてもらいたいことがあるんだ。お願い、相談に乗って」
これで、美也子さんから、無事に返事が来るといいんだけど。
ブブブ……。
スマホのバイブレーターが作動した。俺はスマホを手に取り、画面を見る。
『七瀬君。ごめんなさい。貴方を傷つけてしまった私に、貴方の相談を受ける資格なんてないわ』
美也子さんは罪の意識に苛まれている。美也子さんが悪いわけじゃないのに。
俺は、あまりない頭を巡らせて、かける言葉を考えた。
「美也子さんが落ち込めば落ち込むほど、太一が笑うよ。俺はもう太一のことを忘れたいんだ。だから、美也子さんも今まで通りでいて。俺もその方が助かるから」
これでいいかな。
美也子さんの罪悪感を少しでも取り除いて、今まで通りに接してもらうには。
『ありがとう、七瀬君。私なんかで力になれるかしら』
美也子さんやっと前を向いてくれたみたいだ。
「俺、柊一さんのことは美也子さんにしか相談できないんだ。お願い、美也子さん助けて」
俺は縋るように美也子さんにメッセージを送った。
柊一さんのことは美也子さんにしか相談できない。
……あ。
そうだ。
新宿二丁目のニューハーフ、御幸浩之 に聞くのもありかな。
恋愛の師匠と言ってもいいほどだ。
華麗な恋愛遍歴を持っている、彼。
最近行ってないけど、田辺清隆 やその息子の悟、みんな元気なんだろうか。
ターママのやっているバー。
あそこなら話聞いてもらえそう。
餅は餅屋だ。
美也子さんにも相談しつつ、ターママのバーに久しぶりに行ってみよう。
でも、柊一さん俺が帰らないと心配しそうだな。
昨日倒れたばかりだし、今日はおとなしく柊一さんの家に帰ろう。
余計な心配をかけたくない。
締め切りを抱えているのに、俺まで泊めてくれているんだから。
ターママや御幸ちゃんのところへ行くのは、もう少し後にしよう。
今は美也子さんの話を聞きたいところだ。
けれど、忙しいのか、美也子さんからはまだ連絡がない。
俺もそろそろ昼休みが終わる。あとは、仕事が終わるのを待つしかないか。
俺は営業部のあるフロアへ向かった。
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