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おまけ⑤ 暁を焦がすバニラ 後編

 貸し切り状態の早朝の電車に揺られ、吉永の自宅にたどり着いた頃には、外はすっかり白々と明けていた。  鍵を開けるなり、宮尾は靴を脱ぎ捨てて廊下を駆けていく。そして居間にたどり着くと、勢いよくソファへダイブした。 「……吉永さんちの匂いがする。最高だ」  クッションに顔を埋めたままピクリとも動かない宮尾。目を覚ましたアンリがトコトコと寄ってきて、彼の頭を鼻先でつつきながら朝食の催促を始めている。  そんな愛おしい光景を呆れ混じりの笑みで見つめながら、吉永は浴室へと移動した。布団に入る前に、酒と煙草の匂いを洗い流してさっぱりしたかった。  セーターを脱ぎ、シャツのボタンを外した、その時だった。  背後から、不意に強い力で腹に腕が回された。ずしりと、心地よい重みが背中にかかる。 「あのまま寝たと思ってた」 「んー……」  宮尾は吉永の剥き出しの首筋に熱い顔を埋め、覚束ない手でその身体をまさぐってきた。不埒な指先が、下着の上をゆるりと滑る。  吉永は小さく溜息をつき、半ば冗談交じりに、けれど声を低くして言った。 「宮尾くーん。襲うよ」  宮尾がゆっくりと顔を上げる。肩越しに視線が絡んだ。  アルコールと疲労のせいで目元は赤く、その瞳は薄い膜を張ったようにひどく濡れていた。 「……いーよ。襲って」  激しいシャワーの音に混じって、粘着質で淫靡な水音が浴室内に反響する。  宮尾の背には、すでに吉永が隙なく覆い被さっていた。ひんやりとしたタイルの壁に熱い身体を押し付けられ、もたらされる刺激に激しく身悶えする。 「んっ……ぅん、はあっ……!」  自分の口から溢れ出る、高くて情けない悲鳴が狭い室内に響き、さらに羞恥を煽られた。  吉永の手は、じわじわと体温を押し上げるように、驚くほど優しく、けれど慎重に宮尾の身体を拓いていく。気づいた時には後ろの窄まりに指が何本も狂いなく収まっており、宮尾の最も脆くて弱い核心を撫でるように、容赦なく抉っていた。同時に、水濡れた胸の頂をやさしく指先で転がされ、全身を襲うピリピリとした強烈な感覚に脳が痺れる。  だが、あと一歩、決定的な刺激が足りない。生殺しのような快感に、宮尾は涙混じりの悲鳴を上げた。 「な、なんでっ……もう嫌だ、それ、やだ……っ」 「嫌なの?じゃあ、やめようか」  耳元で囁かれる、意地の悪い声。けれど吉永の手は決して止まらない。さらに念入りに「そこ」を突いては、焦らすようにさっと引いていく。  狂いそうになって肩越しに振り返ると、吉永の穏やかな笑みと目が合った。だが、その目の奥には隠しきれない暗い欲望がドロドロと渦巻いている。そのあからさまな「男」の表情に、宮尾の腰がゾクゾクと重くなった。  吉永が顔を寄せ、触れるだけの優しいキスを落とす。だが、今欲しいのはそんな生ぬるいものではない。 「宮尾くん、何が欲しいの?ちゃんと言わなきゃ駄目だよ」  限界まで追い詰められ、宮尾のプライドは完全に決壊した。ボロボロと大粒の涙をこぼしながら、身も蓋もなく叫ぶ。 「……っはやく!早く、いれろって……!」  瞬間、待ち望んでいた凶悪な熱塊が、堂々と最奥まで侵入してきた。  硬い芯で敏感な粘膜のすべてを激しく擦り上げられ、宮尾の視界が真っ白にスパークする。  吉永が低く笑いながら、宮尾の性器をそっと手のひらで包み込んだ。 「すごいな……いれただけで出しちゃったの?本当に可愛いね、董真くん」 「あ……っ、ぁあ!」  全身を暴力的な快感が支配する。細かく震えるその身体を背後から強く抱き寄せ、吉永は容赦なく腰を振った。 「……ああ!やだ、むりっ、無理……!」 「無理じゃないよ。気持ちいいのだけ、追いかけてごらん」  ギリギリまで引き抜かれ、一気に最奥の壁へと叩きつけられる。弱い場所を執拗に狙い、硬い先端が容赦なくそこを鋭く抉った。何度も、何度も。  強すぎる快楽のせいで血管が収縮し、頭の奥がズキズキと痛む。全身が性感帯の塊に作り替えられたみたいに、どこを触られても狂いそうだった。  吉永が宮尾の顔を強引に向かせ、深く唇を重ねる。ぬるぬると擦れ合う舌。上も下も、これ以上ないほど深く繋がっているという事実に、脳内が多幸感で満たされていく。  やがて、蓄積された熱量がキャパシティを超えて溢れ出した。吉永が奥を穿つたび、押し出されるように宮尾の先端から白濁が何度も噴き出す。身体をビクビクと激しく跳ねさせながら、宮尾はただ、背後の熱だけを狂ったように追い求め続けた。  気づいた時には、寝室のベッドに横たえられていた。  うっすらと目を開けると、宮尾の片脚を高く肩に抱えた吉永の姿が見える。彼は額に流れた前髪を無造作にかき上げると、宮尾を見下ろして、ひどく妖艶に笑った。宮尾は本能的な恐怖に、無意識に首を振る。 「……もう、俺、たたない……」 「大丈夫だよ。勃たなくたって、気持ちよくなれる」  再び、熱い塊が、すっかり柔らかくなった宮尾の内側を割り拓いていく。吉永もすでに一度や二度ではないはずなのに、その性器は信じられないほど硬いままだ。二週間ぶりだというのに、何度も受け入れたそこは、まるで最初から繋がっているのが当たり前であるかのように、しっくりと馴染んでしまっていた。  吉永が、奥の括れにごつごつと亀頭を押し付けながら、熱い質量を出入りさせる。ずるりと抜けていくたびに全身にゾワゾワと鳥肌が立ち、最奥まで圧し潰されるたびに身体を硬直させた。  さらに脚を高く持ち上げられ、宮尾の知らない未知の領域まで侵入される。 「あ、待って!奥、こわい……っ!」  涙目で首を振るも、吉永の動きは止まらない。それどころか、さらに速度を増していく。ぐりぐりと最深部を捏ね回され、宮尾の喉からかすれた悲鳴が上がった。 「ひっ……こわ、こわいっ……あ!」 「怖くないよ。『気持ちいい』だよ、董真くん」  気持ちいい。これは、本当に気持ちいい、なのか。回らない頭で必死に考えようとするが、もう何も分からなかった。ただ、この未知の感覚の先に、一体何が待っているのかが分からず、ひたすら混乱する。  そして、吉永が一際強く腰を叩きつけた瞬間、粘着質で生々しい音が寝室に響き渡り、宮尾は本当の意味で真っ白な世界に放り出された。  全身が自分の意志とは関係なく大きく跳ね上がり、肌に大量の汗が滲む。吉永の剛直が最奥を完全にこじ開け、無理やり出入りを繰り返す。  あまりに強すぎる、脳が焼き切れるような刺激の連続に、宮尾はそれが快楽だと自覚する前に、ぷつりと意識を飛ばした。  ◇  目が覚めたとき、部屋には出汁のたまらなく良い香りが漂っていた。  言うことを聞かない重い身体を無理やり動かし、居間へ這い出していくと、台所からエプロン姿の吉永が顔を出した。 「おはよう。身体は大丈夫?」 「……見ての通り、大丈夫じゃありません」  つっけんどんに睨みつける宮尾の言葉に、吉永は「だって、宮尾くんが誘ってきたんじゃないか」と悪びれずに笑い、再び台所へと引っ込んでいった。その通りなので返す言葉もないが、絶対に吉永もやりすぎだ。腰の奥が、まだ自分のものじゃないみたいにジンジンと熱を持っている。  宮尾が心の中でぶつぶつと文句を並べていると、目の前に湯気の立つ茶碗と汁椀が差し出された。 「どーぞ。たけのこご飯と、豚汁です」  食欲をこれでもかとそそる、どこまでも優しくて芳醇な香り。  宮尾はそそくさと手を合わせると、出された食事を口に運んだ。そして、そのあまりの美味しさに、本当に言葉を失ってしまった。 「……これだ。俺が求めていたのは、まさにこれです」  出汁の染みたご飯を、勢いよく掻き込んでいく宮尾。吉永はそんな恋人の姿を、にこにこと嬉しそうに眺めていた。  どんなに外の世界が冷たくて、しんどい数字の戦いがあっても。  この温かい場所で、この人が待っていてくれる。そう思うだけで、この先いくらでも、どれだけでも泥臭く頑張れる気がした。  柔らかな春の日差しが差し込む縁側では、アンリが丸い身体をさらに丸めて、小さなあくびを零していた。

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