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第1話
痛くて苦しい。何日だろう。殴られて蹴られ、辱められ。牢屋の中で、前世の知識なんて持っていても意味がないと何度思わされたか。今世でも前世でも家族に恵まれなかった。前世俳優兼歌手をやっていた。心から楽しいとは思った事はなかった。歌は好きだった。金をせびり弟を溺愛する両親。一人暮らしも許されなかった。前世の最後も。
「おい、よそ見してんなよ」
気色悪い。前世の最後は。そうだ。脚光を浴びる俺を妬ましく思った弟が、家に帰る途中にある歩道橋から俺を突き落とした。今世ではたぬき族に転生したが、家は貧しく両親は前世と変わらず弟を溺愛して、ぼくを奴隷商に売った。抵抗はしたが、空腹な俺が大柄なライオン族の奴隷商人に叶うはずもなく捕まり、奴隷の首輪を嵌められてこうしてやられ続けている。男が絶頂を迎えた声がした。たぬき姿にすぐ戻ってしまい、ぽいと投げ捨てられ壁にあたる。気持ち悪い。
「まったく、さっさとそこの桶の水で体を洗え。オークションに間に合わなくなるだろ」
桶の水は臭いし、ハエが飛んでいる。これで体を洗うなんて死んでも嫌だ。このまま死んだほうがましだ。体が動かない。寒い。誰か。誰か助けてくれ。家族も友達もいない頼れる人は誰もいない。その時、俺は微かに複数人の足音を聞いた。がやがやと騒がしい声。
「私が退路を断つ。奴隷の解放を進めろ」
どうせちっぽけな俺に気付くわけがない。キィー。俺の入れられていた牢屋が開く音がした。
「酷いな」
声が聞こえたあと、優しく体を抱き上げられた。汚い俺なんかをどうして。
「はっ、離せ。よご、汚れる」
「構わない。大丈夫。この場所には戻ることはない。私が守る」
私が守る。嘘かもしれないのに、今の俺にはその言葉が一番心に沁みた。
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