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【序、恋人が元婚約者という謎の状況】
僕には今、お付き合いしてる人がいる。
「おはよう、ジーン。今朝もとっても素敵な寝顔だったよ」
「……おはようございます…ウィルフレッド様…。……どうやって中に?(Q.鍵は?)」
「いやだなあ、ジーン。君と私の仲じゃないか。隔てるものなんて最初からないだろう?(A.ピッキング)」
ストーカー一歩手前(ギリギリアウト)の熱烈猛アタックの末、押し負けて付き合うことになった恋人が。
恋人の名前はウィルフレッド・ナイトレイ様。
王都でその名を知らない者はいないナイトレイ侯爵家のご令息その人。
五年前にこの辺境の地、カッタヨータに辺境騎士団副団長補佐として赴任してきた。
「不法侵入では?」
「君がいつまで経っても合鍵をくれないから…つい。ごめんね、ジーン。お詫びに私の家で一緒に暮らすというのはどうだろう?(Q.同棲しよう?)」
「生憎我が家にお渡しできる合鍵がないもので…すみません。そしてお詫びが下級貴族の僕には罰ゲームなので慎んでご遠慮させていただきます(A.絶対嫌です)」
ちゃっかりベッドの中に潜り込んで来ようとするウィルフレッド様を全力で阻止する。
油断も隙もない…。
…朝から疲れるなぁ。
…今日も。
「寝顔も当然可愛かったけどジーンはパジャマ姿もとても素敵だよね。そそられる。脱がせても?」
「ダメに決まってるでしょう?あと寝顔とか見るのもホントやめて下さいね?警備兵に突き出しますよ?」
「残念。私の権力なら揉み消せちゃうんだな、これが(ウィンクバチコーン✩)」
「うわあ…腹立たしい~(イラァ)」
人の気も知らないで。
ウィルフレッド様は今日も通常運転。マイペースだ。
こっちは寝起きの不細工な顔なんか見られたくないのに…。
何がそんなに楽しいのかニコニコしながら僕を見てる。
自分で言うのもなんだけど…僕、結構ひどい態度だと思うのに。
恋人に対して。
付き合ってなければ普通に上級貴族に対する不敬罪で牢にぶち込まれてる。
…調子、狂うなぁ。
今日も…。
「ジーン、好きだよ。愛してる」
言い飽きないのかな?って思うくらい毎日何回も紡がれる愛の言葉。
それを今朝もまた紡がれ。
軽快なリップ音と共に頬に寄せられた唇。
僕を見つめるコバルトブルーはこれでもかと甘い。
砂糖と蜂蜜を混ぜてどろっどろに煮詰めたくらい蕩けてる。
…ちょっと狂気じみたものを感じるのは僕の気のせいか。
恋人だけど…。
僕はウィルフレッド様に同じ熱量を返してあげられない。
寧ろこんな関係早く終わらせたいとすら思ってる。
だってこんな眼差しを向けられる資格、僕にはないのだから。
好きか嫌いか聞かれたら、好きだ。…たぶん。
不法侵入とかストーカーとか覗きとかしないでくれたら。普通に。
一切の変態行為さえしなければ。本当に普通に。
優しいし、紳士的だし…。顔も良い。
まあ変態と紳士は相反する言葉な気もするけど。
それでも一応。紳士…的、ではある…と思う。
騎士団での立場も年齢からすればかなり上の方だ。
地位に見合っただけの腕もあると、上層部からの評判も上々。
文句なしの将来有望株。
ウィルフレッド様の恋人になりたいって人は多いだろう。
こんな辺境でもいつだって注目の的、羨望の眼差しを向けられてる。
“自慢の恋人”。
寧ろ自慢できる恋人だ、ウィルフレッド様は。
だけどその自慢の恋人に、僕は昔フラれてた。
幼い頃たった一度しか会ったことがなかったのに。
それから七年後に。ある日突然。
一方的に送り付けられてきた手紙一枚で。
それなのにそんな相手となんの因果かこの地で偶然再会して……そして一目惚れされた。
一年前にとうとう押し負けた自分をどうやったら殴りに行けるか誰か教えてくれ……。
僕の名前はジーン・ロウズ子爵。
でもそれは、このカッタヨータで暮らしていくために手配した仮の名前と身分で。
僕の、本当の名前は。
アシュリー・ジーン・ホリングワース。
八年前にウィルフレッド・ナイトレイ侯爵子息に婚約破棄された、ホリングワース公爵家の次男だ。
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