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【1、彼にとっての運命の出逢いは僕にとっての予期せぬ再会】
ウィルフレッド様との再会は実に十七年ぶりだった。
僕が五歳、彼が四歳の時に顔を合わせたのがお互い最初で最後。
そして僕達は婚約破棄を経て、五年前に再会した。
ウィルフレッド様が僕を元婚約者だと気付かなかったのは当然で。
正直名前を聞くまで僕もウィルフレッド様を元婚約者と気付かなかった。
それくらい僕達はお互いの顔を知らない婚約者同士だった。
いっそ気付かない方が平穏だったと思う。本当に。
きっかけは僕のちょっとしたお節介。
この地に赴任してきたばかりのウィルフレッド様を助けたのが僕達の出会い……、再会のきっかけだった。
買い物帰りの森の中で、ここら辺じゃ珍しくない魔獣のダークパンサーに襲われてたから助けたのだ。
僕は剣術や槍術なんかの物理系はからっきしだけど、精霊術の才能には幸いにも恵まれてた。
王都じゃ出没しない辺境の魔獣に苦戦していたから、人助けのつもりで精霊を召喚して助けたら……なんでか一目惚れされた。
いきなり両手握り締められての告白に、こっちは、え?惚れる要素あった??って状態だったのに。
運命の出逢いだとすら言われた。
僕を拒絶したその張本人に。
いや、助けたのに邪険にされるよりはマシだけど…。
…いや、いやいやいや?
こんなことになるなら邪険にされた方がマシだったかも?だけど……。
名乗られた時の僕の動揺たるや…。
相手が急に脳内お花畑になったウィルフレッド様じゃなければ、挙動不審で尋問されてたかもしれない。
そこからだ。
ウィルフレッド様の猛烈なアプローチが始まったのは。
途中から熱烈猛アタックという名のストーカー一歩手前の行為へ残念な進化を遂げたけど。
実に四年にも及んだ。
ウィルフレッド様の付き纏いは。
凄まじい執念だった。本気で。
そのエネルギーを別に向けて欲しかった。本当に、本気で。
待ち伏せを偶然と呼び、偶然を必然と言い、必然を運命に紐付けられた時は恐怖しかなかった。
ヤバい奴そのものの発言だった。
完全に目がイッてたと思う。
なんか…。
ここでもうこっちが折れとかないとこの先なにされるかわからない、…そう思って何百回目とも知れない告白に頷いちゃったのが一年前。
頑張って四年も拒んでたのに。
とうとう受け入れてしまった。
ウィルフレッド様の想いを。
身の危険を感じて。
『………………わ、かりました…。こんな僕なんかで…良ければ……よろしくお願い、します…?』
『本当かい!?…──嗚呼ッ!ジーン!!』
人間の狂喜乱舞の限界をあの時見た気がする…。
それくらい喜んでた。
あの時のウィルフレッド様は。
今思い返しても大袈裟だと思う。
あの喜びようは。
別に人生で初めて誰かと付き合ったわけじゃあるまい…。
僕と違って。
でも…、そう。
頷いてしまったのだ、僕は。
名前を聞いてすぐにピンときた元婚約者からの告白に。
絶対に頷いたりしたらいけなかった相手だったのに。
それからの深い後悔が一体誰にわかってもらえただろう。
家族とは、自主的家門追放状態だった。
時々風の精霊経由で手紙が届けられるけど無視してた。頼れない。
だって返信したら最後、居場所がバレて強制的に連れ戻される。
正直僕はもう家には戻りたくなかった。
このなにものにも縛られない悠々自適な生活は、堅苦しい貴族の生活の何倍も快適だった。
いっそもう平民になってもいいとすら思ってる。
精々僕が契約した精霊達相手に時々こっそり話すくらいが関の山…。
それもあんまりまともに聞いてもらえない。
…なんかみんな…どうでも良さげで。
そうしてズルズル付き合ってしまったこの一年。
こんな残酷な再会ないと思う。
だってそうだろう?
僕が元婚約者だってウィルフレッド様にバレたら、またあんな思いをしなくちゃいけなくなる。
…どうして黙っていたんだと今度は面と向かって罵られて捨てられる。
僕は。
ウィルフレッド様に。
また。
だってウィルフレッド様は元婚約者が嫌いなんだから。
“貴方のような最低な人とは一緒になれない”と、僕との婚約を、送り付けて来た紙切れ一枚で破棄したのだから。
僕には心当たりなんて何もなかったのに。
…言い訳も弁明も、ひとつもさせてくれないまま。
彼はあっさりと婚約者を切り捨てた。
家の不利益になろうと、構わず。
だから…。
今回だってきっと同じだ。
どんなに愛の言葉を紡いでくれてたって、僕が元婚約者だとわかったらこの情熱だって冷めてしまうのだ。
ウィルフレッド様はまた僕を捨てる。
あっさり。
…別れの手紙、一枚で。
だから。
だから。
早く飽きて。
早く別れて。
とにかく。僕の安住の地から、僕の前から、いなくなって。
一秒でも、早く…。
僕が今以上に絆されて、ウィルフレッド様にもっと心を傾けてしまうその前に─────
祈るような思いで毎日そう願っていた…交際二度目の春。
僕は、新たなピンチを迎えていた。
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