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【2、進展なんて望まないでいただきたい】
「ほら、見てごらんよジーン。小鳥達が番を求めて囀っているよ」
「…そうですね」
「あんなに綺麗な声で鳴いて…パートナーを求めてる」
「はあ…」
「あっ!今飛んで来た二羽、もしかしてペアかな?とっても仲睦まじい…君と私のように愛くるしいじゃないか。ぴったり寄り添って木の枝に止まっているよ」
「…ですねー……」
「ねえ…どうだろう、ジーン。私達もあの小鳥達のように、そろそろ次に進んでもいい頃合いだと思うんだけど…どうかな?…というか寧ろちょっと進みが悪いと言うか、遅れてるって言うか諸々恋人なのに遅すぎる方だと思うんだけれども」
「…ウィルフレッド様。それは、つまり?」
「まぐわいたい」
「だからって急にドストレートでくるのやめてもらっていいですか?」
まわりくどい。
途中から何が言いたいのか察してたけど。
わかってて敢えて素知らぬフリしてたんだけれども。
それにしたってまわりくどかった。
そして本音があまりにも直球すぎる。
他にもっと選べる言葉あったでしょうに…。貴方、上級貴族なんですから。
ポッと頬を赤らめて。
恥じらう素振りで口にしたのは実に簡潔な欲求だった。
新しい命が芽吹く春、…が訪れて暫し。
どこもかしこもやわらかな緑色と咲き誇る色とりどりの花に包まれる穏やかな陽気。
そろそろ初夏の気配がチラつき始めた今日この頃。
僕の恋人にもとうとう、咲いてはいけない花が我慢しきれず花開いてしまったらしい。
ああ…。
恐れてたことが現実に…。
のらりくらりと躱してきたのに。この一年。
夜勤明けの疲れを感じさせない爽やかな笑顔で今朝もまたやって来たウィルフレッド様。
マメだなあ…。
いいのに。こんな毎日来てくれなくて。
本当にいいのに。来なくて。
キッチンに立つ僕を背後から抱き締め、何気ない世間話のように…そして告げられたのは先ほどのセリフ。
たまごを溶く手を止めず、言う。
「目を開けたまま寝てるんでしたら、今日だけ特別にソファ(一人掛け)を貸してあげますから…そちらでどうぞ」
「どうせなら君のベッドがいいな」
シャカシャカシャカシャカシャカ─
「絶対ダメですねぇ」
「今なら特別に私に添い寝させてあげるよ?」
シャカシャカシャカシャカシャカッ─
…それ確実に三秒後には添い寝じゃなくなるパターンですね。
しかも僕にはどこにも特別の要素はない。
墓穴は掘りたくないのでたまごをかき混ぜる音でかき消してみた。
聞こえてたけど聞こえてない。何も聞こえなかった、僕には、うん。
「もしかしてジーンはほぐすのは強めが好みなのかな?私としては初めては優しくしてあげたいんだけど…」
スルー一択の発言だ。
“ほぐして”るんじゃない。
“溶いて”るんだ。僕は。
あと食べ物で変な想像するのやめてもらいたいんですけど?
さりげなく僕を抱く腕に力がこもった。
…料理しにくいなぁ。
スクランブルエッグ作りたいだけなのに…。
フライパンに油を引いて熱する。
少し待ったらいつも以上によく混ざってる溶き卵を流し入れた。
今朝はスクランブルエッグをホットサンドにした朝食にしようと思ってた。サラダと牛乳とセットで。
普通に作ればすぐ終わる。
なのにちょっと手間取ってるのは…言わずもがな。背中に張り付くウィルフレッド様のせいでしかない。
僕だって身長は一七〇センチを超えてる。一八〇に近いくらいだ。
けどウィルフレッド様は更に背が高い。
そんな人にベッタリされる邪魔くささと言ったら……。
「あの…離れてもらえますか?出来れば半径二メートル以上」
「じゃあ今度私とデートしよう?初めてのお泊りデート」
下心しかない発言きたな、おい。
じゃあ、で繋がる要素がどこにあったのか。
「あ。結構なんで、そーゆーの」
「ジーンは慎ましやかだね。本当に。でも…いいんだよ?遠慮しないでたまには私に甘えてくれて」
「遠慮とかしてませんのでご安心ください」
「滅多にわがままも言ってくれないし。なんでも言ってくれていいのに」
「だったら今すぐご自宅にお帰りいただけますか?一人でゆっくり過ごしたいんで」
「ああ、遠回しに夜勤明けの私を心配してくれているんだね、ジーン!私の恋人はなんて優しいんだろう!」
…なんでも言えって言ったから言ったのに腕の拘束がますます強固になった。
真逆の対応。
はぁ…。
わがまま、とは?だ。ホントに…。
「でも大丈夫。これくらい全然平気だから、安心して」
「ソウデスカ。ソレハ残念デシタネ、僕ガ」
ぐりぐりぐりと頭の後ろをハゲそうな勢いで頬擦りされる。
なんでこの人こんなに話通じないんだろう…。
巷じゃ冷静沈着とかクールとか言われてるのに。
僕の前でだけその要素見当たらないの、なんで?
作ったスクランブルエッグを皿の上のパンに乗せて挟む。
ホットサンドメーカーで挟んで軽く火の上で焼けば完成だ。
食欲をそそる良い匂い。
我ながら上出来だ。
その食欲を削ぐ勢いで背後から聞こえるスーハースーハー。
貴公子なのに変態だ。
食欲減退行為はご遠慮願いたいんですけどね…?
まったくもう…。
「ねえ、ジーン? 進展しよう? 私と同棲して今よりもっと深い仲になっちゃおう、ジーン??」
耳元で囁かれる甘い声。
……頑張れ僕。負けるな僕。
この甘美なテノールにどんどこどんどこ流されて絆されて、気付けばたぶん今これ瀬戸際だ。
付き合ってても貞操の危機って表現は許されるのだろうか。
まあ…。確かに…。
一年付き合っててキス止まりっていうのも…男としては……ツライ、のか?
そこら辺の欲求、僕は薄いからよくわからないんだけど…どうなんだろう。
ウィルフレッド様が僕にとっての初めてだし。
比較できるものが何もない…。
こっちはこれ以上もう折れる気はないから無駄な懇願を今されてるわけだけど。
あ。でも。ヤらせてくれないからって捨てられる方向もありだろうか…。
ウィルフレッド様はそこまで下衆くはないと思うけど。…たぶん。
……悩んでも答えが出ない。
ここは。とりあえず。
「…ひとまず朝食にしません?僕お腹空いてるんで」
脳に栄養を与えよう。
「それは大変だ!私が食べさせてあげよう、ジーン!」
「結構です」
…二人分の朝食をテーブルに運ぶ。
…ついで。
ただのついでだ。
ウィルフレッド様の分も用意するのは。
そう、言い聞かせて。
「はい、ジーン。あーんして?」
「……いただきます」
なんだかんだウィルフレッド様のペースに引き込まれて、今朝も無駄に甘いひと時を過ごしてしまう。
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