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【3、悩みくらいは聞いて欲しい、解決策は求めないから】

「………引っ越そうかな」  物理的に距離を取ればウィルフレッド様も諦めてくれるかもしれない。  一線越えるどころか僕自身を。  悩むのに疲れて死んだ魚のような目で呟いた僕に、土の精霊ドドが言った。 《無理じゃな~い?あの人間、君の前になると纏うオーラの粘着性が急に倍増するも~ん。引っ越したくらいじゃ離れないよ~》 「…オーラなのに粘着性って、なにその性質?聞いたことないんだけど…」  普通色とか輝き方だよね?  オーラの表現って?  どうしてウィルフレッド様だけ性質なのさ??  …まあ…なんか…納得はしちゃったけど。  貴族らしからぬ小さな一軒家に僕は僕の精霊達と暮らしてる。  普通の人には見えないから傍目には一人暮らしなんだけど。  それに彼らも常に僕の傍にいるわけじゃなかった。  それこそ自由気まま。  気まぐれ。  本当は契約主が呼ばない限りは人間界に来れないらしいんだけど…うちの子達は少し特別なので、そこら辺は緩い。  決して僕がなめられてるわけじゃない。…よね??  洗濯と部屋の掃除を終えてから、僕は家のすぐ隣の畑で土いじりにいそしんでいた。  今は夏野菜のために一生懸命耕してるところだ。  狭いけど一人でやるとそれなりに大変な作業。  カッタヨータに来たばかりの頃は当たり前だけど一メートル耕すのにも苦労した。  ここは前領主にも見捨てられてた土地だった。  領地の殆どが魔獣うようよの森。  領民もギリいない。  境界線ギリギリのとこに住んでる人達はいた。お隣さんの領民。  ご近所付き合いはそれなりにさせてもらってる。  自主的に家門を追放されようと決めた時、ここを探し出して、領主も探し出して、隠遁生活がしたいからと話したら喜んで格安で譲ってくれた。  一から一人で全部やらなきゃいけないのはもちろん大変だった。  でも、楽しくもあった。  自分の新しい居場所を、自分の手で作っていくのは。  精霊達もいろいろ協力してくれたし。  だから今じゃもう慣れたものだ。  畑仕事も魔獣退治も。  それなりに快適に暮らしてる。  そんな思い入れのある地を手放すのは僕にとって非常に由々しいことだ。  正直嫌だ。  僕だって。  恋人と一線を越える・越えないなんて、そんな下らない理由で引っ越すなんて。  でもこのままだと僕の貞操が危うい。  「まぐわいたい」発言からウィルフレッド様のスキンシップが過剰に増えた。 「……どうしたら別れられるかな、ウィルフレッド様と」 《だから無理だって~》  ドドは僕が土を耕してく端から良い野菜が出来るように加護を振りまいてくれている。  水まきするみたいに。 「大体僕に一目惚れって、なに?どこに惹かれる要素ある?こんな世捨て人」 《あ~、ね~、自覚ないってこわいね~え》 「? どういう意味?」 《ここ~去年トマト植えたから~、今年はトマトだめだからね~?》 「うん。ちゃんと輪作するようにするよ。でね、ドド…」 《あーと~、今年は蔓物なんかも植えてみよ~よ~。ドド、メロン食べた~い!》 「メロン?…僕に出来るかなあ…。でも確かに食べたいよねぇ、メロン」 《でしょでしょ~》 「じゃあナスの本数少し減らす?」 《焼きナスはズーイが好物だから~あ、怒られちゃうよ~?減らすと~》 「でもそうすると植える場所が…」  毎年作る夏野菜は大体決まってる。  どれかを減らさないと、ドドの希望するメロンは植えられない。 《メロンは蔓だから~、少しくらい耕してない方に這わせてもだいじょ~ぶだよ~》 「ホント?それならいけるかな…」 《いけるいける~ぅ!》  目の高さで卵よりも小さな淡いブラウンの光が、ふよふよと浮かびながら円を描く。  光具合からも喜んでるのがわかった。  メロンの生育は決定事項になったようだ。 「それでね、ドド。ウィルフレッド様のことなんだけどね…!」 《………ま~だ続くの~?》  残念。話を逸らされてなんかあげないよ。  ちょっぴりうんざりしたような声を出したドドに、僕はまたさっきの話を続ける。  …聞いて。  いいから聞いてよ。  そんな一気に面倒くさげにテンション下げないで。  あからさまに光量落とさないで。 《もういいよ~、バカップルの痴話喧嘩は~。ドド興味な~い》 「バカップルじゃないし!痴話喧嘩とかでもないよ!?」 《ええ~?そうなの~?毎朝あんなにイチャついてて~え?》 「してないから。一方的に迫られてるだけだから!」 《おんなじじゃ~ん》 「違うよ!?」 《どっちにしろ~お、ドドは君の色恋にまで口出すつもりないから~。なんでも好きにやっちゃって~え》 「ちょっ…!ドド!」 《あんな粘着質な人間の執着物、精霊だって関わりたくな~い》  それだけ言い残して。  薄情な土の精霊は急に姿を消してしまった。  精霊界に戻ったらしい…。  ひどい…。  こんなに悩んでるのに…。  話くらい聞いてくれたっていいと思う…!  あとさりげなく僕を“物”扱いしないで。  そしてウィルフレッド様のものでもないから。 「うう…。少しくらい話聞いてくれたっていいじゃないかっ…」  僕だって別に解決策を求めてるわけじゃない。  ただ聞いてくれるだけでよかったのに。  他人…っていうか人間界の、それも契約主の恋愛事になんて物凄く興味ないんだろうなあ…。  ないよねー…。  逆の立場だったら僕だってどうでもいいって思ってるかもだ。  わかってるけど誰かに吐き出したい。僕だって。人間だから!  ……でも。それでドドに逃げられてちゃ世話ないんだけどさ…。  シーンと静かになった。  ドドが戻ったことで何かを察したのか、普段は好き勝手こっちに来てる精霊達は誰も気配を感じさせない。  …ことウィルフレッド様が絡むと僕も大概面倒くさい奴になるらしい。彼らにとって。  話し相手がいない…。  しまった。うじうじしすぎた…。  自分の失敗に、鍬片手にガックリとうなだれるしか出来なかった。

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