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第31話 なぜか間が悪いけど、俺たちはこれから
「成瀬くん、いい匂いがするね」
「おっ、はようございます……支店長」
次の日の朝、成瀬の背後から、首筋に鼻を近づけスンスンと匂いを嗅いでくる神谷に、成瀬はびくりと体を跳ねさせて動けなくなった。
「神谷さん……」
そんな成瀬の腕を引っ張って、高瀬は神谷にムッとした顔を向けた。ニコリと笑う神谷は、高瀬の肩に手を置いて、囁くように耳打ちする。
「無事でよかった。でも、最後までしなかったんだ」
クスクスと笑いながらデスクへ戻っていく神谷に、気恥ずかしいような何とも言えない表情をして、高瀬は小さく咳払いをした。
「シン……高瀬さん?」
「いいんだ。これで……」
神谷の言葉は聞き取れなかったが、高瀬の様子に何かあったのかと成瀬は首を傾げる。高瀬は気にするなと、成瀬をデスクに座るように背中を押した。
今朝、いつもより早く目が覚めた。体が重いと思ったら、高瀬が上に乗っていたのだ。成瀬が身じろぐと、高瀬も目を覚まし慌てて飛び退いた。
「悪い、右腕大丈夫か」
「大丈夫ですよ。シンさんも、体、戻ってますね」
「あ……あぁ……」
虎の模様は消え、隆起した筋肉もいつもの大きさに戻っていた。
「ちょっと柔らかくなってる……」
「んっ……くすぐったい……」
ツンツンと脇腹を突けば、ピクッと反応する高瀬の姿に、朝特有の下半身の疼きも感じて成瀬はジッと見つめてしまった。
「……ケン……」
「シンさん……」
ゆっくりと押し倒され、高瀬の唇を受け入れる。昨日と同じように、シャツを捲り上げられて、高瀬の手にまさぐられ、あっという間に体が熱を持った。
「んっ……そこ……」
「ここか?」
「あぁっ……ぁんっ……」
「mignon……」
「え?」
「いや、可愛い」
「んんっ、舐めちゃ……」
高瀬の舌が胸の突起に触れて、軽く吸われジンと下半身に響く快感を感じた。たまらず、身じろぐが、もっとして欲しい。
潤んだ目で高瀬を見たら、ニヤリと笑いながら見せつけるように舌を出してきた。その色気に、成瀬は顔を染める。
「シンさん……もっと……」
「あぁ……」
ーピピピピピピピー
無情にもスマホのアラームが鳴り、それが聞こえたのだろう満月が、リビングでガサガサと動き回り始めた。
バー半月に、ルルの笑い声が響く。
仕事終わり、高瀬と成瀬は心配をしてくれているだろうルルに報告に来ていたのだ。しかし、真剣に悩み、覚悟をして、そして無事に何もなく二人の絆が深まった話をしたのに、全て聞いた後に返ってきたのは爆笑というのは、高瀬にしてみれば不満だった。
「おい、何がおかしい」
「だって……ふふっ……だめ、ちょっと待って……あはははっ」
ルルは涙を拭いながら、腹を抱えている。高瀬は不機嫌にグラスに口を付けて、カウンターに肘をついた。その様子を見て、成瀬もニヤニヤと嬉しそうだ。
「何でお前も笑うんだ」
「だって、シンさん可愛い」
「は?」
成瀬はニヤリと笑いながらストローを取り出そうとする。
「やめろ……」
「ははっ、可愛いわよね。ほんと、据え膳食わないって……。しかも間も悪い……」
「うるさい」
それは言われなくても高瀬が一番感じていることだ。しかし、成瀬を傷つけずに一晩明かせた、この事実が高瀬にとって一番大事なことだった。
ルルにはわかってもらえると思っていたのに、高瀬は今までの友情を疑いたくなる。
「わかってる。ごめん。良かったと思ってるし、安心した」
ルルは高瀬のブスくれた顔をツンと突いてみた。
「え、うそ。触って平気なの?」
「…………もう、多分……」
ルルは高瀬に触れた指先を見つめて、唇を震わせる。
「ルルさん?」
「ケンちゃん!あなたはシンシアの王子様ね!」
ルルはカウンター越しに成瀬に抱きつき、頬擦りをする。高瀬に触れたのは、15年ぶりくらいだろう。
ルルの喜びを成瀬はよくわからなかったが、ルルに抱きつかれたまま、隣の高瀬へと体を寄せた。
ルルは勢いで、二人を抱きしめ笑う。
「わかった、離せ」
高瀬は呆れた声でルルを引き剥がし、成瀬の右腕を気遣う。そんな高瀬に、成瀬は右腕を動かして見せる。
「もう大丈夫ですよ。かなり動くようになってきました」
「リハビリ頑張ってるのね」
「はい。だから、気にせずに……」
成瀬は言い淀んで、公共の場だと口を閉じた。
「なんだ」
「いや、朝も寸止めだったから……」
「…………これ飲んだら帰るか」
「はい!」
「いや、勉強が先だな」
「えー」
砂糖よりも甘い空気を出すようになった高瀬と成瀬に、ルルは頬をひくつかせる。
ルルは服の中で胸にかかっている、シルバーリングのネックレスに触れた。
今は遠くの国で働く恋人に思いを馳せ、高瀬を見る。
クリスマスまでに帰ってきて欲しいと願い、また二人に試練が来ることを案じた。
第一章 終
第二章へ続く
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