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第30話 満月の夜、欲情する獣に呟くmignon……

 次の満月の日、成瀬は宅健の勉強を追い込まされていた。  成瀬の部屋のちゃぶ台には、問題集が積み上げられ、まるで監視のように高瀬が隣で勉強を見ている。高瀬のあぐらの中には満月が居座っていた。 「シンさん?もう、頭パンクしそうなんですけど……満月は大丈夫ですか?」  ヘロヘロの状態で、成瀬は高瀬に目線を向けた。 「まだ、夕方だ。特に問題ない」 「あー、いや足痺れてきません?」 「そっちか」  高瀬はそっと満月を撫でながら、口角を上げる。成瀬には入り込めないような二人の空気に少し嫉妬する。 「俺も、シンさんといちゃいちゃしたいし、満月撫でたいです」  結局、成瀬の腕が完治していないことを理由に、いまだに高瀬とは最後まで出来ていない。成瀬はそこにも不満があった。 「…………その問題集が終わってからだな」  積み上がった本を顎で指し、高瀬は夕飯を買ってくると立ち上がった。何ともないように動いているが、若干足の運びがおかしいことに成瀬は気付いてニヤニヤとする。 「おいで~満月~」  成瀬の膝を求めてくる満月を笑顔で呼ぶと、玄関から集中しろと言葉が飛んできた。  高瀬の買ってきた夕飯を食べ、一息つく成瀬。高瀬のおかげで、参考書の付箋の数はかなり減った。 「頑張ったな。今日はこれくらいにしとくか?」  クシャッと頭を撫でられ見上げると、成瀬の好みのワインとグラスを片手で持って高瀬が笑っていた。  なんでこんなに格好良いんだろ。  はにかみながら頷く成瀬。  気付けば満月はケージに入ってプープー寝息を立てていた。  成瀬はチャンスとばかりに、座った高瀬の足の間に体を滑り込ませる。まるで高瀬を椅子の背もたれにするように座った。 「なんだ……」 「満月の真似です」 「ワインが開けられないだろ」 「できますよ」  高瀬はまったくと言いながらも、成瀬の肩に顎を乗せ、手を伸ばしてコルクを抜く。成瀬が持つグラスにワインを注ぎ、もう一つにも。  何も言わずに、二つのグラスがリンと鳴った。 「なんか落ち着きます」 「そうだな」  高瀬はワインをちゃぶ台に置き、成瀬を後ろから抱きしめる。  外は暗くなり、満月が顔を出していた。高瀬の心音が早くなっている事に気付いているが、不思議と焦りはない。 「辛くないですか……んっ……」  成瀬が振り向くように顔をあげたら、軽く唇を合わせられた。 「mignon……」 「はい、mignon……」  成瀬はニコリと笑って、高瀬に口付ける。 「ふぅっ……ぅぐっ……」  途端に息を詰める高瀬から、虎の耳と尻尾が現れた。ゆっくり呼吸をしながら高瀬は衝動に耐えているようだ。 「悪い……少し離れろ……」 「嫌です」 「…………」  成瀬の体に回されていた高瀬の腕からは力が抜け、逆に成瀬の背に高瀬の重さが乗った。息が荒い高瀬の呼吸を治めようと、成瀬は高瀬と向き合って座り、そっと背中を撫でる。 「ベッド、行きましょう」 「………………」  高瀬は答えない。 「mignon……シンさん、俺は……怖くないです」 「………………mignon……」  高瀬は呟きながらも、金色に変わった瞳が揺れていた。 「俺のこと、抱きたくないですか」 「……………………あぁ……」  揺れていた金色の瞳が、柔らかく細くなって、短い返事をくれた。  ベッドに座り、高瀬のシャツを脱がす。半獣化した時に肌を見たことはなかったが、いつもより逞しい筋肉があり、虎の模様が肌に浮き出ていた。成瀬はその体に何も言えず、ただ見つめている。 「………………」  成瀬の視線に居た堪れなくなったのか、高瀬は目を逸らして、腕で体を隠す。 「あ、格好良いなって。見せてください」  成瀬に引き倒されるように、ベッドに手をつく高瀬。その下で成瀬は恍惚と高瀬の肌に触れる。固い隆起した筋肉に指を滑らせて、高瀬の頬に手を添え口付けをねだった。 「んっ……ぁふ……」  だんだんと荒々しげになっていく高瀬の口付けに、嬉しくなって成瀬も舌を出し絡める。もっとと思ったところで唇は離れていき高瀬の顔が、成瀬の首に埋まった。 「ふぅ……ふぅ……」  首筋に感じる荒い息がたまらなくて、成瀬は顔を背け首筋を伸ばす。高瀬の手は同時に成瀬のシャツの中に入ってきて、胸の突起に触れてくる。 「あっ……んゃっ……」  摘まれ、捏ねられ、成瀬から嬌声が上がると、ビクリと高瀬の手が止まった。 「ぁん……シンさ……」 「はぁ……はぁっ……ケン……」  成瀬の肩に顔を埋めたまま、高瀬の息は乱れ、耐えるように名前を呼ばれた。成瀬は、愛言葉を呟く。 「mignon……シンさん」 「mignon……」  高瀬も湧き上がる熱に恐怖しながら、願いを込めて呟く。 「大丈夫です。もっとしてください」  成瀬は、ズボンの上からでもわかる高瀬の昂りを、そっと膝で刺激した。 「うぁぅっ……グゥ……うぅっ……グルっ……」  高瀬はガバリを体を離し、獣のような唸り声をあげて成瀬を見下ろす。  目は鋭く金色に光り、唾液に濡れた牙をぬるりと赤い舌が舐めている。暴力的な情欲を感じるが、高瀬は息を乱しながら何もしてこない。 「mignon……シンさん」  成瀬は優しく言葉にするが、高瀬は激しく首を振った。ゆっくりと高瀬の口が首筋に降りてくる。噛まれるかな。そう思ったら、ペロリと舐められた。 「撫でて……くれ……」  甘えるような声が聞こえ、首筋に高瀬が擦り付いてきた。成瀬は左手を高瀬の背に回して、ゆっくりと撫でる。 「はっ……はっ……」 「ゆっくり息してください。苦しいでしょ」 「ふっ……ふっ……ケン……」 「はい……」 「気持ちが良い……」 「はい」  高瀬の背中は暖かく、のしかかられているのに心地が良い。成瀬は撫でる手を止めず、心地の良い体温に溶けていった。  寝室から情欲の息は消え、二人分の規則正しい穏やかな呼吸が聞こえてくる。  リビングでは、満月の小さな寝息も月夜に溶けていった。

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