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第10話 新メニューの発想は何って?舐めたら浮かぶなんて教えられるかっ
早朝、まだ空が白くなり始めた頃。
蓮は誰かが動く気配に目を開けた。
(あぁ、バルドの部屋に泊まったんだった)
目の前で、裸のライオンの獣人がベッドを降りようとしていた。その逞しい背中の筋肉に、数本の跡がついているのを見つける。そして、昨夜は強く激しい欲に包まれていたことも思い出す。
「ぁぅんっ……」
まだ身体が覚えている快感に、蓮は身じろいだ。
「あ、起こしたか。まだ寝ていていいぞ」
バルドは蓮に微笑み、そっと頭を撫でてくれた。
(何だこれ、昨日まで童貞だったくせに急にスパダリじゃねぇか)
バルドの手に指を絡めれば、手の大きさがよくわかる。
この手が昨晩、蓮の身体を弄り中心に触れて、何度も絶頂に誘っていた。
「疲れてるだろ?」
「疲れてるけど……もう少しバルドに触っていたい……」
蓮はバルドの腕を引けば、少し困った顔が返ってきた。
「蓮、良いことを思いついだんだ。厨房に……」
「お前はっ!もう少し余韻を楽しめねぇのか!……うぁっ!」
バルドの言葉に、ずっと料理のことを考えていたのかと蓮は怒り、勢いよく体を起こす。
その瞬間、衝撃に悶絶した。
「蓮っ、どうした?大丈夫か?」
「ぅっ……ぐっ……」
慌てて蓮を支えるバルドの腕にしがみついて、蓮は言葉にならない下半身の痛みに顔を歪める。
「誰の、せいだよ……」
「…………俺が、蓮を壊したか?」
本気で狼狽えるバルドは、何を思ったか蓮の身体を舐めてきた。
「なっ……何っ……んっ……」
朝特有の切なく勃ち上がったものが、蓮の中心でジンと主張し始める。
「もう、無理だぞ……」
そう言いつつも、身体が昨夜の快感を呼び起こし、バルドの舌を求めていた。
バルドはゆっくりとベッドに蓮を沈め丁寧に身体を舐め回す。
「バルド……ちょっ……盛んなよ……あぁっ……」
「蓮、痛みはひいたか?」
「あ?」
「舐めれば楽になる」
「なるかっ!どこの民間療法だよ!逆に興奮した!責任とれ」
蓮はバルドの手を、刹那げに震えている自身に導いて触れさせた。
「まだやるのか?元気だな」
「お前に言われたくないんだけど?昨日何回したんだよ」
「…………数えて無かった……」
「そう言うことじゃねぇ!……痛っ……」
バルドにつっこみを入れて、蓮の身体は再び悲鳴を上げた。
「蓮、美味いもの作ってやるから。今日はもう少し寝てろ。な?」
ニカっと笑ったバルドの笑顔に、蓮はムッとした顔を返す。
しかし、優しく掛けられた毛布の暖かさにウトウトと目を閉じ始めた。
次に目覚めたのは、開店時間ギリギリだった。
慌てて店に降りようとするも、身体の動きはぎこちなく、階段も一段づつしか降りられない。
「バルド、起こせよ……」
ようやく厨房に着いて、コンロに向かっているバルドの背中に声を掛ければ、バルドはチラリとこちらを向いて丸椅子を出してくれた。
「休んでも良いぞ?だいぶ無理をさせた」
「アホか。こんなことで休むなんて社会人としてあり得ない」
「真面目だな」
カラカラと笑うバルドは、鍋の火加減を細かく調節している。
「何作ってるんだよ。だいぶ時間かかってるな」
「あぁ、昨日の蓮の………………」
バルドは言いかけてフリーズした。
「バルド?」
「蓮……蓮……可愛かったな……」
ぶつぶつと鍋に向かって顔を赤く染め始めるバルドに、蓮は若干引きながら声をかける。
「おい?俺ここにいるぞ?バルドー?」
動くのが億劫だから、蓮は声だけで引き戻そうとするが、何を思い出しているのか、バルドは全く耳に入っていない様子だ。
蓮は調理台の上にあったゴンの実を手に取ると、シュッと大きなライオンの背中に投げつけた。
「痛い……何だ?」
「これは痛いのか。良いことを知った」
「蓮、食べ物を投げるな」
「あぁ、悪かったよ。で、話の続きだ。俺で何を思いついたんだ」
「ん?あぁ、蓮の……あの……ナニだ……」
「は?」
「ナニ……が、硬くなって、柔らかくなって……可愛いなって……」
バルドが何について話しているのか予想でき、蓮は営業スマイルのような笑顔を貼り付けバルドを見る。
「ふざけんなよ。何作ってんだお前。また卑猥な形じゃないだろうなっ!」
「卑猥っ?蓮のどこが卑猥だ!可愛かったぞ。もっとしたかったけど我慢したんだ」
「あぁ、我慢しろ。あんな激しくされたら本当に壊れる」
「蓮がもっとって言ったんだ」
「そりゃ、気持ちよかったんだから言うだろ。お前の腰の動きどんどん的確になってくから……」
「…………良かったのか?」
「あ?あぁ……まぁ、そうだな」
(あれ、なんの話だった?)
急に照れて顔を染めるバルドに、蓮は自分の体から着想を得たという卑猥な料理を止めることができなかった。
「にゃ~ん?開店準備できたにゃん。オープンして良いにゃん?」
厨房の入り口から、ほぼ棒読みで感情を無くしたチェシュの声がして、蓮はビクッと体を跳ねさせた。
次の日、蓮の体はすぐに回復し、バルドの鍋はずっとコンロでぐつぐつされていた。
何を作っているのか知らないが、営業中も鍋に付きっきりだったバルドに、蓮は少し腹が立っていた。
「鍋にやきもちかにゃん?ブフッ」
「違う」
「じゃあ、一回ヤってポイされたにゃん」
「違うわっ」
チェシュに言われた言葉は、すぐに否定したが、ジリジリと蓮の心にダメージを与えてきた。
「気になるなら、鍋の中身聞いてきたら良いんじゃないんですか?俺、聞いてきますよ」
志岐はこう言う時なぜか行動的になる。
志岐も鍋の中身が気になっているのだろう。
しかし、蓮は慌ててそれを止める。
中身は蓮の卑猥な部分から着想を得ているのだ。
無邪気に見せてくださいなんて行かせるわけにはいかない。
「えー、俺には秘密なんですか?まだ、ガキだから?」
「あ?あーんーまぁそうだな」
「…………ひどいです……」
「ひどいにゃん。志岐が可哀想だにゃん」
チェシュが大袈裟に志岐を庇い、蓮を悪役に仕立て上げる。
「もう、良いから帰れよ。片付いただろ」
細いことはやっておくと蓮はチェシュと志岐を帰らせた。
ワイングラスを拭きながら、厨房の音に耳を傾ける。
クツクツと音を立てる鍋を、時折混ぜているのだろう、カツンとレードルが鍋に当たる音がする。
それを聞きながら、蓮のイライラは増してきた。
(何だ面白くない。あいつは初めてで俺を抱いたんだぞ?もっと夢中になって、連日身体を求めて来ても良いだろ!それほどに気持ち良かっただろ!なのに鍋?いつできるんだあの料理は!俺は、もっとバルドとしたい!)
「は?」
自分の思ったことに思わず声が出た。
ワイングラスのステムを強く握って折りそうになり、そっとグラスハンガーにかけた。
一息ついて思い返せば、バルドとの一夜は蓮が今までしてきた中で一番気持ちの良いものだった。
それこそ、夢中で何度も求めてしまうほどに。
バルドの手に腰を掴まれ、強い力で加減をされながら揺さぶられる。
大きなバルドが最奥を突くたびに目の前が白くなるくらい強い快感が堪らなくて、縋るようにバルドの背中に爪を立てていた。
(あれ、痛かったよな。だいぶ傷になってた…………エロかったなあの傷……)
蓮は昨日の朝に見たバルドの背中を思い出し、カァっと体に熱が生まれるのに気付いた。
「バルド…………」
「何だ?」
急な声に振り向けば、首を傾げたバルドが立っていた。
「な、お前、急に声かけんなよ」
「蓮が呼んだんだろ?」
「別に何でもない。鍋は?見てなくて良いのか?」
「少しくらい離れても問題ない」
「それなら、もう少し……」
俺を見ろと言いかけて、蓮は口をつぐんだ。
「何だ?」
「……何でもない。帰る!」
「そうか」
サラッと言ってくるバルドにさらに蓮はイラっとする。トーションを乱暴に置き、サロンを外しながら裏口へ行こうとすると、バルドに腕を掴まれた。
「蓮……」
ふわりと蓮の背中が暖かくなった。バルドの太い腕が体に回されていて、首元にスンスンと息が掛かっている。突然のハグに、蓮は体の力が抜けた。
「バルド……」
「蓮、気をつけて帰れよ」
「は?」
「恋人なら、こうして見送るんだろ?」
(体は求めて来ないのかよ……いや、恋人って……)
「あ、あぁ。また明日……」
蓮はバルドが作り出した甘い空気に、むず痒さを感じながらも照れ笑いを浮かべて店を出た。
(こ、恋人?恋人なのか?俺ら…………は?え?バルドと?……し、仕方ないなぁ……)
蓮はニヤニヤとしながら夜道を軽快に歩いて行った。
「ちわー、コヨーテガーデンでーす」
「あ、クロップさん」
次の日、ちょうどワイン蔵から出てきた所で、蓮はクロップと出くわした。
いつものように爽やかに野菜を運び込むかと思いきや、クロップは驚いた顔で蓮を見た。
ズッと距離を詰め細い蓮の肩を掴んでフサフサの尻尾を揺らす。
「ヤったの?バルドと」
「………………」
直球な質問に、蓮は絶句する。
クロップはスンスンと蓮の香りを嗅いで、満面の笑みになり厨房へ駆け込んだ。
「バルド!やったな!ついに童貞卒業したのか!」
「~~~っ!」
クロップの声に、バルドは運んでいたゴボロをぶちまけ、慌てて拾う。続いて入ってきた蓮の顔を見て、顔を赤くした。
「はっは!俺は嬉しいよ。ありがとうなソムリエくん」
クロップはバシバシと蓮の肩を叩く。バルド程ではないが、クロップもそこそこ力が強い。蓮は苦笑しながらクロップと距離をとった。
そこに、フロアから困り顔のチェシュが入ってくる。
「にゃ~、また薫さんが来てるにゃん。蓮さんに会いたいって」
「はぁ?帰ってもらってくれよ」
蓮はそう言うが、無視をするわけにもいかないとフロアに向かう。厨房では、クロップがバルドに祝いだと野菜を大量に運び込んでいた。
「やあ、蓮くん。今日も綺麗だね」
「薫さん、開店前に来られるのは困りますよ」
「ごめんね、どうしても顔が見たくなってしまって」
薫は派手な見た目でねっとりと蓮を見つめてくる。蓮はしれっとその目線から外れるようにカウンターに入った。
「それで、調子はどうだい?」
「どうと言われても……」
「僕に抱かれる気になった?」
(こいつも直球だな)
「な……」
「なりませんよ。蓮は俺のですから」
蓮が答えようと思った言葉を、バルドが後ろから余裕の混じった声で言った。
そしてなぜか手には料理を持っている。
「でも、まだエッチできてないんだろ?だったら僕にもチャンスが……」
「それも、この前出来ました」
「え……」
「薫さん、どうぞこれを」
そう言ってバルドは持っていた皿を薫の前に出す。
蓮はあの鍋の中身かと、卑猥なものを想像し、慌てて皿の中身を確認する。
数種類の野菜が溶け込んだ芳醇なブイヨンに、こっくりとした柔らかそうな肉が乗っている皿は、何とも食欲のそそる香りがした。
「ブラックカウのスネ肉?」
「さすが薫さん」
「こんな部位、人間には噛みきれないよ」
「どうぞ」
バルドはフォークを差し出し、薫は怪訝な顔で受け取った。
「ナイフも必要じゃないのかな」
そう言って、フォークを突き刺した薫は驚く。
見ていた蓮も驚いた。
ほろほろと、肉が解けていったのだ。
目を見開いていた薫は、ゴクリと唾を飲み込んで、肉を口に入れた。
「柔らかい……噛める……」
「その柔らかさは、蓮の……」
「言うなっ」
バルドの言葉を遮って、蓮は自分も食べたいとバルドに要求した。すぐにチェシュや志岐、クロップの分まで用意され、みんなでフォークを持つ。
「うまっ……本当に柔らかいし、何種類野菜使ってんだ。味が深い……」
蓮は口の中でスープを転がしながら味わい、すぐにワインを考え出す。
(とろけるような肉の旨み……トロトロの……バルドに掻き回された時も溶けるような感覚あったな……)
口の中のスープの感触に、蓮は最中のバルドの身体を思い出し、その快感も思い出した。身じろぎそうになって、慌てて姿勢を正す。
「ん~、カララン、ゴボロ、まだまだ入ってんな」
「にゃん、スネ肉の硬さも好きだけど、このとろける感じも美味しいにゃん」
「口の中、幸せになりますね」
クロップもチェシュも志岐も、一様に顔が綻んでいた。
「蓮、美味いだろ?これに、合わせてくれるか?ワイン」
「あぁ、今考えてる。最高に美味い一皿をもっと美味くしてやるよ」
ニヤリと蓮はバルドに笑顔を向け、ワイン蔵に向かった。その笑顔に、薫は苦笑する。
「キュブルンのワインだ」
「また、華やかなものを持ってきたね、蓮くん」
「少し祝いの意味も込めて。美味いと思いますよ」
派手なオーラが若干薄くなった薫に、営業スマイルを向けながら蓮はワインを開けた。
抜栓した途端に、しっかりと熟成した渋みのある香りが広がった。
まず、バルドと薫にグラスを渡す。
一口飲んで、バルドは上機嫌に笑った。
「すごいな、蓮。肉がより甘くなったぞ。ワインも口の中でとろけてる。ははっ、最高だ」
バルドの言う通り、このワインは少しとろみがある。そのとろみは、料理を食べて思い出した、エロいバルドの身体から思い付いたのだが、蓮は顔に笑顔を貼り付けてそれは口には出さない。
「はぁ、完敗だよ。これほどの料理とワイン、君達の仲はこういうことだって言いたいんだね。仕方ない。蓮くん、バルドさんと別れたら連絡をしてくれ。いつでも待っているからね」
こう言って、薫は帰るのかと思ったら、煮込みとワインをおかわりしてきた。どうせならしっかり食べようと、全員分のグラスを用意して、蓮はサーブした。
薫におかわりの皿を持って来たバルドは、ワインを注ぐ蓮に真剣に向く。
そして、その手を取った。
「わっ、あぶねぇよ」
「蓮、これからもずっと、俺の料理にワインを合わせてくれないか。最高のマリアージュを作っていこう」
バルドの言葉に、全員が息を飲む。
(交際宣言か……)
蓮はまっすぐに見つめられる視線から目を逸らすことが出来ず、何も言えないまま顔に熱が集まるのを感じていた。
(何か、言わないと……)
「あ、あぁ、そうだな。仕事だし……」
絞り出した言葉は尻つぼみに小さくなっていったが、バルドは満足そうに笑っていた。気付けばワインボトルを持ったまま、逞しいバルドの胸の中にいて、全員の視線を浴びている。
「蓮、好きだ」
まっすぐな言葉に、蓮はゴクリと息を呑んだ。少し背伸びをして、バルドの首筋にゆっくり近づくと強めに噛んでやった。
「っ!?」
ペロリと見せつけるように自分の唇を舐めてやれば、バルドの尻尾がカウンターの壁にバシンと当たり、綺麗な穴が空いた。
「れ、れれれ蓮っ!」
ギュッと抱きしめられ、バルドは蓮のうなじをペロペロ舐めてくる。ふぅふぅと鼻息が荒い。
「我慢すんな、噛めよ」
「今、今噛んだら……」
「噛みちぎるならやめてくれ」
「ふぅ~ん……」
抱き合って笑う二人に砂を吐きつつ、みんな各々の仕事へ戻っていく。
その日の営業は、お客様全員にブラックカウのトロトロ柔らか煮が振る舞われた。
そのトロトロさは、口コミで人気になる。
しかし、バルドバールの新メニューが、どうやって生まれているのかは誰が聞いても教えてもらえなかった。
ー 第一章 完 ー
物語は第二章へ続く→https://fujossy.jp/books/31575
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