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第3話 手作り弁当大作戦♡
あれから数日。
オレは相変わらず、冬馬に怒られてばっかりだった。
洗濯物は色移りさせるし、卵焼きは黒こげにするし、勝手にベッドで昼寝してたのがバレた日は「マジで出てけ」って本気で言われた。……いや、あれはちょっと怖かった。
でも、不思議と追い出されはしなかった。
ある日、オレが洗濯物を畳んでいる時、スマホの通知音が鳴った。
「……え?ㅤさ、採用!?」
古いスマホを見ながら、オレは思わず声を漏らした。
履歴書は、正直書き方わからないから、履歴書がいらないところばかりを応募していた。証明写真代もちょっともったいないし。でももしかしたらこれ、履歴書ちゃんと書いたらオレもっとひっぱりだこなのでは? オレだってまだ若いし。
うんうん、と頷きながら、オレはたまごスープの入った鍋をぐるぐるとかき混ぜる。卵スープって楽だよな。鶏ガラの素入れるだけで簡単にできるし。……もうひとつの鍋の方は、散々だった。煮ている途中でキャベツが破れて、中身が出てきてしまっている。どうしよう、これ。冬馬、食べてくれるかな。
そう思っていたら、ちょうど冬馬が帰ってきた。
「トーマ、おかえり!ㅤもうちょっとでご飯できるから、一緒に食べよ!」
うわ、なんかこれ、いいな。番……っていうか、夫婦? 新婚さんってこんな感じ?
「あのさ」
「ん?」
ㅤ冬馬がやって来て、コンロの火を止められた。オレは思わず振り返る。
「そういうの、いらない。ていうか定期的にハウスキーパー来るし」
「……そうなの?ㅤあでもハウスキーパー雇ってるなら、俺使った方が浮くよ?」
「いい。お金、別に困ってない。あと俺、今日は同期と食べてきたから」
「どうき」
「……同じ会社の人」
「それって男? 女?ㅤほ、他のオメガとかいた?」
思わずそう聞いていた。
「……なんでそんなこと聞くんだよ」
冬馬はちょっと怪訝そうにする。
「いや、別に? なんとなく〜」
「女だけど」
冬馬は普通に答える。へらっと笑おうとして、なぜか一瞬だけ、上手く笑えなかった。
「ふーん。かわいい?」
訊きながら、オレは、あれ、なんでこんなこと聞いてんだろう。そう思った。でももう聞いてしまった。ドキドキしながら冬馬の方を見ると、冬馬はどうでもいいというみたいに、ぷいと顔を逸らした。けれどそれから、ふと冬馬は顔を上げて言う。
「別に。……なぁ、お前」
「ん?」
「やっぱ、最初から狙ってただろ」
「え?」
ㅤ冬馬はぐいとオレに近付く。
「発情期にアルファ捕まえて、番になれば住むとこも金も手に入る。俺みたいなの捕まえれば、人生変わるって思ったんだろ」
冬馬は眉間に皺を寄せたまま、低い声で続ける。
「わざとだよな?」
一瞬、オレの顔が強張る。
「……なに、それ」
「違うのかよ」
冬馬はそう言うけど、半分は本当だった。オレはしばらく黙って、それから笑う。
「……そんなつもりならさ」
いつもの軽い声なのに、少しだけ掠れていた。
「もっと、上手くやってるって」
「……どうだか」
それだけ言って、冬馬は風呂場の方へ消えていく。オレは、その背中を見送ることしかできなかった。
テーブルに並べたロールキャベツらしきものは、少し冷め始めていた。
「……いただきます」
向かいの席は、空っぽだった。美味しいとか、まずいとか、それだけでも聞いてみたかった。
一人で食べるご飯って、こんなにつまんなかったっけ。
朝四時起きにも、少しずつ慣れてきた。最初は新聞の束が重くて死ぬかと思ったけど、今は走りながら配れるぐらいにはなった。
配達に行ったあと、そろそろ掃除でも始めるかと思っていると、ふとピンポンとインターホンが鳴った。誰かと思って出ると、知らないおばちゃんだった。冬馬が言っていた、ハウスキーパーらしい。
ㅤおばちゃんは手際よく掃除と洗濯をした。オレはそれを後ろについて、見て学んだ。ハウスキーパーのおばちゃんはとてもやりづらそうにしていた。
「じゃ、私はこれで……」
おばちゃんはずっと家にいるオレにそう挨拶をして、帰ろうとする。オレは慌てて引き止めた。
「あの! 料理って、教えてもらうことできますか」
「えぇ?ㅤいやあの、そういうことは契約には……」
ㅤおばちゃんは料理は教えてくれなかった。
「そっか……」
「だって……今の若い子ならなんでもインターネットでできるんじゃ……ほら、ヨーチューブとかありますし……」
「あっ」
そこでオレはひらめいた。そうだ、動画。それなら余裕じゃん。
ㅤオレは料理の動画を見て、練習することにした。
「えーっと」
ㅤ朝起きて、新聞配達を終えたオレは帰ってきてすぐに弁当を作る。容器や袋は、事前に全部百円ショップでそろえた。百均ってマジでなんでもあるよな。この世のすべてを売ってる気がする。
そう思いながら、卵焼きってここかな、とか、隙間どうやって埋めたらいいのかな、と思いながらネットで検索した弁当の画像と見比べる。手作り弁当ってオレは食べたことないけど、こんな感じであってるのか?
そうこうしているうちに、部屋から出てきた冬馬が、スーツを着てお仕事に行く準備をしている。オレはそこにすかさず駆け寄って、手にした弁当箱を差し出した。
「冬馬、おはよ! これ、お弁当!ㅤよかったら……」
ㅤふふん、どうだ。手作り弁当ほど嬉しいものはないだろう。そう思って差し出す。
「……いらないって言ったよな」
「……あ」
ㅤ冬馬の冷たい目。一瞬しょぼんとする。手作り弁当、嫌いなのかな。なんか、作ったら喜ぶって、ネットに書いてあったぞ。そう思っていたら、手の上がひょいと軽くなった。
「えっ」
ㅤ顔を上げる。冬馬は受け取った弁当箱を、通勤カバンにしまっているところだった。
「受け取ってるじゃん」
「うるさい。食べるかどうかは別だから」
ㅤでも帰ってきたら、弁当箱は空っぽになっていた。オレは思わず冬馬に駆け寄る。
「なー、どうだった? 美味かった?」
「……別に」
冬馬は顔を顰めて、それから三歩下がる。
「卵焼き、甘すぎ。だから焦げるんだよ」
「なるほど……」
オレはペンを取り出して、メモ帳に書き込んだ。……今度から砂糖控えめで行こう。
「あと殻! じゃりじゃりで食べられない。いちいち口から出すのマジで面倒」
オレはまたメモをする。卵焼き、じゃりじゃりNG。
……これでよし。
オレが真剣にメモしていると、冬馬は一瞬だけ変な顔をした。
「……お前、なにしてんの」
「え?」
オレはメモ用紙を見せる。
【トーマ弁当改善点】
・卵焼きの砂糖は少なめ
・殻は絶対入れない
・焦がさない
「次はもっと美味くする!」
へへっと笑うと、冬馬はむっと顔を顰める。
「……だから、別に作らなくていいって言ってんだろ」
「えー、でもトーマ全部食べたじゃん」
「……捨てるのも面倒だっただけ」
「じゃあ明日も持ってく?」
「いらない」
「了解! 今度からちょっと改良して詰めるね!」
「人の話聞けよ」
冬馬は頭を抱えるみたいにため息をついて、そのまま冷蔵庫を開けた。
でも、その横顔を見て、オレはちょっとだけ気付く。
……なんか今日、昨日より怒ってない気がする。
気のせいかもしれないけど。
でも、なんかちょっとだけ。
「……へへ」
「なに笑ってんだよ」
「別にー」
明日は、卵焼き成功させよう。
そう思いながら、オレはメモ用紙にもう一行書き足して、それからぺたりとキッチンの壁に貼った。
【トーマ、なんだかんだ食べてくれる】
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