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第10話 初キスしたら結婚式になって、共同作業で卑猥なケーキ作ることになった

「はぁ……キスは初めてだったな。バルドがして来ないから」  ゆっくりと顔を離して蓮は微笑む。  唇には、まだ余韻が残っていて、どちらのともいえない湿り気を蓮は舌で舐めとった。  バルドは、放心したままで蓮を見ている。 「何だよ、気持ち良かったか?」 「い、いや……」 「ん?」 「蓮に食われるのかと……」 「は?」 「口の中に舌入れたら危ないだろ!」 「おまっ、俺らの初キスになんて感想言いやがる!」 「いや、蓮になら食べられたって良いぞ!」 「食わねぇよ!」  蓮は大きく息を吐いて、溶けてきたジェラートを見つめた。 「キスって言うんだよ。獣人はしないかもしれないけど、人間には舐める以上に親愛の情を示す行為だ」 「そう、なのか……」  バルドは、そっと蓮の肩に手を置く。 「悪かった」 「まぁ、いいよ。それより、コースメニュー出来上がっただろ。どうする?試食会するか?」 「あ、あぁ。そうだなチェシュと志岐と、クロップも呼ぶか」  試食会当日、コースの予約が入った想定で、蓮はテーブルセットをしていた。  このセットは志岐やチェシュにも覚えてもらわないといけない。 「なんか、結婚式みたいだな」  綺麗にセットされたテーブルに、バルドは笑う。 「結婚式なら、もっと豪華に花も飾るだろ。誕生日会くらいじゃないか?」 「そうか。結婚式には、どんな花を飾りたい?蓮はワインにこだわるか?」 「いや、別に式はしなくていいだろ。パーティーくらいで十分だ」 (……………………そういや、プロポーズされてんだったっけ?俺…………)  黙って目を丸くしているバルドに蓮は向き直る。  冗談で結婚式の話をしたのだろう。  蓮の言葉が意外で、照れているらしい。 「あ、蓮……その……け、けけけ……」 「いいよ、今言うな」  蓮はシルバーを置くと、そっとバルドに体を寄せた。 「今はこれで良い。俺もちゃんと返事するから」 「蓮……」  バルドの尻尾がブンブンと振られ、風を起こしている。  優しく逞しい腕に収まり、蓮はじわじわと胸の温かさを感じた。  二人が幸せを噛み締めていると、店の入り口から音がした。  そろそろみんな集まり出すだろうかと、バルドから離れ入口を見ると、小さな獣人夫婦が来ていた。気づいたバルドが、不思議そうに対応する。 「親父、お袋、どうしたんだ?どこかの結婚式か?随分綺麗な格好で」 「やだぁ、バルドの結婚式って聞いたんだけど?」 「え?」  何だか不穏な話が聞こえ、蓮はシルバーを持ち直した手を止める。  すると、裏口からもクロップの声が聞こえた。 「おーいバルドー?神父はこっちで待ってればいいか?」 (神父?)  そこに、志岐がチェシュをエスコートしながらやってくる。 「今日は本当におめでとうございますにゃん」 「呼んでいただいてありがとうございます」  バルドと蓮が固まる中、皆は笑顔で祝福ムードだった。 「おい、どう言うことだ」  蓮はシルバーを持ったままバルドに詰め寄る。  勢いがよすぎてフォークが刺さりそうになり慌てて手を引っ込めた。 「いや、俺にも何だか……」  バルドも首を傾げる。 「シェフも蓮さんも、なんでいつもの格好なんですか?二人の結婚式なのに」 「いや、今日は、新しく作ったコース料理の試食会だ」 「え?」  志岐は驚いて一、二歩後ずさった。その様子に、蓮が詰め寄る。 「お前、何か勘違いしたな?」 「えっと、ご両親への挨拶とコース料理の話をしていたから、誰を呼ぶって話もしてたし……」 「どこに話した?」 「し、商店街で、会った人みんなに……」  ごめんなさいと言う志岐の頭を撫でつつ、チェシュはニヤニヤと蓮の顔を見る。  蓮は、大きくため息をつく。 「結婚式じゃ無いのか?招待状も無かったしな。おじさんとおばさん呼んだのに無駄足させちゃったか」  裏口から入ってきたクロップは面白いほど似合う神父服で、ケラケラと笑った。 「あら、違うの?ま、良いじゃない。せっかく集まったんだし、パーティーしましょ」 「そうだね。ご飯はみんなで食べた方が美味い」  バルドの両親は明るく笑いながら、準備を手伝おうとテーブルに向かった。  蓮はとりあえず持っていたシルバーをチェシュに渡し、同じようにセットしろと指示をする。 「バルド、仕込み足りそうか?」  蓮はバルドに問いかけるが、何かを考え込んで、バルドは固まっていた。 「バルド?」 「あ、あぁ。大丈夫だ。あ、いや……蓮ちょっと……」  そう言ってバルドは蓮を引き寄せ、首筋の匂いを嗅ぐと、ペロリと舐めた。 「んっ……ちょっ……」 「ふぅ~……良い香りだ……」  ペロペロと舐めながら、時折軽く歯を当ててくる。 「おい……んっ……何してんだ……」  蓮はピクピクと身体を震わせながら、店の外からも見えるだろとバルドを剥がそうとする。 「よし、大丈夫だ」 「何がだよ」 「まだ内緒だ」  ようやく蓮を離したバルドは、ニカッと笑って、厨房へと向かった。 「ふ~ん?なんかやりそうだね、バルド」 「何を……ていうか見てないでくださいよ」 「何で?マッサージされてただけでしょ?」  ニヤリと笑うクロップは、絶対にバルドとは違う意味で舐めるという行為を認識していると蓮は思った。 「その考え、実はもう古いんじゃ無いんですか?」 「ようやく気付いた?ははっ、今ではもう年寄りとバルドくらいだよ、舐めてマッサージなんて思ってるの」 「蓮さんて実は純粋で素直なんだにゃん」  チェシュが通りがけに尻尾を振りながらカウンターへ入って行った。 「おまえっ、最初から騙したな?」  蓮はチェシュを追いかけながらカウンターに入り、ついでにグラスの準備をする。  コース料理は、バルドの両親にも好評で、特にコンフィの発想に驚かれた。 「油で煮るなんて、また変なこと考えて~」 「いやいや、美味しいよ。肉も柔らかいし、よく思いついたな」 「あぁ、蓮のおかげなんだ。蓮と二人で、じっくりゆっくり我慢してな、時間をかけて……」 「待て待て待て!」  蓮は慌ててバルドの口を塞ぐ。 「何でだ。俺は蓮の自慢をだな」 「まずは料理の自慢をしろ」 (コンフィの着想がセックスだなんて言わせられるか) 「まぁ、仲良しね~」 「良いなぁ、相棒感があって」  蓮とバルドのやり取りを見て、両親は微笑む。  そんな二人に、バルドはしっかりと姿勢を正した。 「あのな、親父、お袋、蓮は、蓮とは……結婚を前提に付き合っている!」  バルドは言い切って、鼻息を荒く、顔を染めていった。  蓮も、バルドの隣で頬を染め、そっと両親の様子を伺った。 「あら、そう」 「相棒じゃなくて伴侶か」  そうだと思ってたと両親は明るく笑い始める。 「気付いてたのか?」 「あら、私たちの鼻だってまだまだ衰えちゃいないわよ」 「あっ……じゃあ、初めから……?」 「蓮くん、バルドの匂いしてたもんな。いつの間にか童貞も卒業してて」  ビーバーのご主人は、ツンと肘でバルドを突く。  いやーと頭を掻くバルドの横で、蓮は羞恥に真っ赤になっていた。 (マジかよ、全部知られてたって……挨拶とか考えてた俺なんなんだよ……) 「だから考えすぎなんですよ、蓮さん」 「オーナーよりウブだにゃん」  緊張の糸が切れたのか、軽くめまいがしてきた蓮は、椅子に腰掛ける。 (いや、まだちゃんと二人に認められてはないか)  しっかりと言うことは言わないといけないと、蓮は立ちあがろうとする。 「そうだ、ちょっと待っててくれ」  ニコニコと上機嫌なバルドは、店内に声を響かせていそいそと厨房に入っていった。  みんなが注目する中、バルドは特大のケーキを持って戻ってきた。 「コースのデザートじゃ無いけどな、ウェディングケーキってことで……」 「は?」 (いや、待て。まだ何も両親に意思表示してないから、俺……)  綺麗に飾られたケーキに、両親は拍手を送っているが、蓮としてはちゃんとケジメをつけたい。 「あら、バルド。ウェディングケーキなのに、てっぺんには何も無いの?」 「あー、さっき考えて、クリームの滑らかさは思った通りに出来たんだけどな、デザインまでは間に合わなかった」 (滑らかさって、さっき舐められたやつか?)  蓮はおもむろに首筋に手を置く。 「じゃあさ、ソムリエくん、これを乗せてあげなよ。今朝採ってきたんだ」  クロップが渡してきたのはフニャポン。 「なんで?!」 「初めての共同作業。バルドは剥くの下手だから」 (共同作業で卑猥なケーキ作らせんなよ!) 「クロップさん、この形の意味もわかってて言ってますよね?」 「ふふっ、ソムリエくんは揶揄いがいがあるからね」 「お、いいな。蓮もフニャポンの味は好きだろ?」  バルドに微笑まれ、志岐が頬を染め、チェシュが笑い転げる中、蓮は覚悟を決めてフニャポンを剥いた。  そして、バルドの両親に向くと一息ついて言う。 「俺は、バルドの優しさに救われました。明るく少し抜けてるところはたまに腹が立つけど、俺を、誰よりも認めてくれます。バルドの隣にいたいんです。認めてくれますか?」  蓮の言葉に、店内は静まり返った。  ふふっと小さく笑い声がして、明るい笑い声が響く。 「いや~、バルド!幸せもんだな~」 「本当に、羨ましいわ。蓮くんを離しちゃダメよ~」  よろしくと、ビーバーのご主人は蓮に握手を求めてきた。  蓮は、しっかりとその手を握り、反対にもつフニャポンを、ケーキのてっぺんへと突き刺した。  ケーキの後ろで突っ立っているバルドに、ドヤ顔で笑いかけてやれば、じわじわと涙を浮かべ始めている。 「泣くなよ」 「だって……蓮……蓮が……俺は、蓮を幸せにする!」 「あぁ、俺もだ」  パチパチと、クロップが手を叩き出すと、一際大きな音でチェシュが手を叩き、鼻を啜りながら、志岐も拍手をくれた。 「その結婚待った!!」  突然店に入ってきたのは、薫だ。  派手な赤いスーツを着て、ズカズカとケーキの前に来る。  立派なケーキをまず見てしまうのは料理人のサガだろうか。  バルドはズイッと薫の前に立ち、蓮を抱き寄せる。 「今、正式に俺たちは結婚をした。待ったは無しだ」 (いや、これを正式にするな。ケーキに刺さってんのフニャポンだぞ)  心の中で突っ込む蓮に賛同するように、薫が嫌味っぽくバルドを見上げる。 「いや、これは正式ではない。蓮くんのご両親は来ていないようだが?」 「蓮のご両親には、きちんと挨拶に行く。伯爵様にそう簡単に会えないだろ」 「は?」  バルドの言葉に、薫は固まった。 「は、は?蓮くん伯爵令息なのかい?」  急に改まった姿勢になった薫。クロップと志岐も驚いたように口を開けている。 「はぁ、余計なことは言わなくて良いんだよ」 「よけいな事?俺だって蓮みたいにご両親に蓮の事を褒めちぎりたい」 「……まぁ、そのうちな」  微笑む蓮に、バルドは意を決した表情で薫を見て、ペロリと蓮の唇を舐める。 「キスは、結婚の誓いでもあるんだろ?」  不安気に聞いてくるバルドに、蓮は笑いながら背伸びをする。 「キスは、唇でするんだよ」  バルドを屈ませて、唇を合わせ、舌を絡める。  チュクチュクと音を響かせながら、薫に視線を向ければ、ため息を吐いて、椅子へ座った。 「は……これ、気持ちいいな……蓮……」 「だろ?でも、今はここまでだ。ケーキをサーブするぞ」 「あぁ」  料理人とソムリエの顔に戻った二人は、ケーキを切り分け、それに合うデザート酒を用意する。  全員で食べるケーキは甘く、クリームが溶けるように滑らかで優しい香りがした。てっぺんには卑猥なものが刺さっているが、蓮はいつかバルドが言っていたことを思い出す。  うまいかどうかだけじゃない。パン一つでも、誰と食べるかで味は変わるんだ。  蓮は改めてバルドの心が好きだなと、バルドを見上げ、口についていたクリームを舐め取ってやった。 「あ、良いカクテルが思いつきそうだ」 「ははっ、舐めると思いつくだろ?」 第二章 完 外伝へ続く

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