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八章:少年にだって気になる過去がある02

 ――ここはアケドラルと呼ばれる世界。  そんなアケドラルの北の国のやはり北には魔族が、南には人間が住んでいた。  もちろん魔族というくらいなので魔王も存在しました。  その魔王を倒そうと一人の若者が立ち上がったのです。 「私が必ず()の者を倒してみせましょう」  王の前でそう宣言する若者に、王は今度こそはと思った。  誰でもよい、見事魔王を倒した暁には金一封と自分の娘をやると公言してからというもの、何人もの勇気ある者達が立ち上がり、そして敗れた。  魔王は相も変わらずあの森の向こうでこちらの苦しむ様子を見ながらのうのうと高みの見物をしているのだ。 「あぁ、こんな事が許されるだろうか」  王は愛娘を思い出す。 「あの者はこの大地に凶禍をもたらすだけでは飽き足らず我が娘をも攫った。たとえ神が許そうともこの私が許さん」  王は立ち上がり若者へと激励する。 「()け! 勇気ある者よ! そして娘とこの国を救ってみせよ!」 「ハッ! 必ずやこの命に代えてでも!」  若者は颯爽と城を飛び出した。  魔王討伐へと旅に出た若者は、道すがら仲間を集めた。  一人は僧侶、一人は射手、一人は武闘家、一人は魔術師だったが、この魔術師が相当気難しく、神出鬼没だったが為に、ほぼ若者を含めた四人で行動を共にし、時には困っている人々を助け、彼らは魔王城へと急ぐ。  そんな旅の途中で、ある時若者は一人、不思議な泉へと迷いこむ。  そこに現れたのは捕らわれているはずの王女に瓜二つの女神だった。世界の調和を担う守り神であるはずの彼女が何故こんな場所に。  聞けば本来彼女は森羅万象の軌跡の中に自分は存在するという。しかし今はあの魔王の手によってこの無空間に隠された霧の泉に閉じ込められたのだと。  女神は言った。 『貴方にこの聖剣を授けましょう』  聖なる剣はどこか凛々しく神々しく輝きながら彼の手に収まった。  女神の加護と聖剣を手に入れた若者は彼女に誓う。 「必ずやこの国を、世界を、そして貴女を救ってみせます」  仲間の元へと戻った若者は、女神から授かった剣を振り、行く手を阻む敵を薙ぎ払い、女神の加護を受け、立ち入る事は不可能とされていた魔族の領土へも踏み入ったのだ。  そしてとうとう、仲間と共に魔王城へと乗り込んだ。 「――と、こうなる訳ですよ」  ジャック・オー・ランタンの被り物を被った男、カボチャは、そう締めくくった。  彼は昨日の晩にカインが目覚めてからというもの、ずっとこの話を読み聞かせている。  途中眠くなって二人とも寝てしまったが、まさか朝起きた瞬間に続きを読み出すとはカインは思ってもみなかった。  そのままカボチャの読み聞かせを聞きながら道中とくにこれといって困る事もなく、カボチャが指示する通りに歩き、そしてとうとう城が見える所まで来てしまったのである。 「いったい君のどこがこれに当てはまるんだ。王に依頼されたわけでも国の為でも誰かの為でも無ければ旅の仲間さえいない、女神の加護も聖剣だって。手を貸してくれるのはあろう事か魔王本人とその部下であるフザケタ頭のパンプキン男ですよ!」 「もうわかったっつーの~、てか女神と聖剣は無理があるからしかたねーだろ!」  わざわざそれを言う為だけにずっと読み聞かせていたのかと、カインは初めてカボチャに呆れた。  余程カインが勇者を名乗るのに納得がいかないのか、はたまたその児童書が気に入ったのか。 「それにしても、なんか街とか通ると思ってたんだけど、森を出てすぐに出てくるとは思わなかったなぁ」  カインは目の前に聳え立つ、本の中に書いてあったような城を見上げる。  そのカインの傍らで、読み終えた本を何処かへと消すようにしまい込んだカボチャが (街になんて入ったら、それこそ小僧の事です。絶対にあれが欲しいだのこれはなんだのあれを食べたいだの。目的も忘れてはしゃぎまくるに決まってます。そうなったら誰が大変かってこの僕です!)  と、心の中で思っていることなどカインは知る由もない。 (気付かれないよう空間を歪めて城の近くに出るようにして正解でした)  これもカインは以下略。 「それでは小僧。道案内はここまでです」 「え?」  カボチャはふわりと空へと浮遊した。 「城はもう目の前ですからね。一人で問題ないだろ」 「え!? 一緒に来てくんないのかよ~」 「当たり前でしょうが! 僕は魔王さま直属の家来なんですよ!? これから色々と準備があって忙しいんです!」 「準備?」 「寄り道しないで真っ直ぐ来なさい。それではまた」  そう言って城の方へと天高く昇っていくと、カボチャの身体が捻れるように姿を消した。 「また?」  ◇◇◇  ところで、ちょっと久々になってしまった気がするその頃の魔王はというと。 「シュケル……」 「はい、なんでしょうか魔王さま」 「…………」 「魔王さま?」  魔王は何も言わず、ただ腕を組み、天高く建てられた城の窓から外の景色を眺めるばかりだ。  近頃は暇さえあればこうしている事が多くなった。いや元からだった気もしなくもないが。  だがその腹心であるシュケルはとうに魔王の心中を察している。  さてなんと声をかけるべきかと思案していると、先に口を開いたのは魔王の方だった。 「余とした事がつい動揺してしまった」 (いつもの事では) 「あれには気付かれず話せていたろうか?」  あれと言うのはカボチャの事だ。  カインが倒れたとの知らせに、正直一番ショックを受けたのは魔王本人に違いなかった。  が、責任を感じているカボチャの気持ちも分からなくはない。魔王はここで自分が取り乱してはと、いつも以上に落ち着いて振る舞ったのだが、その心中は未だに穏やかではない。 「えぇ問題は何も、素晴らしい対応でした」  シュケルはいつもの胡散臭げな笑みを崩さずに言う。 「そうか、なら良い」  多少ホッとしたのか、肩の力が抜けたように思えた。  けれども魔王はまだ何か気になっている様子。 「ところでカボチャから連絡は来たか?」 「えぇ、万事問題ないとのことです。魔晶石を送って正解でしたね。これから城に入るとの事ですよ」 「そうか……」  歯切れ悪くそう言う魔王に流石のシュケルも首を傾げる。 「いったいどうされたんですか?」  すると魔王はばつの悪そうな顔で振り向くと、いや何と目をそらす。 「今まで一日に何十通も届いていた紙飛行機が一日一通となり、書いてある事も二言三言と少なくなり、更には最近はカボチャの事しか書かれておらず、気を失っていた間来ないのは当然としても、目覚めてからまだ一通も来ていないのだ。しかもほんの束の間とは言えこれからアイツはカボチャと離れ一人で行動するのかと思うと……」  捲し立てられた言葉に、随分と色んな感情がぐちゃぐちゃに混ざり巡っているようなのに、表情にはさほど出ていない事がシュケルにはおかしく、思わずほくそ笑む。 「いくら魔晶石を持っているとは言え、アイツの事だ。何かの拍子になくさぬとも限らんし……あぁもうダメだ」  魔王は片手で頭を抱え、うつむく。  すると吹っ切れたように顔を上げた。 「シュケル。悪いがあとは頼む」 「はい?」  大広間の窓に足をかけ、立ち上がる魔王にシュケルは意図を察した。 「私一人では荷が重すぎます。次の会談までにあまり時間はありませんので、お急ぎください」  魔王は頷くと、窓から手を離し、その場から静かに消え失せた。 「フフフ、困った方達ですね」  すると、後ろから大広間にドタバタと早足に入って来る者達が。 「な、なんだってお前がここにいるんだ!? 絶対に面白がって来るなとあれほど」 「だーかーらー! あの()を追って来たんだってば!  確かに魔王さまのとこに行くっつってたからてっきりここだと思ったんですよ! てか本当にいないのか!?」 「いる筈がないだろう? そもそも来たなら直ぐにお前のように気配で分かる」 「ハクイ様は!? ハクイ様だったら」 「あれは今遣いに出してるんだ、直ぐには戻らん」 「うわー! こんな時に限って魔王さましかいないなんて!」 「しかいないとはなんだ!」 (あれは東の方……と)  ギャーギャーと騒がしく口喧嘩しながら現れたのは、東の国の魔王と、そして空色の瞳とくすんだ|黄金色(こがねいろ)の髪を持つ人間の男だ。  その胸には紫色の魔晶石を下げている。 (東の方がああも声を荒げているとは珍しい)  東の魔王と言えば、四大国の魔王の中でも一番穏やかで理知的な男だ。懐も深いと有名でもある。  更に凄いのは東の国では人間の王、そして人間と魔族が上手く交流出来ている事にある。 (そう言えば人間と祝言を挙げたんでしたか)  あの時は我が国がちょうど凶年に見舞われ、ろくな(はなむけ)も贈れなかった。  特に人間の領土は深刻で、どうにか出来ないかと人間側から此方に話が来た程だった。  その時ばかりは参列もままならず、お相手の顔も拝見出来ずじまいだったが……。 (それにしても人間がどうやってこの島に)  シュケル達が今いるここ、アケドラル城というのは世界の中心にある小島に建てられた城である。  ここで各国の魔王が年に何度か集まり国際会議を開くのだ。  それはまるで海のように広大な湖の中心にあり、例え魔族と言えど一般の魔族では存在を確認出来もしなければ来る事も困難。  いくら邪気がないとはいえ、それこそただの人間が此処まで来る事など出来る筈もない。  そもそも人間はこの城の存在さえ、知らない筈なのだ。 「お、王様! ふ、二人とも落ち着いて!」 「「これが落ち着いていられるか!」」  二人の間に入ったのは灰色の髪に海のような青い瞳を持つ青年だった。 「マールお前か、これを連れて来たのは」  そう呼ばれた青年は「すみません」と頭を下げる。  それを見て「彼は悪くない」と人間の男が抗議しだした。中々止まらぬ論争に、痺れを切らしたのは頭を下げた魔族の青年だ。 「もう! 今は喧嘩してる場合じゃないでしょ!」 「そ、そうだな。すまない。とにもかくにも何人か動けそうな者に城内を探させる。とはいえ確率は低いだろう。そうなると此処ではない別の場所となるが」 「多分あの()と一緒に必ず彼もいるだろうから心配はないと思うけど。でもそれが確実なら絶対空を飛んで移動してる筈だ」 「うう、そんなの探す範囲が広すぎるよ。どうしたら」 「いや、方法ならある」  東の魔王のその一言で、三人は足早に大広間をあとにした。  やれやれと思ったのも束の間。  どっと大広間に各国の魔族達が雪崩れ込む。 「ここにもいないぞ」 「いったいどういう事だ?」 「くそっ、クローズ様はいったい何処に!」 「さ、サファメイさまあ~意地悪はやめて下さい~!」 「そう言えば東の方も北の方もお見掛けしないが」 「あ~なんだって四大国の魔王様方がことごとく姿をくらますんだ~」 「あ、あまりにタチが悪い、いったいあの方達を我らにどう探せと」  なんだなんだと他の小国の魔王やお付きの魔族達までもが騒ぎを聞き付け集まる。  もはや収拾がつかない状態だ。  シュケルはこれはこれはと袖で口元を隠しほくそ笑む。 「本当に()()()()()ですね」  と、自身もその場から行方をくらました。

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